第5話 商業都市リーブル

 ロンベルさんを見送り、リーブルに向かって歩いている途中、金貨の入った袋と取引証明書を持ちながら歩くのは邪魔だと感じ、ジャージのズボンにあるポケットにそれらを入れることにした。


 そこでジャージのポケットにいつの間にか、何かが入っていたことに気が付き、それを取り出す。


 なんだこれ? ペンダントか? こんなものをポケットにいれた記憶なんてないぞ。


 そのペンダントは楕円形で5センチほどある赤い宝石がついたものだった。宝石の価値などわからないがなかなか高価な物の様に見える。


 そのペンダントを手にして眺めていると頭の中に突然、声が響いて来た。


『やあ紅介、元気にしているかい? ラフィーラだよ。これはあくまで一方的な通話みたいなものだから、何か僕に言いたいことがあるかもしれないが、こちらには聞こえないからね。それで君は今、ペンダントを手にしていると思う。そのペンダントはいつか必要な時が来ると思うから、売ったりしないで大切にするんだよ。じゃ、僕はこれでも忙しいからね、紅介の健闘を祈っているよ』


 ラフィーラは一方的にそれだけを伝え、頭の中から声が消えた。


 何なんだよ一体。相変わらず自分勝手というかなんというか。話によると、このよく分からないペンダントが必要な時が来るってことなのか? まあ今気にしてもしょうがないし、無くさないように首につけてTシャツの中に目立たないように入れておくか。


 そして俺は再びリーブルに向けて歩き出したのだった。





 そして街道を1時間ほど歩くと、ようやく目的の街であるリーブルが見えてきた。

 1時間ほど歩いたが日課だったランニングのおかげか、疲れは全くない。むしろこの世界に来てからというもの、身体がまるで羽のように軽くさえ感じる。


 さらに数分ほど歩き、街の近くまで来てみると、街の大きさと街を囲む外壁の高さに圧倒された。


 すごいなこの街! かなり大きな街だし、石材で作られた壁の高さも10メートルはあるんじゃないか? まさに中世ヨーロッパって感じだ。まあ、ヨーロッパに行ったことすらないんだけど。


 さっそく街の中へ行ってみるか。えっと、街に入るには門の前に多くの人が並んでいるけど、そこに並べばいいのかな?


 ざっと並んでいる人の数を見てみると100人以上は並んでいるだろう。街に入るまでかなり時間が掛かりそうだが、並ぶしかない。



 そして並ぶこと約30分、やっと俺の俺の順番が来たようだ。


 すると守衛の人から声がかかる。


「では、次の者!」


 その声の上げた守衛は40歳前後の鎧を来た、口ひげが似合うダンディな男の人だった。


「あ、はい」


「旅の者か? まあいい。街に入るなら、冒険者カードか商人カードを確認させてくれ」


 この世界に来てから始めての街だ。もちろん俺は冒険者カードや商人カードと呼ばれるようなものは持っているはずもなかった。


「すみません、どっちも持ってないんですが、どうすれば街に入ることができますか?」


「それなら街に入るためには銀貨1枚を支払ってもらうことになっている」


 銀貨1枚か。今俺の手元には金貨が10枚あるから大丈夫そうだ。それにしてもジャージを売っといてよかった。もし売ってなければ街に入ることもできなかったのか。本当に危なかった。


「わかりました。銀貨1枚ですね。ではこれでお支払いします」


 そう言って俺は金貨を1枚取り出し、守衛に渡す。


「金貨か。銀貨は持っていないのか?」


「すいません。今はそれしかなくて」


「しょうがない、なら少し待っていろ。釣りを用意してくる」


 そう言い、守衛は門の脇にある扉に入っていき、少しの時間で戻ってきた。


「待たせたな。次からは銀貨で支払うか、冒険者ギルドや商人ギルドに行ってカードを作るといい。カードがあればどの街に入るにも金がかかることはないからな」


「お手数おかけしてすみませんでした。この街でカードを作ってみます」


「ああ、そうするといい」


「あ、すいません、一つお尋ねたいことがあるのですが」


 早急にロンベルさんの店に行かなくてはいけない。しかし見たところかなり大きな街なので、人に聞かないと辿り着けそうにないのだ。


「ん? なんだ? 他にも並んでいる者がいる。手短に頼む」


「ロンベルという商人の方がやっているお店の場所を知りませんか?」


「ああ、ロンベル商会か。それなら門を潜り、そのまま大通りを真っ直ぐにいけば、街の中心につく。そこから南の大通りを少し歩けば分かるはずだ」


 守衛は迷う素振りも見せずにそう答える。


 ロンベルさんが言っていたとおり、有名な店みたいだ。


「場所を教えて貰い、助かりました。色々とありがとうございます」


「このくらい気にするな。では私は仕事に戻る。ではな」


 守衛と別れた後、門を潜り、街の中に入っていく。


 街の中は活気に溢れていた。至るところで商人が声を張り上げ、客を呼び込む姿が見える。それに美味しそうな料理の匂いもそこら中から漂ってくる。

 街並はとても綺麗で、道も全て石畳で舗装されていた。建造物は基本的には石材かレンガで建てられているようだ。さすがに屋台のような簡易的な店は木造で建てられていた。


 まずはロンベルさんの店に行こうかな。


 そう考えた瞬間に、お腹の虫が鳴る。考えてみればこの世界に来てからというもの、食べ物はおろか、水すら飲んでいなかったのだ。

 ロンベルさんの店へ行くのにそこまで急ぐ必要もない。とりあえずは腹ごしらえをすることに。


 そうして俺は匂いに釣られるように一軒の食事処に入り、店員におすすめの料理を持ってきてもらう。

 店員が持ってきた料理は固いパンに、何の肉かはわからないが、それをトロトロになるまで煮込んだ特製シチューだった。

 パンは固すぎて美味しいとは言えない物だったが、シチューに関しては絶品だった。肉は噛む必要がなく、口に入れるだけで溶けていく。味はビーフシチューとかなり似ている。


 俺は特製シチューのおかわりをして店を出た。料金はパン1つにシチュー2杯で銅貨85枚だった。


 食事の代金を払ってわかったことがある。この世界の貨幣は銅貨100枚で銀貨1枚になり、さらに銀貨100枚で金貨1枚になるということだ。

 そうなるとロンベルさんと取引した金貨100枚という金額はかなりの大金かもしれない。

 ただ、まだ他の物の物価がわからないのでなんとも言えないところがあるが。


 お金の計算はこの辺りにし、腹も膨れたこともあり、当初の目的であるロンベルさんの店に俺は向かうことにするのであった。


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