第24話 合成獣
扉を開きその先に居たのは、頭部は獅子で胴体が山羊、そしてその尾からは蛇が生えていて、足先には鋭い爪を持つ大型の獣であった。その体長は優に10メートルは越えている。
その魔物は俺を視認すると共に、まるで侵入者を威嚇するかのように雄叫びを上げ、こちらを見下す。
俺は今まで倒してきたボスとは格が違うと、その風貌を一目見ただけで確信した。
かなりやばそうな雰囲気がするぞ。これは最初から全力でいかないと危険だな。
まずは『心眼』使い、相手の情報を確認をすることにする。
魔物で
そのスキルの能力は、自身に生物を融合させる力とスキルを融合させる力みたいだけど、宝の持ち腐れ感がすごい。
何たってここには他の魔物は存在しないし、冒険者も誰一人として来ていないのだから、融合させることの出来るものがないし。
ただ、もし俺がここで負けて融合されてしまった場合は、さらに強くなっていくことになるのか。
この合成獣はどんどんと強くなる可能性を秘めてるってことだよな。そう考えると俺が初めての挑戦者で良かったかもしれない。
そんなことを僅かな時間で考えながらも、俺は一切気を抜かずにミスリルのロングソードを構え、相手の動きを注視する。
互いに睨み合いながら、円を描くようにジリジリと歩み、攻撃に移るタイミングを計る。
最初に動いたのは合成獣だった。
強靭な筋力から生み出される脚力で一気に間合いを詰め、持っている鋭い爪で俺を引き裂かんとばかりに攻撃をしてくる。
俺はその攻撃を剣で受け流し、その前足を剣で切り裂く。
前に戦った亀の魔物ほどではないけど、かなり硬いな。足の腱を斬って機動力を落とそうかと思ったが、この様子じゃ傷は浅かったみたいだ。
合成獣は足を切られると、危険を感じたのか一瞬で後方へ飛び、俺との距離を取る。
そしてまた睨み合いが始まるかと思ったが、合成獣は口を大きく開け、そこから火炎を放射状に俺へと向けて放ってきた。
それを俺は咄嗟に土魔法を使用して巨大な土壁を作り、火炎を防ぐ。
火炎のブレスは広範囲に広がりを見せていたので移動して回避するのは難しいと判断したからだ。
しかしこの判断は仕方がなかったとはいえ、大量の魔力を消費してしまう結果になる。
俺の土魔法は所詮ノーマルスキルのため、魔法を行使する際の魔力効率が悪すぎるのだ。
しかし俺ほどの魔力量があったからこそ、巨大な土壁を生成することができた。通常の『スキル:土魔法』持ち程度の者では、石の礫を出すことができる程度が関の山で、土壁を作ることなど不可能だろう。
そして数十秒ほどで火炎ブレスが止む。
土壁で相手の火炎ブレスを防ぎきると、次は俺が攻撃を仕掛ける。
合成獣の脚力にも勝るほどの速度で間合いを一気に潰し、相手の前足をすり抜けて胴体の真下に移動し、そこから剣を上に向け突き刺す。
俺はさらにそこから剣を両手で握り、合成獣の腹部を剣で突き刺した状態から大きく切り裂く。
大量の血を浴び、『
合成獣はあまりの痛みに雄叫びを上げながらもすぐさま移動し、再び俺との間合いを空ける。
しかしその腹部からは大量の血が流れ続けたままであり、血液を失い続けることによって足元が僅かにふらついていた。
俺に間合いを詰められるのは危険だと判断した合成獣は、そこから火炎ブレスでの攻撃をメインに切り替え、俺を近付かせないことに専念し始めるのだった。
それに対して俺は土壁を作り火炎ブレスを防ぐが、やはり魔力の消費量が多すぎるため、何か別の手はないかと思案し、そして一つの案が思い浮かぶ。
俺はその案を実行することにした。
まずは土壁をさらに横へと広げ、火炎ブレスを土壁で完全に防ぎきる。その間に俺はロングソードを鞘に戻し、その土壁から横へ高速で飛び出した。
そして火炎ブレスを吐くために開けた合成獣の大きな口へ向かって、新たに腰から抜いたナイフを投擲したのだった。
投擲したナイフは俺の狙い通りに火炎ブレスの横スレスレを通りながら合成獣の口へと吸い込まれ、喉に突き刺さる。
ナイフが刺さると共に合成獣は火炎ブレスを吐けなくなり、痛みのあまりか、その場で激しく地面を踏み続け、俺を完全に視界から外してしまう。
その隙を逃す俺ではなかった。
俺を見失った合成獣は辺りを見渡し、どこにいるのかと探している間に俺は既に合成獣に近付いており、そこから大きく上へと飛び、合成獣の眉間に剣を叩きつけた。
その一撃で合成獣は絶命し、霧散していくのだった。
なんとか倒せたけど、ほとんど魔力が空っぽになっちゃったな。
というかもし、安物の剣だったら絶対に勝てなかった。安物の剣だったら止めの一撃で折れちゃってただろうし。
俺は安堵しながらも、いつもの様に倒した魔物の魔石を拾いに行く。
すると、いつもなら魔石が一つ落ちているだけのはずのそこに、白い革で装丁された一冊の分厚い本が落ちていたのだ。俺はすぐさまその本を拾い、確認する。
まさかこれって
確か何かしらのスキルを習得することができるっていう本だったはずだ。でも俺には『
これで俺も大金持ちだ。
何を買おうかなー。王都とかでちょっと大きめな家でも買って悠々自適な生活を送るのも悪くないな! で、たまにギルドで依頼を受けたりするのも――
俺はそんな妄想を延々と繰り返しながら、もう一つのドロップ品である魔石をアイテムボックスに入れ、下層へと続く扉を通り抜けるのだった。
その日は魔力をほとんど空っぽにしたこともあり、扉の先にある安全な空間で一晩を過ごすことに決める。
今日はここで飯を食べてから寝ることにするか。ダンジョン攻略に使える日数も残り少なくなってきたし、本当はもっと進みたいけど休憩も大切だよな。
ダンジョンを進むには時間が掛かるが、帰りは一瞬で地上に戻ることができるので、残り十日と少しで進めるだけ進むことに決める。
ダンジョンから出る際には、ボス部屋を越える時に通る扉に触れながら「帰還する」と念じるだけで、ダンジョンの入り口である神殿の様な建物付近に転送されるという話をアーデルさんから俺は聞いていたのだ。
その後、飯を食べ終えてからすぐに就寝することにした。
俺は叡智の書をアイテムボックスには入れず、腕の中に抱えながら寝ることにする。
その俺の行動は、当たった宝くじを銀行に換金しに行く人と同じ行動原理だ。盗まれる可能性などほとんどゼロだと言うのに、急に周りを警戒して行動してしまうそれだった。
俺の場合は前人未到の地に居るにも関わらず、叡智の書を抱えているが、大金が手に入る寸前なのだ。心配しすぎても仕方のない事だと自分に対して言い訳をしながら眠りについた。
起床した瞬間、俺は焦りに焦っていた。
その焦燥の原因は叡智の書を抱き抱えたまま眠りについた事だった。
叡智の書には本が開かないようにボタンで本が閉じられているのだが、俺が起きてから叡智の書を確認するとそのボタンが外れていたのだ。
……は? ……え? 何でボタンが外れているんだ!? というか何で俺はアイテムボックスに入れておかなかったんだよ!? まさかこれで叡智の書を使ったって扱いにならないよな!?
俺は困惑を通り越し、もはやパニックに陥っていた。
それも仕方のないことだろう。大金が手に入る寸前で水の泡となって消えてしまった可能性があるのだから。
パニックを起こしているせいでさらに馬鹿なこと重ねてしまう。
叡智の書がどの様に使用されてしまうのか、わからないのにも関わらず本の中身を見て確認しようとしたのだ。
そしてパラパラと本の中身を確認する馬鹿な俺がそこには居た。
本の中身はどうなってる!? ……良かった! 良く分からなけど特に使われたってことは無さそ――
そう安堵した瞬間、本が光輝き始める。
まじで止めてくれ! 俺は叡智の書を使うなんて意思は持ってないのになんで本が光始めてるんだよ! 神様! 助けてください!
俺はもはや神にすがっていた。
後々、冷静になった時にこのことを振り返ると、この世界の神様はおそらく、あの少し性格の悪いラフィーラなのだ。もしこの場に彼女がいたとしても笑っていただけに違いない。
この時はその事を露程も考えず俺はその光が収まるのを祈るだけだった。
そして俺の願いが通じたのか、光は収まっていく。
……えっ!? 助かっ……たのか?
俺は意を決してもう一度本の中身を確認する。そして俺はショックの余り、一時間以上気を失ったのだった。
本の中身を最初に確認した時は、様々な魔方陣の様なものが各ページに描かれていたのだが、光が収まった後に確認した時には本の中身が綺麗さっぱりと消え、まっさらで何も書かれていない、ただの紙の束となっていたのだ。
俺は目を覚ますと、夢だったのでは? と一瞬考えたが、目の前に転がっているまっさらな本を見て、こんな残酷なことが現実だったのだと再確認させられた。
終わった……。俺の家が、悠々自適な生活が……。
俺は途方に暮れ、何事もやる気が出なかったのだが、どうせならどんなスキルを
探した結果、俺が獲得した覚えのない一つのスキルを発見する。
そのスキルは――
『
というスキルだった。
そのスキルを見て、更に俺の絶望感は増した。
というか伝説級スキルよりも、俺は大金の方が欲しかった……。 それなのに上級スキルとか……。
俺は絶望を通り越して、もはや思考することさえも放棄し、壁に寄りかかりながら灰になっていた。
そこからさらに数時間が経ち、ようやくほんの僅かに気力を取り戻すことができた。
そして俺は決心したのだ。
この鬱憤を『召喚魔法』に全てぶつけてやる! と。
俺はスキルを頭の中で起動し、戦闘で消費した魔力が完全に回復しきっていたこともあり、己の大量の魔力を一滴も残さず注ぎ込む。
すると目の前の地面に赤く発光した魔方陣が現れ、赤い閃光が周囲に迸っていく。
それでも俺は魔力の供給を止めることはない。何故なら自暴自棄になっているからだ。
魔力の供給をさらに行うと次に大地が大きく揺れ始める。
そして全ての魔力を注ぎ込みきった俺は魔力が無くなったことで再び気絶していくのだった。
そして意識が途切れる寸前に若い女性の声が聞こえてくる。
「ん? どこだここは? というか私を召喚した者はこの倒れている者か?」
俺はその言葉を聞いたのを最後に、返事をすることもできず目を閉じたのであった。
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