第12話 乱獲

 街に戻ってきた俺は、ホーンラビットを両手に持ったそのままに冒険者ギルドへ向かっていた。

 両手に魔物を抱える姿は多くの人々の目を引き、小さな子供にまで指をさされる始末。かなり恥ずかしい思いをしながらも、俺は黙々と歩き続ける。


 なんで獲物を入れる袋を持っていくという発想が思い付かなかったんだ。俺の馬鹿っ!


 恥ずかしい思いをしながらも、ようやく冒険者ギルドに着き、さっそく依頼の報告とホーンラビットの納品を行うため、受付に向かった。


 そこにいたのは今朝のギルド職員ではなく、副マスターであるリディアさんであった。


「あら、コースケ君じゃない。依頼の報告に来たのかしら……って、その両手に持ってるのって、もしかしてホーンラビット? それと、なんで袋に入れずにいるのよ」


 やっぱりそこを突っ込みますよね。わかってますよ! 俺が馬鹿なんて……。


「ははははは……狩った後のことを何も考えなかった結果が、両手にホーンラビットってことだよ」


「……あなた、どこか抜けてるところがあるわね。まあそれより、そのホーンラビットは依頼で狩ってきたのよね? 良く狩ることができたわね。大変だったでしょう?」


「最初の一匹を見つけるまでは、かなり時間が掛かったけど、二匹目はすぐに見つけることができたし、ラッキーだったよ」


「私が言いたいのはそういうことじゃなくて、見つけてからのことだったのだけど………。まあいいわ。それより納品と依頼の報告だったわね。ホーンラビットは査定をするから少し待ってて」


 査定ってことは肉の品質が落ちたりしていると報酬が減ったりするのかな。血抜きしといて良かった。


 数分ほどそんなことを考えながら待っていると、リディアさんが戻ってきた。


「待たせたわね。今回はホーンラビット二匹で報酬は合わせて銀貨6枚よ」


 ん? 依頼表には一匹銀貨2枚と書いてあった気がしたんだけど、何故か報酬額が増えている。金額が間違ってないか聞いてみるか。


「依頼では一匹につき、銀貨2枚じゃなかった?」


「それは最低買い取り価格よ。あなたの持ってきた物はしっかりと血抜きされてたおかげで、品質が落ちてなかったから買取価格が銀貨3枚になったのよ」


 ということは血抜きをするだけで報酬が1.5倍にもなるわけか。これはかなりおいしい依頼だ。あと数日はホーンラビットで稼ぐことにしよう。


「それとホーンラビットに魔石が残ったままなのだけど、それもこちらで買い取ってもいいのかしら?」


「え? 魔石?」


「あー、知らなかったのね。魔物には必ず身体のどこかに魔石が存在するのよ。その魔石は魔道具を動かすエネルギーになったり、他にも様々な利用価値があるから取引されているのよ」


「そうだったんだ。それじゃあ魔石もギルドで買い取ってもらうよ」


「わかったわ。それじゃあホーンラビット二匹で銀貨6枚とその魔石を合わせて銀貨8枚ね。それと冒険者カードに依頼を達成したことを記録するから出してちょうだい」


 そう言われ、冒険者カードをリディアさんに渡しつつ、今回の報酬について考える。


 ホーンラビットの魔石一つで銀貨1枚か。一匹あたり銀貨4枚も稼げるとは、これはさらにやる気が出たぞ!


 そうこうしているうち、カードへの記録が終わったのかリディアさんからカードを返してもらい、報酬の銀貨8枚を受け取った。


「それじゃあ俺は行くよ。この後色々と買い物したいしね」


「コースケ君、初めての依頼が上手く行ったからといって油断しないようにね」


「わかってる。俺は自分では慎重な性格だと思ってるし、そんな危険なことにならないよう注意するよ」


 俺はそうリディアさんに告げた後、冒険者ギルドを後にした。



―――――――――



「おいリディア、今話していた男は?」


 リディアは背後からいきなり女性の声をした人物に声を掛けられた。


「急に後ろから話しかけないで下さい。驚くじゃないですか、マスター」


 リディアに話しかけてきたのは、この冒険者ギルド商業都市ルーブル支部のギルドマスターである女性だった。


「それは悪かった」


 謝罪の言葉を口にしながらも、その女性は悪びれる素振りはない。


「マスターが上の部屋からこちらに来るなんて珍しいこともあるんですね。私の仕事を手伝ってくれる気にでもなりましたか?」


「ハッハッハッ! 仕事を手伝うかどうかは置いといて、私はさっきの男に少し興味を持ったのだが、リディアは何か知っているか?」


「コースケ君のことですか? つい昨日冒険者になったばかりの新人冒険者ですよ。でもどうして彼に興味を? というか、さりげなく仕事のことを誤魔化さないで下さい」


「まあ彼には少し気になるところがあってな……仕事に関してはリディアに任せる。これでも私は忙しいのでな」




 そういい彼女はリディアに軽く手を振ってから階段を上がっていく。そして誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「まさか、この私でも一部がなんてな。なかなかに面白い。しかしながらそれでいて――危ういな……」



―――――――――




 俺はギルドから出た後さっそく雑貨屋へ行き、狩ったホーンラビットを入れるための麻でできた大きめの安いずだ袋を5つ購入し、次の日から三日間『気配察知』を使用しながら、ひたすらホーンラビットを狩りに狩りまくった。


 毎日ずだ袋がいっぱいになるまで狩りをし、それを納品する日々を送っていた中、三日目にしてホーンラビットではない別の魔物と出くわした。


 その魔物は毒々しい紫色をした2メートルはある蜘蛛の魔物で、糸を上手く利用し、俺に対して立体的な動きで攻撃を行ってきたが、大した強さの魔物ではなかった。

 木の上から俺の死角をついて体当たりを行おうとしていたところを『気配察知』で蜘蛛が襲ってくる気配を察知し、体当たりを横に避けたところをすれ違いざまにナイフでその後頭部を突き刺し、一撃で仕留めたのだった。


 仕留めた後、蜘蛛のような魔物を持って帰ろうとも思ったが、蜘蛛なんてあまり触りたくはないし、気持ちが悪いので魔石だけを取って放置することに。


 蜘蛛の魔物を倒した際にわかったことがある。それは人や動物などの赤い血液ではない生物でも『血の支配者ブラッド・ルーラー』が発動するということだ。

 俺は今回の戦闘で『スキル:毒耐性Lv3』を手に入れることができた。




 その後、いつもの様にホーンラビットをずだ袋がいっぱいになるまで狩りをし、ギルドに報告と納品をしたのだが、その際に俺の冒険者のランクがEランクに上がったことをギルド職員から告げられた。


 ちなみに倒した蜘蛛の魔物はDランクの魔物だったらしく、その魔石は銀貨20枚で買い取ってもらえた。

 魔石を換金した際に、ギルド職員から一体どうやって倒したのかと聞かれるなど一悶着あったが、そこはいつものように笑いながら誤魔化したのだった。


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