第2話 世界の狭間

「…ここは一体どこだ?」


 暖かい光を感じる白い世界。そこは見渡す限り何一つと物が存在しない場所だった。

 ここで俺はあることに気が付く。それはここへ来る時に通ったと思われる大きな扉がなくなっていることに。


「どうすればいいんだよ……まだ時間はあるけど、これから入学式があるっていうのに」


「やあ! ようこそ僕の世界へ」


「……えっ? 急になんだ?」


 頭が混乱してきた。さっきまで周りに何もないことを確認したにもかかわらず、突然背後から10代前半と思われる白いワンピースを着た金髪ロングの女の子が声をかけてきたからだ。


 つか、僕とか言ってるけど女の子だよな? 僕っ娘なのか? 嫌ではないと言っておこう。だけどその背中にわずかに見える小さな白い羽は何なのだろうか。


 まずは女の子の考察は置いといて、今の状況を確認することにしよう。


「ええっと、いきなりすぎて理解が追い付いてないんだけど、ここはどこなのかな?」


「君は何を聞いていたんだい? さっき言っただろう、『ようこそ僕の世界へ』ってさ」


 出会って間もないけど俺にはわかる。こいつは絶対に性格が悪い、と。その僕の世界ってのがわからないんだよ。


 と心の中で悪態をつく。


「その僕の世界っていうのがわからないんだけど、一体ここはどこなのかな? あと君は何者なんだ?」


「名前を尋ねるならまずは自分から名乗るのが礼儀ではないかい? 、僕の名前はラフィーラだ。ラフィーでもなんでも好きに呼んでくれてかまわないよ」


「あ、ごめん! 確かに自分の名前から名乗るべきだった! 俺の名前は赤木紅介というんだ。それでここは一体?」


「ここは世界と世界の狭間さ。君が住んでいた世界ともう一つの世界との狭間だよ。さてそろそろ説明はこの辺りにして君に話があるんだ」


「俺に話って何? 正直嫌な予感しかしないんだけど……」


 というか世界の狭間ってなんなんだ一体!? 正直いって全然状況についていけないんだけど。

 何よりラフィーラは一体何者なんだ。背中に白い羽があるってことは、もしかしてとんでもない存在なのではないだろうか。天使、もしくは女神様の可能性だってある。言葉遣いもっと丁寧にするべきだったかもしれない。もう今さらだから気にしないけど。


「紅介、君にはもう一つの世界に行ってもらうよ」


「えっ? いや、それはいきなりすぎるし、無理だ! というか今日は大学の入学式があるんだよ!」


「まあ君はそういうと思ったよ。だけどね、もう君は元の世界には行けないよ。だって君の元の世界にある身体は魂のエネルギーが尽きてしまって今頃消滅しているからね」


「え……」


「君はこの世界に来る前に身体の調子がよくなかったのは覚えているかい? それが魂のエネルギーが減ったときの症状みたいなものだね」


 魂のエネルギーが消滅? 確かに身体の調子が悪かったのは事実だ。だからといってそんなことを信じることができるはずもない。

 というか何故ラフィーラはここに来る前の俺を知っているんだ? まあいい。そこは神の力か何かなのだろう。それよりも今するべきことはラフィーラから話を聞くことだ。


「ラフィーラさん、それってもし俺がもう一つの世界に行ったとしても魂のエネルギーがなかったらどのみち消滅するんじゃ……?」


「それは大丈夫だよ。君のいた世界と向こうの世界はまた違う法則で成り立っているからね。どのみち元の世界の魂のエネルギーがあったとしても消滅は免れない。何故なら向こうの世界では魂とは別に『スキル』と呼ばれる別種のエネルギーをすべての生物が持っているんだ」


「なるほど……ん? でも俺はスキルなんて何一つとして持ってないと思うんだけど」


「そこは安心してほしい。僕はこれでも神様だからね。スキルを与えるくらいなら簡単だよ」


 ああ、やっぱり神様だったか! もう驚きの展開が多過ぎて感覚が麻痺してきたぞ…… 。


「よし!ならスキルの希望はあるかな? ないなら僕が君に有用なスキルを与えることにするけど、どうする?」


 希望のスキルっていわれても、そもそもどんなスキルがあるかもわからないし、そもそもスキルってなんなんだ? 魔法が使えるようになるとか剣をうまく扱えるようになるとか? その辺りの説明もしてほしいもんだ。


「ラフィーラさん、スキルって一体どんなものが――――」


「あっ、すまないが紅介、もう時間がないみたいだ。この狭間に長い時間、ただの人間がいるのは危険だからね。ということで、スキルは僕が決めたものを君に送るよ。それと向こうの世界に行くにつれて必要なことがあるなら言ってくれ。少しくらいなら融通するよ」


 希望を聞いといて、もう時間がないとか……。


 もう向こうの世界に行くことは確定みたいだ。正直まだ心構えはできてはいないが、腹をくくるしかないか。

 時間もないようだし、思考を切り替えて必要なものを考えよう。


「じゃあお願いが2つあるんだけど」


「可能な限り紅介のお願いは聞くから言ってみてほしい」


 最初はラフィーラのことを性格悪いなんて考えてたけど意外に親身になって話も聞いてくれるし、やっぱりいい神様みたいだ。性格が悪いなんて思ってごめんと心の中で謝っておく。


「一つ目は向こうの世界の言葉を理解して意志疎通ができるようにしてほしい」


 俺が一つ目に思い浮かんだのは異世界言語だ。意志疎通が出来なければ、まず間違いなく困ることになるだろう。


「うん、そうだね。紅介がいた世界と向こうの世界では言語が違うから必要だと僕も思うよ。それじゃあ、それも紅介のスキルの一つとして用意しておくよ」


「ありがとう。あと一つは向こうの世界に行く際に、なるべく大きな街の近くに送ってほしいんだ」


 もしいきなり砂漠のど真ん中や森の奥深くに転送されたらそれだけで危険だ。やはり街が近くにあれば今後の行動方針なども決めやすいし、なにより安全だ。


「わかった。大きな街の近くに転送すればいいんだね? お安いご用さ。じゃあ他にはもう何もないかな? 何か見落としなんかはないかい?」


 不安はかなりあるが今パッと思い付く限りではもう必要なものはないと思うんだけど、ラフィーラの言い方が何かひっかかる。

 何か他に必要なもの必要なもの……


「じゃあもう時間だ、君の幸せを願っているよ」


「……あ! ちょっと! おか――」


 俺は全てを言い終わる前に転送されてしまったのだった。


「ふう……これで僕の役目は果たしたよ。頑張るんだよ、紅介」


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