お揃いTシャツ会議(1)

「ユウさん、ちょっと良いっスか?」


リビングで本を読んでいるオレのところに家茶がやって来た。


「うん、良いよ」


家茶の手には教科書サイズの本が握られていたから、宿題のわからないところを教えて欲しいのかと思っていたけど、オレの前で広げたそれはオレにはあまり縁のないファッション雑誌だった。


その雑誌をパラパラとめくって、家茶はあるページで手を止めた。


「これなんスけど…」


家茶がこれ、と言って指さしたのは、皿に載った大きなエビフライのイラストが、胸の部分にプリントされた白いTシャツだった。


「どう思います?」


「…」


…マズい、答えに困る質問が来た。


「これと、ハンバーグと、カレーとで悩んでるんスよね~」


「あ、うん…」


「ユウさんだったらどれにします?」


どれって…。


「ユウちゃんはプリントTシャツは着ぃへんよ」


「お前あだ名がケチャップなんだからオムライスとかにしろよ」


オレが困っているところに、トオルと根津先輩が現れた。


「あ、オムライス良いかもしんないっスね」


そのまま家茶と根津先輩は雑誌を見ながら話し始めた。

一緒に選ぶのかもしれない。


助け舟が現れてオレがホッとしていると、隣に座ったトオルが変な事を言い出した。


「何や最近家茶にポジション奪われとる気がする」


「は? ポジション?」


「何のポジションっスか?」


名前を出された家茶も気になった様で、根津先輩との会話を一旦やめてトオルに顔を向けている。


「ユウちゃんの隣ポジションや」


聞かなくても良いくらいバカバカしい事だった。


「オレの隣に指定席とかないけど」


「え~、ワイのやったやんか~」


そう言ってトオルは抱き付く様にもたれかかって来た。

トオルの体が重たくて、そのままオレも押し倒される様にソファーに倒れ込む。


「ちょっ…トオル、重いから」


文句を言いながらトオルの体を押してみたけど、どかす事もずらす事も出来ない。


自力ではどうしようもない事がわかって悔しい思いをしていると、オレの上で荷物みたいになっているトオルが顔を近付けて来た。


「ユウちゃんは体も小さいし可愛ぇな」


キスされるのかと思って胸がざわついたのと同時に、こないだ家茶にも同じ事を言われたばかりだから、いつも以上にイラついた。


「うるさい、小さくない」


どけ、と言うとトオルはあっさりとオレの上から離れた。


「とう!!」


「あいたっ!?」


トオルが上半身を起こしたところで、なぜか根津先輩が横からトオルにキックをおみまいした。


「痛いわ~、ワイ蹴られる様な事しました?」


「体が小せぇからって可愛いと思うんじゃねぇ」


「いや、根津さんの事やないんやけど…」


「ユウさんの代わりに蹴ったんじゃないっスか?」


笑って言う家茶の隣で根津先輩が頷いている。


オレの代わりだったのか…。


「マヨ小さい、可愛い」


歩いて来た隠立が、今度は根津先輩本人に向かって怒らせる様な事を言った。


「うるせー!!」


そんな隠立にすかさず根津先輩がローキックを食らわせる。


根津先輩のキックに少しだけ体を揺らした隠立は、目の前の根津先輩をゆっくり抱きしめた。


「小さい」


「小さくねぇ!!」


追い討ちの様にまた禁句を言った隠立の腕の中で、根津先輩は怒りながらジタバタしている。

隠立はたまに根津先輩にああいう事をしているけど、小さいものが好きなんだろうか…。


「トオルさん心配ないっスよ、オレトオルさんのポジション取ってませんから」


「ほんまに?」


オレが根津先輩と隠立を見ている横で、家茶がトオルのバカな話に付き合っている。


「だってオレ、ユウさんとの仲良しレベルは、今はまだ3くらいだと思ってるんで」


…こっちはこっちで何か変な事を言い出した。


「仲良しレベルって何だよ」


「ケチャップとたまご仲良し」


さっきまで騒いでいた根津先輩達が早くも合流して来る。


「そりゃキミとの仲良しレベルはMAXっスからね」


「MAXはレベルいくらなん?」


「10っス」


「ユウちゃんはレベル3やろ? レベル3でそないに仲えぇんやったらむしろ心配やわ~」


トオルにはオレと家茶がかなり仲良く見えているらしい。


笑いながら言ってると思っていたのに、横目で見たトオルの眉間には少しシワが寄っていた。


珍しい…トオルがこんな顔するなんて。

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