第10話 武器購入
冒険者ギルドを出て約5分ほど歩いたところで、リディアさんから教えてもらった羊の看板が立っている宿屋を見つけることができた。宿屋の名前は「微睡みの宿」と言うらしい。
建物は石造りで、あまり大きな宿ではないが外見は中々に綺麗な宿だ。
さっそく扉を開けて中に入ってみると、建物の一階は飯屋になっていて、お酒も出しているようだった。
そこでは冒険者と思われる人達が10人前後いて、酒を片手に飯を食べながら仲間達と賑やかにやっているようだ。俺が中にはいっても周りは気づく様子もない。
俺はそのまま店の奥へ行き、カウンターにいる従業員と思われる15,6歳ほどの白いエプロンと赤い三角巾をしている活発そうな女の子に話しかける。
「泊まりたいんだけど、部屋空いてるかな?」
「空いてますよ! 一人部屋なら料金は朝と夜に食事がついて、1泊銀貨7枚です! 身体を拭くためにお湯が必要ならその都度、銅貨10枚でお部屋まで運びます。あと洗濯物があるなら部屋に置いといてもらえれば洗濯しておきますので!」
そう笑顔で女の子が説明してくれる。
「なら、とりあえず7泊することにするよ。お金は先払い?」
「はい! では、7泊で銀貨49枚になります!」
俺はポケットからお金の入った袋を取り出し、銀貨50枚を支払った。
「あれ、お客さん、銀貨が1枚多いですよ?」
「それは気持ちだから気にしないでいいよ」
俺はそうは言ったが、少しでもいい接客をしてもらえるように少し多目に渡したのだ。これで何かあったときに便宜を図ってもらえたらラッキー程度で考えておく。
「ありがとうごさいます! それではこれが部屋の鍵です。二階に上がって一番奥の部屋となってます。部屋の中に金庫があるので、貴重品などはそちらに入れてしっかりと管理してくださいね!」
「わかった。ありがとう。それで部屋に行く前に先にご飯を食べたいんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ! すぐに用意しますので、椅子に座って待っていてください!」
そう元気に告げると女の子は厨房の中へ入っていった。俺は周りに人がいない離れた席に座って待つことにする。
そして10分ほど待つと女の子が料理を運んでくる。
「お待たせしました! 熱いので気をつけて食べてくださいね?」
運ばれてきた料理は、野菜のスープ、サラダに白いパン、そしてメインには鉄板の上に乗っている肉厚のステーキだ。
正直、期待していた以上の料理が出て来てテンションがあがる!
さっそくステーキを食べたが柔らかくとてもおいしい。味は牛肉とは少し違い、多少の肉臭さはあったが、これはこれでありだ。
そして白いパンも昼に食べた固いパンとは比べるまでもなく、ふかふかしていて日本で食べたパンと遜色のないレベルだった。
パンのおかわりは無料だったので、もう1つもらい黙々と食べ続けた。
お腹一杯に食べ、満足した俺は、従業員の女の子にお礼を言ったあと部屋に入った。
部屋の中はベットが1つと小さな机と椅子が置いてあり、ベットの脇には大きな金庫があるだけのシンプルな部屋だったが清潔感もあり、寝泊まりするには十分な部屋だった。
ひとまず俺は着ていた服を脱ぎ、替えの服に着替えてから残りの着替えを金庫の中に入れ鍵を閉めた。その後、ベッドに飛び込み一息つく。
俺は今日1日、街を歩きながら見て、おおよその貨幣価値がわかってきていた。
銅貨1枚=10円 銀貨1枚=1000円 金貨1枚=10万円くらいだと考えるとだいたい日本と同じような感覚で買い物ができる。ただ、この世界は宿泊費などに比べるとずいぶん食べ物は安かった。
そう考えると今日俺が手に入れた金貨100枚というのはかなりの大金だ。そりゃリディアさんも驚くわけである。
それにしても今日は本当に精神的に疲れた。いきなり異世界へ放り込まれて、右も左もわからないまま、なんとか1日を終えることができた。
明日はさっそく冒険者ギルドへ行って依頼を受けてみようかな。
ベッドに入りながらそんなことを考えているとすぐに睡魔が襲ってきて、その睡魔に逆らうことなく眠りについた。
翌朝、身体を拭くためのお湯をもらい、身だしなみを整えた後、一階で朝食を食べた。ちなみに朝食も満足のいくものだった。
そういえば、まだ武器を買ってないな……。また武器を持たずにギルドに行って絡まれたりしたら面倒だし、まずは武器屋にいくとしよかな。
そう考えながら、部屋の鍵を昨日の女の子に預けるついでに武器屋の場所を聞くことにした。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、この辺に武器屋はないかな?」
「武器屋さんですか? それだったら、近くに腕がいいって評判のお店がありますよ! ただ、少し頑固なところがある人なんですけどね」
女の子はそう苦笑いを浮かべながら店の場所を教えてくれたので、お礼を言ったあと俺はさっそく武器を買いに向かうことにしたのだった。
教えてもらった武器屋についた俺はさっそく中に入る。
武器屋の中は様々な種類の武器や防具が並んでおり、その数の多さに目を奪われた。
一通り武器や防具を眺めた後、店主を探していたのだが、店先には出ていないようだ。おそらく、店の奥の扉の先から鎚を振るうような音が聞こえているので武器か何かを作っているだろう。
武器を作る邪魔をしてはいけないと思い、10分ほど待ってみたが終わる気配がなかったので申し訳ないと思いつつも声をかけることにした。
「すいませーん!」
…
……
………。
聞こえていないようなので、その後何度か大きな声で呼び掛けた所で奥の扉が開く。
「すまんな。聞こえてはいたんじゃが、手が離せなかったわい」
聞こえていたのかよ!日本だったら間違いなくクレームが飛んで来るぞ。
だがそんなことよりも、俺は扉から出てきた店主の姿を見て驚く。身長は低いが体格は良く、立派な髭を蓄えた姿だったのだ。
「まさかドワーフ……!?」
つい俺は驚きと感動のあまり声に出してしまった。
ドワーフが実在するなんて、ここが異世界だとしても実物を見るまで想像もしていなかったからだ。
「わしはドワーフだが、別に珍しくもなんでもないじゃろ。見たことがなかったということは、お主は相当な田舎者のようじゃな」
「そ、そうなんだ。昨日この街に来たばかりで、今まで田舎の村から出たこともなかったから」
とりあえずはリディアさんにも使った、田舎者という設定を利用した。田舎者って言えば何も知らなくてもしょうがない、みたいな風潮があって助かった。
「それでお主は、ここに何か用か?」
何か用かって言われてもここは武器屋なんだから武器を買いに来たに決まってる。もちろんそんなこと、口には出さないけど。
「冒険者になったから、魔物と戦うための武器が欲しくて来たんだ。とりあえず、初心者でも扱えそうな剣が欲しいんだけど何かおすすめってあるかな?」
「新人の冒険者か。それでお主、剣に関するスキルを持っていたり、剣を習ったことはあるか?」
「いや、持ってないし、習ったこともないけど」
「スキルも持ってない、剣を習ったこともない、そんな新人冒険者がいきなり剣を扱えるものか、馬鹿者」
頑固者だと聞いていたけど、本当にそうみたいだ。まさかいきなり怒られるとは思わなかった。
「まずは扱いやすいナイフにしろ。剣と違って武器の重さに振り回されることもないじゃろ。剣は武器の扱いになれてからにするんじゃな。今ナイフを何本か持ってくるからちょっと待っておれ」
勝手に話が進んでいき、俺の武器はナイフになるみたいだ。剣はまた次の機会に買うことにしよう。どうせ今は売ってもらえそうにないし。
数分待つとナイフを数本持ってドワーフの店主が戻ってきた。
「その前にお主、新人冒険者じゃろ? 金はあるのか?」
周りを見ても商品に値札がついていないので武器の相場がわからない。
今手持ちの金はカードに預けている分を除けば、金貨2枚とちょっとだ。
「今手元に金貨2枚あるけど足りないかな? 足りなければ冒険者カードから引き出してくるけど」
「それだけあれば十分じゃ。それならこの2本はどうじゃ?」
そう言って見せられた2本のナイフは、刀身の長さは15センチほどで、まるで鏡の様に磨きあげられた美しいナイフだった。
武器のことはよくわからないが、そんな俺でもいい武器だと感じる。
「この2本のナイフは、剣を作ったときに余ったミスリルから作ったものじゃ。切れ味もよく、かなり丈夫で新人冒険者には勿体ないものじゃがな」
ミスリルで作られた武器って金貨2枚で買えるものなのか?
「ミスリルってかなり高価な金属だったりしない? もしそうだったら金貨2枚で足りないんじゃ」
「確かに高価な金属じゃが、そのナイフは余ったミスリルで作ったものじゃから気にするな。2本で金貨2枚でいいぞ」
たぶんかなり安くしてくれているのだろう。俺はそのナイフを一目見て、気に入っていたので購入することを決めた。
金貨2枚を払い、ナイフを受けとる。するとさらに、ドワーフの店主から「おまけだ」といわれ、ナイフのサイズにぴったりと合ったホルスターまで貰い、その場で装備した。
「おかげでいい買い物ができた。本当にありがとう。そういえば自己紹介していなかった。俺の名前はコースケっていうんだ」
「わしは武器を売っただけじゃ。ナイフの切れ味が悪くなったらまたわしの所へ来い。下手なやつが研いだらナイフがだめになるからのう。わしの名前はドイルじゃ」
互いに自己紹介をした後、また来ることを約束し、そのままの足で冒険者デビューをするべく、冒険者ギルドへ向かった。
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