第15話 討伐開始
翌朝、日の出と共に出発をした俺たちは、途中に休憩を挟みながらも道中何事もなく目的地である村に日が沈む前に到着した。
「やっと着いたー! もう少し遅れていたらまた野営しなきゃならない所だったな!」
到着と共にジェイクが大声を出し、長い道のりを歩ききったことに安堵していた。
村はのどかな所で、周囲を見渡して見ても古い木造の家と畑くらいしか目に入るものがなかった。さらにはもう暗くなりかけていることもあり、人の姿も確認できない。
「ここはかなりの田舎みたいだ。それでこれからどうする? さっそく依頼を始めた方がいいのか?」
「今日はもう暗くなりますし、ゴブリンの討伐は明日にしましょう。とりあえずは僕たち冒険者が到着したことを村の村長さんに報告したいのですが……」
ハルトは周囲を見渡して村人の姿が見えないことからどうするべきなのか思案していた。
「そんなのはその辺の家を訪ねてみればいいじゃんか! ちょっと俺、行ってくるわ!」
ジェイクはそういい、村に入ってすぐに建っている周囲の家に比べて一回り大きな家に一人で突撃していった。
「はぁ……。勝手に行っちゃったよ。ごめんなさい、コースケさん。本当にジェイクは自由奔放で……」
「気にしないでいいよ。俺はジェイクのああいうところ嫌いじゃないしさ。戦闘だったら勘弁してほしいけど」
「戦闘で勝手にジェイクが行動し始めたら僕が殴ってでも止めますよ」
そんな冗談をハルトと言い笑い合っていると、ジェイクが一人の老人男性を連れて戻ってきた。
「ちょうど訪ねた家が村長の家だったから、そのまま村長連れてきた!」
「私がこの村の村長をしています、グラントと申します。冒険者の皆様、依頼の方をどうかよろしくお願いします」
村長のグラントさんは俺たちに対して懇願するように頭を下げてきたが、それをハルトが止めた。
「頭を下げるのはお止めください。僕たちは依頼を受けただけの冒険者ですので」
本当はこういう対応は三人の中で、年長者であろう俺がやるべきだろうけど、こういうことはハルトの方が得意そうだし任せよう。
俺は村長とハルトが会話をしている中、無責任にそんなことを考えていた。
「それでグラントさん、ゴブリンの件についてですが――」
「ここで立ち話も何ですので、私の家でお話ししましょう。古い家ですが、空き部屋もありますので依頼の件が話終わったあと、今日は我が家にお泊まりください」
村長の家に着き、リビングと思われる部屋でテーブルを囲みながら依頼の話を始めるとまずは村長が最初に口を開いた。
「ゴブリンが出現したのは今から2週間ほど前でしょうか。5体のゴブリンが村の家畜を襲ったのです。そこからは村の若い者が村の警備をしていたのですが、ついに警備の者に犠牲者が数人出てしまい、冒険者ギルドに依頼をしたのです。今では村人が怯えて家の外に出ることは少なくなってしまいました」
だから外に村人の姿が見当たらなかったのか。てっきり田舎はこんなものだと思っていたが、それは俺の勘違いだったようだ。
ハルトは今の話に疑問を持ったのか村長に質問を始めた。
「警備の若い方が数人犠牲になったとの話でしたが、魔物とはいえゴブリンは弱い魔物です。5体程のゴブリンで何人もの若い村人が犠牲になってしまったことには何か原因があるのでしょうか?」
村長はハルトからの質問に沈痛な表情を浮かべながらも回答をする。
「生き残った警備の者の話では、実は襲撃してきたゴブリンの中に魔法を使う個体がいたそうです。魔法のことが頭になかったのが原因で犠牲者が出てしまったということでした」
ジェイクは魔法を使うゴブリンがいたという話を聞いて大きく驚きながら話始める。
「何だって!? ゴブリンの特殊個体がいるのか? それはやっかいだな」
「ゴブリンの特殊個体っていうのは何なんだ?」
俺が疑問を口にするとジェイクではなく、ハルトが答えてくれた。
「ゴブリンは成長がとても早く、繁殖力が凄い魔物なんですが、稀に魔法などが使える個体が生まれることがあるのです。それが特殊個体です」
「そういうことか、ありがとうハルト。魔法が使えるゴブリンがいることを念頭に戦った方が良さそうだ」
「そうですね。警戒は必要でしょう。それでグラントさん、ゴブリンがどの辺りを根城にしているのかは判明していますか?」
「おそらくなのですが、村から西に向かって30分ほど行くと洞窟があるのですが、そこかと思われます」
「それなら明日の朝に僕たち三人でその洞窟に行ってみましょう」
こうして依頼についての話は終わり、村長さんの好意で用意してくれたご飯を食べ終えた後、空き部屋に案内され俺たち三人は早めに寝ることにしたのだった。
翌朝、村長さんに朝食を用意してもらっていて、それを食べ終えると洞窟に向けて俺たちは出発した。
そしてもうすぐで洞窟に到着するという所で、ハルトから戦闘に関する話があった。
「コースケさん、僕の魔法について話があります。僕が使える魔法は補助魔法なので、直接の戦闘だとゴブリン一体くらいなら問題はありませんが、複数となると厳しいです。なので僕は後方で支援を行うことになると思います」
「わかった。直接の戦闘は俺とジェイクが引き受けるから補助に徹してくれて大丈夫だ」
「ありがとうございます。それで僕の魔法の力なのですが、『
「それだったらジェイクに魔法を使った方がいいかな。俺よりジェイクの方が前衛で敵を引き付けながら戦うことになるだろうし、もしジェイクがやられたら一気に崩壊する可能性もあるし」
まあ本当の理由はゴブリンくらいなら今の俺の敵ではないと思うからである。『
「わかりました。ジェイクに魔法を使うことにします。でももし危なくなったら言って下さい。対象を切り替えることはすぐにできるので」
そうこう会話をしているうちに目的の洞窟が見えた。洞窟の入り口の近くには一体のぼろ布を纏い、全身緑色をした醜い顔のゴブリンが、洞窟の入り口を警備するかのように立っていた。
俺たちは近くの木陰に隠れながらそれを観察する。
「あの洞窟がゴブリンの根城で間違いないなさそうだな! それでこれからどうする?」
ジェイクは早く戦いたいのだろう。身体をうずうずさせながらこちらを尋ねてくる。
だけどここは俺が行った方がいいかな。下手に気付かれて集団戦になったら危険だし。
「ジェイクには悪いけどここは俺が行くよ。他のゴブリンに気付かれたくないし、足の速さに自信がある俺の方が適任だと思う」
「僕もコースケさんの意見に賛成です。それでは入り口にいるゴブリンを倒したら僕とジェイクがコースケさんに合流するということにしましょう。ジェイクもそれでいいよね?」
「しょうがないな、一番槍はコースケに譲るぜ!」
意外なことにも素直にジェイクは俺に最初の戦闘を譲り、気合いを入れさせるためなのか、俺の背中を叩いて送り出してくれる。
「それじゃあ行ってくる」
俺は二人にそう言い残し、ナイフを抜いてから全速力でゴブリンに接近する。あまりの速さにゴブリンは俺に気付くのが遅れ、声を出す前に喉元にナイフが突き刺さった。
そしてゴブリンの血液が俺の手に付着すると共に身体が熱くなり、頭の中に言葉が浮かぶ。
『スキル:繁殖Lv2』
このスキルはどう考えても繁殖力が上がる能力だろう。
……うん。こんなスキルいらないな。
俺は頭の中でスキルのコピーを拒否するように念じると身体の熱が引いていった。
―――――――――
「ハルト! 今のコースケの動き見たか!?」
ジェイクは信じられないものを見たかの様に興奮しながらハルトに話しかける。
「信じられないほどのスピードだったね………」
それに対し、ハルトはジェイクとは逆にただただ茫然としていた。
「あいつ、どんだけの力があるんだよ!」
「ジェイク、それよりもコースケさんがゴブリンを倒したんだから早く合流しなくちゃ」
ハルトは素早く思考を切り替え、コースケに合流するようにジェイクを促した。
―――――――
その後二人が俺に合流し洞窟内への侵入を始める。こうして俺たちのゴブリン討伐依頼は始まったのだった。
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