第11話 初依頼

 冒険者ギルドに着いた俺は冒険者がごった返している中、依頼が張られている掲示板の前に立ち、良さそうな依頼を探していた。


 ええっと……薬草の採取に、街の清掃、あとは店の店番か。冒険者ってまるで何でも屋みたいじゃないか。


 やはり冒険者になりたてのFランクだと、まともな依頼は少ないようだ。しかも武器屋でナイフを購入してから遅れて冒険者ギルドに来たので、報酬が良く簡単な依頼は次々と他の冒険者によって取られてしまったようだ。


 次からはもう少し早く来なくちゃな。


 そんな中で一つ、良さそうな依頼を発見した。依頼内容は『ホーンラビット』と呼ばれる魔物を狩猟し、その肉を納品する、と言うものだった。

 報酬はホーンラビット1匹につき銀貨2枚。薬草の採取の報酬は一つ銅貨15枚と少なく、この依頼はFランクで受けられる依頼としてはかなり稼ぎが良い。


 俺はこの依頼を受けることに決め、依頼書を受付に持っていった。

 残念ながら受付にはリディアさんは見当たらなかったので、適当な職員のところへ行き、自分の順番が来るまで列に並び、待つことにした。



 その後、ようやく自分の順番が来て、自分よりも若い女性ギルド職員に持ってきた依頼書を渡し、依頼を受けたいことを告げる。


「この依頼を受けたいんだけど、どうすれば依頼を受けることができるかな?」


「それなら依頼書と一緒にギルドカードを提出して下さい」


 そう言われ、ポケットから銀色のカードを出して、受付の職員に渡した。


「お預かりしますね。えっと、ホーンラビットの肉の納品依頼ですか……。ちなみにこの依頼を以前にお受けしたことはありますか?」


 ん? 何故かこの人、少し渋い顔をしたけど、何か問題があるのかな?


「依頼自体、今日初めて受けるんだけど、この依頼は何か問題があったり?」


「冒険者になってから初めて依頼を受けるんですね! それでこの依頼なんですけど、ホーンラビットの肉はかなり需要があって、常に依頼が出されているんですよ。でもこの魔物は人を襲うことは滅多になく危険は少ないんですが、その代わりに警戒心が強くて、見つけることができてもすぐに逃げてしまって、それはもう、狩ることがとても難しいんです」


 なるほど、だから報酬が他の依頼に比べて高いのか。


「ただ、狩るのは難しいのですが、とても弱い魔物なので依頼のランクがFなんです。でもこの依頼は常設依頼ですので、もし納品できなくてもペナルティなどはないので安心して下さい」


 ペナルティがないなら別に失敗してもいいんだし、ここは依頼を受けてみよう。


「それならその依頼をやってみるよ。それで聞きたいことがあるんだけど、ホーンラビットの外見と生息地を教えてもらえないかな?」


 すると職員の子は机の下から、かなりの厚さがあるファイルを取り出し、ホーンラビットの情報が載っているページを開いてこちらに見せてきた。

 そこにはホーンラビットと思われる絵が描かれていた。


「この絵の様に、ホーンラビットは一本の角が生えていて、体長が50センチほどの白いウサギの様な魔物なんです。生息地は森の中なら大体どこにでもいるのですが、この街の北にある森でよく目撃されているので、そこへ行くのがいいと思いますよ」


「わかった、ありがとう。さっそく行ってみることにするよ」

 

「それでは冒険者カードをお返ししますね。それと今後もこの依頼を受けるのでしたら常設依頼ですので、受付に来なくても大丈夫ですよ。肉を納品する際に冒険者カードを提出してもらえれば貢献度はちゃんと増えますので」


 その後、俺は冒険者ギルドを出てから近くにあった雑貨屋で水と保存食を買い、街の北門から森へ向かった。






 森についてから1時間ほど経ち、ようやく一匹目のホーンラビットを見つけることができた。俺は見つからないように木の裏側で身を隠しながらホーンラビットの様子を観察する。


 やっとのことで見つけたんだ。ここは慎重に気づかれないようにしなくちゃ。


 俺は音をたてないように腰からナイフを取り出して、機をうかがっていると、ホーンラビットは急に顔を上げ、俺の顔を見るや否や、かなりの素早さで逃げ出した。


 はやっ! って、なんでバレたんだ!?


 追いかけても追い付けるとは思わないが、せっかく見つけた獲物を逃したくないという一心で追いかける。


 しかし、良い意味で期待が裏切られた。

 自分の想像を遥かに超えた速度で走ることができたのだ。そして、みるみるうちにホーンラビットとの距離が縮まっていく。その速さは100メートルを5秒程度で走り抜けられるほどだろう。


 そして、ついにホーンラビットとの距離がゼロになる。勢いそのままに首の付け根あたりをナイフで上から突き刺し、一撃で仕留めることに成功。

 それとほぼ同時に、ホーンラビットの血が手に付着した瞬間、身体に異変が生じた。


 全身の血が一気に駆け巡るかの様に身体が熱を持ったかと思うと、頭の中で言葉が浮かんだ。


『スキル:気配察知Lv1』


 これはあれか!? 『血の支配者ブラッド・ルーラー』の能力でホーンラビットのスキルをコピーして獲得しようとしてるのか?


 俺はそう判断し、心の中で獲得すると強く念じた。すると身体の熱が瞬く間に退いていく。


 これでスキルを獲得できたのかな? あっ、そういえばホーンラビットを倒したんだった。これって血抜きとかしたほうがいいよな……。


 どうしようかと悩んでいると、ふといい方法が思い浮かぶ。『血の支配者ブラッド・ルーラー』の能力で血流操作があるのを思い出したのだ。

 物は試しでホーンラビットに手を近づけ、スキルを使うと念じると、傷口から血が一気に抜けていく。


 これは便利な能力だ。これからも魔物を倒したら、こうやって血抜きをしていこう。……ちょっとグロいけど。


 そんなことを考えている最中、近くに何かがいる気配をなんとなく感じる。その気配の先に近づいてみると、そこにはホーンラビットが一匹佇んでいた。


 なんとなく気配を感じて来てみたけど、これが『気配察知』のスキルの効果のようだ。


 俺は新たに見つけたホーンラビットに一息で近寄り、一撃で仕留めた。

 仕留めた際にホーンラビットの血がまた手に付着したが、先ほどとは違い身体が熱くなることも、頭に言葉が浮かぶこともなかった。

 おそらくホーンラビットは『気配察知』のスキルしか持ってなく、同じスキルは獲得できないということなのだろう。



 そういえばこれで二匹倒したけど、魔物だからか、命を奪う忌避感みたいものはあまり抱かなかったな。……よし、この調子でまたホーンラビットを探しに行くとしよう。


 仕留めた獲物を片手に一匹ずつ持ったところで、ふと俺は気づく。


 これ以上倒しても持って帰れないじゃん……。





 俺はそんなことに今さら気付くと、ホーンラビットを両手に持ちながら街へ戻ったのだった。




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