お揃いTシャツ会議(2)
「え~? オレ、先輩達とは同じくらい仲良くなってるつもりっスけどね」
「むしろオレじゃなくてトオルと仲が良いと思うけど」
家茶に続いてオレの意見を言うと、トオルの表情はいつもの笑った顔に戻った。
こっちの方がトオルらしい。
「ユウちゃんが妬いてくれて嬉しいわ~」
「妬いてるんじゃない、事実」
いつもの様にトオルの腕にパンチをする。
「あいたっ」
でも、いつもと違って左手で殴ったから力加減が良くわからなくて、手が少し痛くなってしまった。
もしかしたらトオルはかなり痛かったかもしれない。
トオルの腕を少しさすると、トオルはさっきよりヘラヘラとした笑い顔になった。
「優しいな~、ユウちゃん」
「別に」
「チューしたろか?」
「何でそうなるのかわからない」
「おい、イチャイチャしてねーでお前らも選べ」
気付いたらいつの間にか根津先輩がオレ達の前に立っていた。
家茶の雑誌をオレ達に見える様に広げている。
「あの…オレ達イチャイチャはしてないです」
「してたろ」
控えめに否定したら、すぐに反論された。
もっと断言すれば良かったかもしれない。
「選ぶてTシャツをですか?」
トオルはオレとは違って否定する気はないらしく、根津先輩が持っている雑誌を覗き込んでいる。
そんなトオルに、根津先輩ではなく家茶が返事をした。
「みんなでお揃いのTシャツ買いましょうよ、仲良しレベル上げるために」
みんなでお揃いのTシャツ…?
何かおかしいと思うのはオレだけなんだろうか…。
「お揃いか~、みんな似合うんがえぇよな」
「結構面白いデザインのやつが色々あるんスよ」
テーブルに置いた雑誌のページをめくりながら、家茶がTシャツを紹介し始めた。
オレ以外の3人は、たまに頷きながらそれを聞いている。
家茶はセールスマンに向いてる気がする。
「色違いのにします? それか、シリーズで揃えるとかでも良いっスよね」
「あ、シリーズえぇな」
「良い」
「だな。んじゃ、どのシリーズにするか今決めとくか」
シリーズにするという方向性が決まって、オレ以外のメンバーはそのまま話し合いを始めた。
みんなに任せる事にしたオレは、続きを読むためにさっき読んでいた本を開く。
ミステリーの解決部分は一気に読んでしまいたいから、本に集中する事にした。
読み終える頃には終わっているだろうと思っていたのに、本を読み終えたオレが4人の方を見ると、話し合いはまだ終わっていなかった。
とりあえず、みんなの話し合いの内容を聞く事にする。
「だから、曜日Tシャツにしましょうよ、月曜日とか火曜日とか」
「7種類しかねぇじゃん」
「ん~…祝日?」
「ダサい、却下」
「じゃあ兄弟Tシャツはどうっスか? 長男なら長男Tシャツ着るんスよ」
「却下、ダサい」
「それやったら何人もカブる可能性あるしな」
「あ~」
「好きなおにぎりの中身とかどない?」
「えー、だってオレ、しゃけって書いてあるTシャツもう持ってますもん」
「却下、ダサい」
「根津さんさっきからそればっかやわ~」
オレがしばらく離れていた間に、話し合いというよりも根津先輩が採用、不採用を決める会議みたいになっていた。
どうやらイラストプリントではなく、文字プリントのTシャツにするらしい。
「ソルトさんはどれが良いっスか?」
「叫び声」
「あ、叫び声良いっスね~」
「ユウちゃんに似合うやろか?」
「ギャップっスよ、ギャップ」
「ギャップか~。根津さんはどう思います?」
「ん~、まぁさっきのよりは良いかもな」
ダメな感じのやつは根津先輩が却下してくれると思って安心していたのに、驚いた事に隠立の案が採用されようとしている。
叫び声が書かれたTシャツ…正直、恥ずかしくて着るのが怖くなるレベル。
買ったら必ず着る事になるはずだから、オレが今ここで止めなければいけない。
人に任せっきりにしちゃいけなかったと反省しつつ、かなり遅れてではあるけど、オレも話し合いに参加させてもらう事にした。
決まりかけていた意見を変えるために時間をかけてみんなを説得して、何とか今回の話は一旦保留という結論に持って行く事が出来た。
次の話し合いはメンバー全員が揃っている時にして欲しい。
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