第14話 移動と野営と魔法
俺たちパーティーの目的地への移動は順調そのものだった。
ハルトが事前に村までの安全なルートを調べて来たことと、俺のスキル『気配察知』で魔物に出会わないように移動しているからだ。
目的地に向け移動を始めた最初の方は、ジェイクとハルトは多少の緊張もあったのか会話も少なく、慎重になりすぎなくらい警戒をしていたが、移動をしているうちにだいぶ緊張もほぐれたのか徐々に会話も増えてきていた。
そんな中、俺はというとあまり緊張はしていなかった。
今はリーブルの北にある森の中を移動しているのだが、この辺りはホーンラビットを狩っているときに散策したこともあり、ほとんど魔物がいないことを知っていたからだ。
やはり大きな街の近くの森ということもあってか、魔物はあまりいないのだろう。
歩き始めて6時間ほど経ち、暇だと思い始めた俺はハルトに話しかけることにした。
「ハルトは魔法を使えるってことだけど、魔法ってどんな風にしたら使えるんだ?」
移動の最中にずいぶん会話をしたことで俺は、ある程度の仲になったジェイクとハルトにはかなり砕けた話し方になっていた。
「難しいですね。どんな風にですか……」
ハルトは少し悩んだ素振りを見せる。
「前提として、魔法はどんなに小さな魔法でも体内に一定以上の魔力量がなければ使えないというのは知っていますよね?」
そのことはリディアさんから説明されて知っている。
「それは知ってる。魔力量の少ない者はどんなに頑張っても魔法を使えないって」
ただ、魔力量が上昇するスキルをなんかしらの方法で手に入れられれば話が変わるかもしれない。
「それで何故、魔力量が少ない人が魔法を使えないのかというと、体内にある魔力を感じ取れるほどの量がないからなんです」
「ということは、魔力量が一定以上ある人なら感じ取ることができると?」
「そうなりますね。魔法というものは体内にある魔力をイメージで変質させて、それを具現化したものなので、一度コツを覚えてしまえば後は簡単なんです。それでどうやって魔力を感じ取るのかなんですが――」
ハルトは俺に近づき、両手を前に出すように指示してきた。するとハルトも同じ様に両手を前に出し、俺の手のひらと合わせる。
「ん? これはなんなんだ?」
「これは一番簡単に魔力を感じ取る方法なんですが、僕がコースケさんの手のひらに魔力を流し込むことで、魔力とはどんなものなのかを感じてもらう方法です。ただ魔力量が少ない人だと僕の魔力を感じることはできるんですが、その後に自分自身の魔力を感じ取ろうとしてもできないのですけどね」
そうハルトが言うと横からジェイクが話に加わってきた。
「俺は小さい頃にそれを何度もハルトとやったけど、自分の魔力ってのがどうしてもわからなかったから魔法を諦めて、自分が元々持っていた『スキル:剣術』を鍛えることにしたんだぜ!」
ジェイクには魔法を使う才能がなかったため剣術の鍛練をしてスキルLv3まで努力したってことらしい。
「ジェイクの話は置いといて、今からコースケさんに魔力を流すので、魔力というものはどんなものなのかを感じてみて下さい。ではいきます」
するとハルトの手のひらを伝って何かを感じる。血液ではない何かが体内に流れる様な感覚だった。そして体内に流れ込んでくる魔力と思われるものは下腹部あたりに集中している。
ハルトが魔力を流してくれたおかげか、俺は少し集中するだけで自分自身の魔力を感じることに成功した。
「どうですか? 僕が流した魔力を感じることができたはずです」
「ありがとうハルト。ハルトの魔力だと思うものをなんとなくだけど感じ取れたよ」
俺は自分自身の魔力も感じ取れたことはあえて伏せておく。
俺がどんなスキルを持っているか詮索はされないとは思うが興味を持たれるかもしれないと思ったからだ。
「今僕が流した魔力の感覚をいつか自分の中で感じることができるようになれば、後はイメージの力で魔法を使うことができますよ。ただ魔力量が一定以上ある人でも、魔力を感じるのはかなりの集中力と練習が必要ですけどね」
普通の人は今のだけでは簡単に魔力を感じることができないのか。俺がすぐに自分自身の魔力を感じることができたのは、俺の中にかなりの魔力量があったからかな。
歩き続けて更に数時間が経ち、辺りは日が沈み始めてきた。
ここまでは順調な速度で移動していて、このまま行けば明日の夜には目的地であるゴブリンが出たと依頼のあった村に着くだろう。
「ジェイク、コースケさん、そろそろ完全に暗くなってきますし、野営の準備を始めましょうか。ちょうど近くに小川が流れていて開けた場所がありますから」
「わかった! 準備が終わったらすぐに飯にしようぜ! かなり腹が減った」
ジェイクは移動の疲れより空腹の方が問題のようだし、俺もそれは同じだ。身体能力が向上してからというもの、肉体的な疲れはほとんど感じないようになってきている。
「そうしようか。俺は近くで燃えそうな枯れ木を拾ってくるよ」
そう言い、俺は野営をする場合の周辺で落ちている枯れ木を拾い始めた時に『気配察知』で何かの気配を感じた。
魔物かな? すぐ近くに気配を感じるし見てくるか。
気配を頼りに近づいてみるとそこには狩り慣れたホーンラビットが佇んでいた。
干し肉と固いパンは持ってきているけど、それだけじゃ物足りないしここはこいつを晩御飯のおかずに足すことにしよう。
俺はそう決意し、いつもの様に一瞬で間合いを詰めてホーンラビットをナイフで仕留めた。
そして枯れ木と仕留めたホーンラビットを抱えて、ジェイク達の所へ戻る。
「ホーンラビットがいたから狩ってきた。みんなの晩飯の足しにしよう」
「流石コースケだぜ! あの二つ名は伊達じゃないな!」
ジェイクはおかずが増えたことが相当嬉しいのか、明らかにテンションが上がっていた。というか二つ名のことは忘れてほしい。
「コースケさん、ありがとうございます。テントの設置も終わりましたし、次は火を起こしましょうか。僕が火を
「俺はこれでも魔物を捌くのは得意なんだぜ!」
そういいジェイクはかなり慣れた手つきでホーンラビットを捌き始める。
ハルトの方はというと枯れ木をまとめ、それに火をつける。しかしその火のつけ方は道具などを使わずに、手のひらから出た小さな火を使っていた。
「ハルト、それは魔法で火をつけているのか?」
「そうですよ。とは言ってもこの程度の魔法なら魔力がある人ならスキルがなくても使えます。こういう戦闘に使えないような威力の魔法は、生活の一部でよく使うので生活魔法と呼ばれているんです」
生活魔法が使えれば結構便利そうだ。俺も今度練習してみようかな。
その後全員で飯を食べ終え、明日の予定を話始める。
「明日は日の出と共に出発しましょう。順調に行けば、明日の夜までに目的の村に着くことができますから」
「それじゃあ少し早いけど寝るとするか! それで見張りの順番はどうする?」
ジェイクに見張りの順番を聞かれ、俺は最初に見張りをやることにする。
体感時間的にはまだ夜の9時にもなっていない時間で、ここまで歩いてきたと言っても、まだ眠くなる時間ではなかったからだ。
「順番なら俺が最初に見張りをするから二人は先に寝てくれ」
「コースケ、悪いな! 正直俺は飯を食い終わってから眠くてしょうがない」
「ありがとうございます。それじゃあ見張りは三時間で交代ということで、コースケさん、僕、ジェイクの順で見張りをしましょう」
「三時間で交代ってことだけど俺は時計を持ってないんだ。どうやって三時間を計ればいい?」
この世界の小型の時計はかなり高価だ。おそらく二人も持っていないだろう。
「それなら僕が道具を持って来ているので大丈夫です。といっても魔道具なんかではなく、ただの砂時計ですけどね。この砂時計は一時間でちょうど砂が流れ落ちるようになっているので、それを見張りの人は三回繰り返すということで」
ハルトは本当に用意周到なやつだな。こうなることを予想して砂時計を用意するなんて俺は思いもつかなかった。
その後ハルトから砂時計を渡されて、二人はテントの中へ入っていった――
気を抜いてはいけないが見張りはかなり暇だ。まだ見張りを始めてから一時間しか経ってないし。
俺は焚き火へ枯れ木を足しながら何かすることはないかと考えていると、ふとハルトから魔法の使い方を習ったことを思い出した。
暇だし魔法が使えるかやってみるとするか!
俺はまず最初に目を瞑り、体内にある魔力を感じ取る。ここまでは簡単にすることができた。
次はその魔力をイメージによって具現化させるって話だけど、まずは水をイメージしてみるか。
水をイメージした途端に体内にある魔力が活性化し、体内の魔力が僅かに減少するのを感じると、手のひらから水が出て来た。
おお! 結構簡単に出来たぞ。これが魔法を使うって感覚か! やばい、楽しい!
ただ、魔法系のスキルを持っていないからか、やっぱり戦闘で使えるようなものじゃないかな。
水量は蛇口を全開にした時くらいの量だ。でもこれからは水を購入する必要はなくなりそうだしかなり便利かもしれない。
俺はそんなことを考えている最中もずっと手から水を出し続けていた。それも燃えている焚き火へ向けて。
消えかけている火に気付き、慌てて水を止めるが時既に遅し。
ため息を吐きながら俺は新しく火をつけるための枯れ木を集めにいくのだった。
ちなみに火つけるときは魔法を使ったのだが、魔法で火を出すこともあっさりと成功した。
そうこうしているうちに見張りをする時間は終わり、火を消すなどという馬鹿なことをして精神的に疲れたこともあり、ぐっすりと朝日が昇るまで眠りについたのであった。
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