第27話 海覇王

『心眼』で見た海覇王クラーケンのスキルはこの様になっていた。


英雄級ヒーロースキル:自己再生Lv5』『上級アドバンススキル:水氷魔法Lv5』『スキル:気配察知Lv8』


「主よ、この魔物は中々に面倒くさそうなスキルを持っているぞ」


 フラムも相手のスキルを確認した様だ。


「そうみたいだ。取り敢えずは二人で挟撃してみよう」


「了解したぞ。では私は右側から攻めるから、主は左側から攻撃をしてくれ。では行こうぞ!」


 フラムの言葉を合図に俺たち二人は同時に剣を構えてから高速で走り、挟み撃ちにして攻撃を行う。


 最初の一撃を入れたのはフラムだった。竜王剣を軽々と片手で振り回し、相手が迎撃のために伸ばした触腕を瞬時に切り刻む。

 それに続き、俺も剣に『金剛化』を付与しながら、もう片方の触腕目掛けて剣を振り下ろす。海覇王の身体は見た目通り防御力は低いようで、フラムと同様に切り刻むことができた。


 触腕が切り刻まれると共に海覇王から青い血液が吹き出し、俺にその血が僅かに付着する。

 俺は迷いなく『英雄級スキル:自己再生』の複写を念じ、獲得に成功したのだった。


 よし、『自己再生』を獲得できた。今まで回復手段が一切なかった俺にとっては、こういう回復系統のスキルを手に入れときたかったんだ。


 そんなことを考えている間に、海覇王の触腕はまるで時間が一瞬で巻き戻ったかのように再生していた。

 そしてその再生した触腕を即座に俺たち二人に対し、同時に叩きつけてくる。


 俺とフラムはその攻撃を大きく後ろに飛び、回避する。

 しかしこの空間は水面ばかりで殆ど足場がなく、数少ない足場に向けて飛んだため、着地点を海覇王に読まれていたのだ。


 着地する前の飛んでいる状態を狙い、追撃を仕掛けてくる海覇王に対し、フラムは足を地に着けていないのにも関わらず、腕力だけで剣を振るい、その触腕を迎え撃ったのだ。

 流石のフラムでも触腕の攻撃に吹き飛ばされるのではと、俺も同様の攻撃を受ける寸前まで見ていたのだが、流石は竜というだけあった。

 空中での迎撃だというのに相手の触腕を弾き返したのだ。


 フラムって本当にとんでもないな。もはや物理法則すら無視してないか?


 そんな事を思いながらも俺も相手の攻撃に対応する。

 流石にフラムの様な真似はできないため、魔法に頼ることにした。風魔法を使い、風の刃を作り出し触腕へ向けて放つ。もしもの事を考え、少し多めに魔力を消費し、魔法の威力を高めたのだった。

 そのおかげかは定かではないが、触腕の中央辺りから真っ二つにできたために触腕の先が無くなり、俺に攻撃は届くことはなく空振りに終わる。



 そこから三十分程、俺たち二人は海覇王の触腕、足、胴体にダメージを与え続けていたが、その度に再生されていたのだった。


 だが、俺たちの攻撃は無意味ではなかったようだ。

 三十分間、攻撃をしては再生されてを繰り返してはいたのだが、徐々に再生速度が低下しているのがわかった。


「主よ、そろそろ相手も再生するのに限界を迎えそうだぞ」


「そうみたいだ。まだ体力的には全く問題はないけど、流石に飽きてきた……」


「それには私も同意するぞ。そ・こ・で・だ、主よ、ここは私に一つ任せてはくれないか?」


「何をする気? 別に任せるのは構わないけど、危険なことはしないように」


「了解だぞ。主は少し後ろに下がっててくれ」


 俺はフラムの指示に従いフラムの後方に下がり、何をするのかを眺めていることにした。


 俺とフラムが海覇王から距離を取ると、相手は水氷魔法を使い、遠距離から巨大な氷柱を飛ばしてきたが、フラムは何やら集中している様だったので、その攻撃は俺が土壁を作ることで防ぐ。


 すると、フラムの準備が終わったのだろう。フラムから魔力の高まりを感じ、様子を伺っていると海覇王の真下に巨大な魔法陣が突如、出現した。


 魔法陣が完成するとフラムは後ろを一瞬振り返り、俺に対してニヤリとした表情を見せる。


「私の攻撃に耐えられるかな? 燃え尽きよ!」


 そう言葉を発した瞬間、魔法陣から業火が立ち上がる。

 フラムの魔法は範囲もさることながら火力が凄まじい。辺り一面は地獄の様な光景が広がり、そこにあるものを全て燃やしつくさんとばかりに炎の勢いは弱まることはない。


 そしてその様な攻撃を受けた海覇王は抵抗を見せることすらできずに、消滅したのだった。


 なんだよこの魔法の威力……。海覇王が霧となって消えたのか、それとも燃え尽きたのかさえもわからなかったぞ。というかそんな魔法があるなら最初から使ってくれればすぐに終わったんじゃ……。


 俺は呆然とその光景を見ながらも、何か納得がいかないとも感じていた。


「ふぅ。主よ、私の魔法の威力をしかと見たか?」


「ああ、凄い魔法だったよ。というか最初から使っていたらすぐに終わったんじゃ?」


「私にも考えがあったからそうしたのだ」


「考え?」


「奴の『自己再生』がどれ程まで再生し続けるのか興味があったのだ」


「……え? それだけ?」


「そうだぞ?」


 首をかしげながら「そうだぞ?」とか言われても納得できるか! スキルを獲得したのは良いけど、その後どれだけ無駄に長い時間戦ってたんだよ。


 俺は今の一連の会話で戦闘で使った体力ではなく、精神的にどっと疲れたのだった。





 その後俺たちは海覇王の魔石を拾い、下層へと続く扉の先の安全地帯で休息を取ることにした。

 俺が休憩をすることを告げる前にフラムはさっさと次の階層に行こうとしていたが、流石に勘弁してもらったのだ。


 フラム曰く、竜族は数日間睡眠を取らないことなど珍しいことではないとのこと。


 だが、俺は人間なのだ。一日くらいの睡眠は我慢は出来るが、戦闘に支障をきたしてしまうことは間違いない。そのことをフラムに説き、納得してもらったのだ。





 睡眠を取り終え俺たちは食事を済ませた後、二十六階層へと向かった。


 目の前に広がるのは見慣れたいつもの光景だ。しかし二十六階層に足を踏み入れた瞬間、何故か俺の胸がドクンと高鳴りを見せた。


「ん? どうした主よ?」


 俺が急に立ち止まったことに疑問を覚えたフラムが問いかけてくる。


「いや、ごめん。何でもない。先に進もう」


 今の胸の高鳴りは何だったんだ? 何かがこの先にあるのか?


 そんなことを思いながらも俺たちはダンジョンを次々と攻略して行ったのだった。


 ここ数日でフラムとの連携もかなり取れるようになっていた。

 俺が基本的には囮役を務めて魔物の気を引き、その隙を突く形でフラムが仕留めていく。もちろん、スキルを獲得するために俺も攻撃をすることは忘れない。


 後、新たに獲得した『自己再生』のスキルの検証も行った。流石に、大怪我をするのには抵抗があったため、あえて掠り傷程度のダメージを貰い、スキルを使用したのだ。

 結果は『自己再生』を使えば即座に怪我を治すことができたが、万能なスキルという訳でもないこともわかった。


 一つ目は想定していた通りだったが、ダメージを受けた際に痛覚は消えていなかった。痛みを感じるということはいくら再生ができるとはいえ、ダメージを負った時には動きが鈍ってしまう。なので、ダメージを無視した攻撃をすることは難しい。


 二つ目は怪我の度合いによって『自己再生』を使った際、魔力の消費量が増えることが判明した。しかもなかなか馬鹿に出来ないほどの魔力を持っていかれるのだ。検証をした感覚から何となくだが、腕を一本再生するのに今の俺の魔力量では五回再生できるかどうかといったところだろうか。


 ただ、やはり『自己再生』を持っているか、いないかの差は大きい。危険を犯すつもりは毛頭ないが、保険という意味合いでは戦闘時に精神的な余裕を生む。もちろん油断をするという意味ではなく、過度の精神的圧迫感を和らげることができ、戦闘に万全の精神状態で挑むことが出来るという意味合いだ。




 そんな検証をしつつ、ついに俺たち二人は二十九階層へとやって来た。

 そこでいきなりフラムが思いもよらぬ事を言い出した。


「すまぬが主よ。急用が出来てしまった。一度私は竜族の元へ帰らねばならなくなった。おそらく数日は戻ることができないかもしれない」


「そういえば、戻らないといけなくなるかもしれないって言ってたか」


「本当に危険な時は契約紋に魔力を注いでくれ。すぐにでも召喚に答えてみせるぞ」


「わかった。でもなるべく迷惑を掛けたくないから本当に危険だと判断した時にそうさせてもらうよ」


「ああ、用事が済んだらすぐに戻ってくるぞ! では行ってくる」


 そう言ってフラムは足元に魔法陣が現れてから光の粒子となり、消えていった。


 ここからは一人か……。でも最近はフラムに頼りきりだったし、久々に一人での戦闘もやらないとな。




 俺は少し寂寥感を覚えたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る