第13話 臨時パーティー

 冒険者ランクがEランクになった次の日の朝、俺は今日も今日とて冒険者ギルドへと足を運んだ。


 するといつもとは違い、ギルドに入った途端に周りの冒険者が俺のことをチラチラと見始め、何か囁いている声が聞こえる。

 俺は少し気になり、その声に耳を澄ませてみることにした。


「……おい、『漆黒の兎を狩る者ラビットハンター』が来たぞ」


「あいつ、昨日Eランクになったらしいな」


「冒険者になってから一週間もかからずEランクとはかなりの速さだ」


「まあ、あれだけホーンラビットを狩っていれば、Eランクにもなるだろうな」



 今の話に出て来た『漆黒の兎を狩る者ラビットハンター』って俺のことだよな……? 何そのダサい二つ名……かなり恥ずかしい。


 俺はここ三日間で100匹近くのホーンラビットを狩っていたが、まさかこの様に呼ばれているとは思いもしていなかった。こんな二つ名が定着しては堪らない。


 Eランク冒険者になったことだし、ホーンラビット狩りは卒業することにしよう。


 そう考えた俺は依頼が貼られている掲示板へと向かい、何か良い依頼が何かないかと探す。

 EランクになったことによりDランクの依頼までは受けることはできるが、慎重な俺は自分のランクより上の依頼を受けようとは考えてはいない。


 うーん、どうしようかな。ここ最近はお金を稼ぐことをメインに依頼を受けていたけど、所持金は結構あるし、そろそろ戦闘経験を積める様な依頼でも受けてみるか。


 いくつか依頼書をみているとその中の一つに「ゴブリンの討伐」という依頼が目に入る。

 依頼内容は、近隣の小さな村にゴブリンが複数現れ、被害が出ているために討伐してほしいという依頼で、達成報酬は銀貨30枚。


 正直、ホーンラビットを一日で30匹以上狩れる俺からしてみるとあまりいい報酬とは思えないが、今回は戦闘経験を積むことを目的としているので、とりあえずこれを受けてみることにした。


 俺は依頼書を剥がして受付へ持っていき、職員に依頼を受けることを伝えた。


「この依頼を受けるから手続きをお願いするよ」


 依頼書と一緒に冒険者カードを職員に渡す。ちなみにランクがEランクに上がったが、カードの色が変わるなどのことはなかった。

 聞くところによるとCランクからカードの素材や色が変わるらしい。カードの色が変わることが上級冒険者の証ともなるので、それが冒険者としてのステータスになるとのことだ。


「こちらの依頼ですね。確認致します。……申し訳ございません。こちらの依頼は三名以上のパーティー限定の依頼となってまして、お一人ではこの依頼を受けることができないのです」


 職員の女性は依頼書の一文を指差しながらそう俺に告げる。確かにその一文には「三人以上のパーティー限定」と書いてあった。


「そうだったんだ。でもゴブリンってそんなに危険な魔物なの?」


 ゴブリンといえば、漫画や小説などではスライムに次ぐ最弱の魔物っていうイメージなんだけどな。


「ゴブリンは知能が低く、単体ではとても弱い魔物ですが、繁殖力と成長速度が異常に早く、集団で襲ってきたり、強力な特殊個体が生まれやすいこともあり、駆け出し冒険者にとっては危険な魔物なのです。なのでゴブリンが発見されたらすぐに依頼が出され、早急に倒すことになっているのですよ。ただ、ゴブリンは魔石しか売れる部位がないので、人気のない依頼なのです」


 確かに依頼料と魔石しかもらえないんだったら人気がないのも頷ける。それでも俺は戦闘経験を積みたかったから依頼を受けたかったな……。


「なるほど、一人だと危険だからパーティー限定なんだね。なら諦めて違う依頼を――」


 俺がそう言いかけた瞬間、背後から俺の言葉を遮る声が聞こえた。


「それなら俺たちもEランクだし、臨時でパーティーを組もうぜ! 『漆黒の兎を狩る者ラビットハンター』!」


 そんな声が後ろから聞こえ、振り返るとそこには二人組の俺よりも若い少年たちがいた。


 っていうかその二つ名で呼ぶのはやめてください、お願いします!


「えっと、君たちは一体? それとその『漆黒の兎を狩る者ラビットハンター』って呼ぶのは勘弁してほしいな」


「俺の名前はジェイクっていうんだ! で、もう一人は俺と一緒にパーティーを組んでる幼馴染のハルトだ。せっかく格好いい二つ名なのに呼ばれるのを嫌がるなんて変わってるやつだな」


 全然格好良くないからね? こんなのを格好いいなんて思う君が変わってるよ!


 そんな事を思っていると、もう一人のハルトと呼ばれていた少年が俺に話しかけてくる。


「僕がハルトです。ジェイクがいきなり声をかけてしまってすみません。それと、二つ名で呼ばれたくないとのことですが、それでは何とお呼びすれば?」


 ジェイクは茶髪をツンツンと立たせた髪型で、いかにも活発そうな少年だ。それとは対照的にハルトは黒髪を綺麗に整え、メガネを掛けた落ち着いた雰囲気を持つ少年だった。


「俺のことはコースケって呼んでほしい」


「わかった! コースケなっ! それでさっきの話なんだけど、俺たちと臨時でパーティーを組めばちょうど三人になるからその依頼を受けられるって話よ!」


 んーどうしようか。パーティーを組むつもりはなかったけど、戦闘経験は積みたいし、臨時ってことなら組んでみてもいいかもしれない。何事も経験だ。


「それなら臨時でパーティーを組むっていうことで。いいかな?」


「おうよ! この依頼の間だけだけど、よろしくな! それじゃあ受付のお姉さん、依頼の受注を頼むよ!」


 こうして俺はジェイク達と臨時パーティーを組んで、ゴブリン討伐の依頼を受けることになった。




「コースケ、依頼の相談をその辺の空いてるテーブルでしようぜ!」


 ジェイクはそう言うと、一人で先に空いているテーブルに向かっていく。

 俺はその後に付いていく途中でハルトから声を掛けられた。


「コースケさんすいません。ジェイクが強引に話を進めてしまって……」


「気にしないでいいよ。俺もこの依頼を受けたいと思っていたしね」


 ハルトはかなり礼儀正しい少年みたいで、かなり好感が持てるやつだ。ジェイクも多少強引な所はあるけど悪いやつではなさそうだし、俺としても文句はない。


 俺達三人はテーブルにつくと、さっそく依頼の相談を始める。


「ゴブリンが確認された村は、リーブルから北に向かって徒歩で2日ほどの距離がありますので、野営の準備は必要ですね」


 結構距離があるな……。馬に俺は乗れないから馬車で行けるか聞いてみよう。


「結構距離があるけど馬車を使ったりは?」


「少し遠回りになりますが、馬車で村まで行くことはできます。ですが、馬車に乗せてもらう費用などを考えると歩いていった方がいいでしょう」


 俺は今回の依頼でお金を稼ぐことにはあまり執着していないけど、二人は俺とは違うだろうし、ここは歩くしかないか。


「それなら歩いて行こう。村に行くまでの道中で魔物が出たら協力して倒すとしようか」


「魔物が出たら『スキル:剣術Lv3』を持ってる俺に任せろ! 俺の剣技で全部倒してやるよ!」


 ジェイクは剣を振るマネをしながら自信満々にそんなことを言い始めた。


「ジェイク……。自分のスキルを言いふらす様なことはしない方がいいって何度も言ってるのに……」


 ハルトは呆れながらジェイクに軽く注意をしているが、あの様子からすると普段からよくあることみたいだ。


「別にいいだろっ、コースケとは臨時だけどパーティーを組んだ訳だし、役割分担しやすいじゃん!」


「はぁ……わかったよ。コースケさんはご自分のスキルを僕達に言ったりしないでいいですからね? ちなみに僕はどういうスキルかは言いませんが魔法を使いますので、役割的には後衛になります」


 まあハルトは杖の様な武器を持っているから魔法を使うということは予想できていた。


「ハルト、気遣いありがとう。俺はナイフを使って戦うから役割的には前衛か中衛だけど、それは状況を見ながら判断するっていうことでいいかな? 後は依頼が完了した時の話になるけど、依頼報酬とゴブリンの魔石を換金したお金は、きっちり三等分で構わないよね?」


「はい、それでお願いします。ジェイクもそれでいいよね?」


「おう! 俺もそれでオッケーだ!」


 こうして話し合いは終わり、明日の朝9時に冒険者ギルド前で集まってから出発することになった。


 ちなみにこの世界にも時計は存在しているが、小型の時計はかなり高価らしく、基本的には街の中央にある時計台を見てリーブルの住民は生活を送っている。




 俺はジェイク達と別れた後、明日からの依頼に備えて寝袋や食料、水などを購入しに行ったのだった。


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