第23話 階層の主

 その巨大な蛇の魔物の外見は、赤い眼に黒い皮膚、そして鋭く光る大きな二本の牙を持っていて体長が異常なほど巨大なこと以外は通常の蛇となんら変わりはない。


 俺は戦闘に入る前に『心眼』を使い、魔物の情認を確認する。


 魔物の名前は黒毒蛇ポイズンサーペントと言うのか。スキルは『スキル:毒ブレスLv8』と『スキル:蛇眼じゃがんLv6』の二つ持ちだけど、正直俺の相手になるような能力ではなさそうだ。


『毒ブレス』の能力は文字通り毒の息を吐くという力で、『蛇眼』の方はというと、対象と視線を合わせた際にほんの僅かな時間、硬直させるというものだった。


 要は目を合わせずに戦えば問題ないということだな。

 まずは魔法などは使わないで剣だけで戦ってみるとしよう。


 俺はそう決断すると、黒毒蛇より先に動き出す。

 相手の毒ブレスを貰わないよう、直線的には走らず横移動しながら徐々に距離を詰めていく。

 すると黒毒蛇は毒ブレスを使わず、自らの長い尻尾を横凪ぎにし俺を吹き飛ばそうと試みるが、それを冷静に上へジャンプをして回避する。


 魔物の体が大きいこともあって、攻撃モーションも分かりやすいし、何よりも攻撃した後が隙だらけだなぁ。所詮は最初に出てくるボスってことで大して強くないのかも知れない。


 横凪ぎの攻撃を回避した後、自分の身体能力の高さを生かし黒毒蛇の身体の中間地点あたりに飛び乗り、そこから頭まで駆け上がる。

 それに気付いた黒毒蛇は俺を振るい落とそうと、頭をがむしゃらに動かすが時すでに遅し。

 俺はすでに頭の上に乗っていて後は剣を突き刺すだけの状態だった。


 剣を刺した瞬間に大量の返り血を浴びてしまうかと思ったが、黒毒蛇は即死したためなのか、一瞬で霧のように消えていき、俺は足場を無くしたが余裕を持って着地することができた。


 黒毒蛇が一瞬で霧のように消えてしまったため、俺はスキルをコピーできなかったと悔やんだが、突き刺した剣の先には僅かに血が付着しており、その血に触れることで『スキル:蛇眼Lv6』を獲得したのだった。


 数分も掛からずに終わったな。まあ所詮は五階層のボスだし、こんなものなのかな。


 俺は簡単に倒せたことに呆気無さを感じながらも黒毒蛇のドロップ品を探したが、残念ながら通常よりも大きな魔石が一つ落ちていただけで他には何も見当たらなかった。


 すると奥に設置されていた下層へと降りるための入り口となる扉がひとりでに開く。

 すぐに閉まってしまうかもしれないと思い、俺は駆け足で開いた扉を通り、さらなる下層へと向かうのであった。


 六階層へと降りると、そこは今までの階層と何も変わらない光景が広がっていた。唯一違う点を挙げるとするならば、ダンジョン内の温度がかなり上昇していることくらいだ。日本の真夏よりも遥かに暑いと感じる。


 かなり暑い……。こんな所に長時間居たらすぐにバテて倒れてしまいそうだ……。



 俺はこまめに魔法で水分を補給しながらダンジョンを攻略していく。そしてダンジョン内を迷いながらも、なんとか七階層にたどり着き、その階層でさらに数時間迷っている最中に、他の空間とは明らか温度の違う涼しい空間を見つけた。

 その空間の中央には、白く光る水晶が設置されている。


 ここが話に聞いた安全地帯みたいだ。ようやく休むことができる。歩き疲れたみたいなことはないけど、流石に暑いのは精神的に来るものがあった……。でもまさか安全地帯が涼しい空間になっていたとは良い意味で予想外だ。


 この日はここで食事をしてから眠ることにしたのだった。




 その日を境に、俺は破竹の勢いでダンジョンを攻略して行った。

 当初は暑さで困り果てていたが、魔物から『スキル:熱耐性』を手に入れてから、暑さを感じない適度な体温を維持することができるようになり、そこからは自分の体力にものを言わせてダンジョン内を高速で走りながら攻略していったのだ。


 ダンジョン攻略のタイムリミットは約一ヶ月程しかないため、必要最低限にしか魔物との戦闘は行わず、道中新たな魔物を見つけた際には『心眼』を使い、所持スキルを確認し、必要性を感じないスキルしか所持していない場合は無視をしてダンジョンの攻略速度を上げていった。


 そして十日程でついに二十階層へと続く階段を発見する。


 ここまで来るのに五、十、十五階層でボスと呼ばれる魔物と戦闘をしてきたが、特段強いと感じた魔物はいなかった。


 十階層の魔物は火魔法を使いながら高速で移動をするゴリラの様な魔物で、おそらくはその素早さに冒険者たちは苦戦するはずなのだが、俺の場合はむしろこちらの方が速度を上回っていたため、ただのちょこまかと動くゴリラの魔物という程度でしかなかった。


 十五階層の魔物に関してはとにかく硬い魔物だった。

 巨大な亀の魔物で甲羅に対しては、物理的な攻撃が一切通らないほどの硬度だった。なので甲羅への攻撃をやめ、甲羅から出ていた頭部に狙いを変更し、剣で切りつけたのだが、僅かに傷をつける程度のダメージしか与えることができなかった。


 その理由が『上級アドバンススキル:金剛化』というスキルを持っていたためだ。

 このスキルは打撃、斬撃などの物理攻撃耐性の上昇という能力なのだが、まさか甲羅だけではなく全身にまで適用されるスキルとは思わなかった。


 俺は僅かに与えた傷から『金剛化』というスキルの獲得はしっかりと行う。


 その後どうやって倒すのかを考えた結果、火魔法で蒸し焼きにすることにし、倒すことができたのだった。

 この亀の魔物は魔法が使うことが出来れば、比較的簡単に倒せる。俺のレベルの低い火魔法でもあっさりと倒せたところを見る限り、魔法に対する抵抗力は低いのだろう。


 十九階層までの道中はこの様な戦いをしてきたわけなのだが、問題はこの先の階段の下にいる二十階層のボスだ。


 この先の階層はアーデルさんから聞いた限り、誰も攻略していない前人未到の地で、その魔物の姿すら、確認されていないらしい。


 そこで俺はふと、思うことがあった。


 何で十九階層までは攻略されているのに、誰も二十階層の魔物に挑まないんだろう? ここまで来たのなら普通はボスに挑もうと考えると思うんだよな。


 そんな事を考えながらも俺は二十階層へと続く階段を降りていったのだった。


 階段を下り終え、その目の前の光景を見て、先ほど考えていた疑問が解消される。


 なるほど、だからここまで攻略したのに冒険者たちは引き返すことにしたのか。


 何故そのように俺が納得したのかというと、目の前にある扉が今までの扉とはまるで違っていたのだ。

 今までに見てきた扉は鉄のような色をした何の装飾もない、ただの大きな金属の二枚扉だったのだが、この階層の扉はまるで違う。


 扉の材質は変わらないだろう。しかし、この扉にはまるで地獄の扉を想像させるような彫刻や装飾が施されていた。

 悪魔のような姿の彫刻が扉の中央にあり、そしてその悪魔の周囲に大量の骸骨が蠢く様子が彫られているのだ。


 これは確かに不気味だ。明らかにここから先は今までとは違う雰囲気がある。この扉を見た冒険者が引き返して行ったのも頷ける。


 しかし、俺はここから引き返すという選択をしようとは思わなかった。

 それは何故なのか自分にもわからない。ただ、この先に行ってみたいと思ったのか、それとも強い魔物と戦いたいと思ったのか。




 そして俺は意を決して、その不気味な彫刻がされた地獄の扉を開けたのだった。

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