第26話 フラムの実力

 俺とフラムは二十一階層への階段を下りながら、互いの能力についての話をしていた。


「フラムはやっぱ竜な訳だし、かなり強いの?」


「んー、正直な所、全力を出したこともなければ、最近に限っては戦闘自体もしてないからよくわからんぞ。とは言っても私より強き者などそうはいないだろうが」


 まあ竜が常日頃から暴れてたら、今頃この世界の人間なんて滅んでいるかもしれないしな。


「それで、すばり聞くけど、どんなスキルを持ってるの? これから一緒に戦うわけだし、フラムがどんな戦い方をするのか把握しておきたいんだよね」


「フフフ、それは見てからのお楽しみとしようぞ。そちらの方が面白いとは思わないか? 主よ」


 いや、それじゃあ連携も取れないんだけどな……まあいいか。


「じゃあそういうことにしとくよ。でもフラムは武器を持ってないみたいだけど、素手で戦うつもり?」


 竜なら素手でも強そうだ。


「その事なら心配しなくてもいいぞ。ちょっと待っててくれ」


 そうフラムが告げると歩みを止め、手を開きながら前に出すと、地面に小さな魔方陣が現れた。すると、まるで地面から黒い大剣が生えてくるように出現した。


「これが人の姿を取ったときに使っている私の武器だぞ。名を『竜王剣』と呼ぶ」


 フラムはかなり重量がありそうな竜王剣を軽々と肩に乗せ、そのまま歩き出した。


「武器を召喚したのか。そんなスキルは今まで見たことがなかったな」


「主は腰に装備したその剣とナイフで戦うのか?」


「そうだよ。後は簡単な魔法が使えるけど魔法は正直あまり期待しないで欲しい」


「主ほどの魔力量があれば、強力な魔法が使えそうなものだが」


「レアリティの低い魔法スキルしか持ってないから、どうしても魔力効率が悪いんだ。だから基本的には近接戦闘をメインにしてる」


「なるほど。そう言うことならその方が良さそうだ。それで主よ、主はとても興味深いスキルを持っているみたいだな」


 フラムは何だかワクワクしているような雰囲気で俺に尋ねてきた。


 まあフラムは仲間だ。俺の隠蔽を破って情報を見ているみたいだし、ここは『血の支配者ブラッド・ルーラー』の力について教えよう。


「たぶんフラムが興味を持っているスキルは『血の支配者』というスキルのことだと思う。このスキルの力は主に、相手の血に触れる事でスキルを一つだけ複写し、獲得できるって能力なんだ」


「それは凄い能力だな! 流石は私の主なだけはあるぞ!」


 かなり興奮した様子で、瞳を輝かせながらこちらを見てくる。そして何故か急に顔をハッとさせ、俺にこう告げてきた。


「だが、私のスキルは複写させないぞ。それだけは断固拒否する!」


「無理にするつもりは始めからなかったけど、どうして急に?」


「私のスキルを主も持つことになったら、私の存在価値が薄れてしまうからな!」


 なるほど、そう考えた訳か。意外に可愛らしい考え方をするみたいだ。何だか微笑ましい。


 フラムの発言に俺は笑いを堪えることができず、つい笑い声を漏らした。


「主よ、笑うでないぞ!」


「ごめんごめん。そんな事をフラムが考えたなんて思ったら微笑ましくなっちゃって」


「ふんっ! 主よ、私は少し先に行って準備運動でもしてくる!」


 フラムは照れ隠しの為なのか、つかつかと先へと進み、魔物と一戦交えることにするみたいだ。

 俺もその後ろを遅れながら、小走りで着いていくのだった――。





 フラムの戦い方はそれはもう凄かった。俺は戦闘に参加せず、ただ呆然とその姿を眺めているだけになっている。


 二十一階層からは今までの階層とは違い、ダンジョン内がかなりの広さになっていて、そこかしこに池などの水源があり、水性生物の様な魔物が出現する。

 今フラムが戦っている魔物はワニに似た外見だが、その大きさはまるで大型の恐竜だ。

 そんな魔物を既にフラムは十体は倒していた。その倒し方は至極簡単。装備している大剣で真正面から一刀両断。ただそれだけだった。


「フラム! ちょっとストップッ!」


「どうしたというのだ? 主よ。ようやく体が温まってきた所だったのだぞ」


 本当にまだ準備運動だったのか。


「いや、俺にも少しは戦わせてくれ。俺の能力はさっき言っただろ? 色々な魔物からスキルを獲得したいんだよ」


「ふむ。そういうことなら仕方ないな。私は主の戦い方を観察するとしようぞ」


 それから数分後、ワニの魔物が一匹俺の前に現れた。それを俺は魔法を使わずに剣だけで仕留めることにする。

 まずは相手のタックルの様な噛み付きをわざとギリギリのタイミングで回避し、上顎と下顎を切り離すような一撃を加えた。

 しかし、その一撃だけでは仕留めきれないことは分かっていたため、即座に次の攻撃を仕掛ける。魔物が痛みでもがいていた所をその背中に乗り、剣を頭に突き刺して戦闘は終わった。


「流石、主だ。見事な立ち回りだったぞ!」


 褒められて少し照れる。

 ちなみにワニの魔物からは『スキル:水耐性』を手に入れた。


「俺もフラムみたいに一撃で仕留められればいいんだけど、剣が折れるんじゃないかと思うと、こういう戦い方になるんだよね」


「ん? 主は『金剛化』というスキルを持っているみたいだが、それを剣に付与すればいいではないか?」


 スキルを剣に付与? そんなことができるのか?


『金剛化』のスキルは物理攻撃耐性の上昇というスキルだが、要は防御力を上げるという効果だ。それを剣に付与すれば確かに折れる可能性は低くなるだろうが、しかし付与の仕方が分からない。


「どうやったらスキルを剣に付与することができるんだ?」


「簡単だぞ。自分に剣を身体の一部だと思い込ませるだけだ」


 そうアドバイスされ、実践してみることにした。


 目を閉じ集中する。剣を自分の身体の一部だと己自身に暗示をかける。

 

 すると、剣がほんの僅かに光を纏い始めた。


「おお! 出来てるではないか、主よ」


 しかし、そう簡単にはいかないようだ。

 少し集中を途切れさせた瞬間に剣の光が霧散していった。


「うーん。集中すれば出来るけど、まだ実戦では無理そうだ」


「それはいずれ出来るようになるさ。実践あるのみ、だぞ」



 それから数日をかけ、実戦で『金剛化』の付与を使いながら戦闘を行っていき、遂に完璧に習得することができたのだった。


 その練習をしながら次々と階層を下りていたため、いつの間にかに二十五階層の扉の前までたどり着いていた。


「フラム、この扉の先にボスと呼ばれる魔物がいるんだ。たぶんかなり強いと思う。協力して頑張ろう」


「それは楽しみだぞ! まあ私たちが一緒に戦えば負けることなんてありえないな!」


 凄い自信だ。確かにフラムはここまでおそらく、全力すら出さずに余裕を持って魔物を倒していた。フラムが今回のボスではどんな戦い方をするのかを俺は少し楽しみにしている。


「よし、じゃあ行こうか」


 俺は扉を手で押し開く――




 扉の先は今までのボス部屋とはまるで違った光景が広がっていた。今まではただの広い空間だったが、今回は地面が殆どなく、水面が広がっていたのだ。


 俺とフラムが足を踏み入れると、突如その水面から巨大な軟体生物が現れた。

 その姿はまさにイカだ。八本の足に、二本の触腕を持つ魔物で、その表面は様々な色に変わりながら、ぬらぬらとした光沢がある。


 即座に俺は『心眼』を使用する。




 その魔物の名前は『海覇王クラーケン』――




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