尾行の後の大人様ランチ(2)

家茶が持って来てくれると言うので、白玉と2人で席に座って待っていると、家茶が器用に3人分のプレートを持ってやって来た。


「はい、家茶イツキ特製、大人様ランチです!!」


そう言って置いてくれたのは、どう見てもお子様ランチだった。


「…お子様ランチに見えるけど」


「子供はこんなに量食わないっスよ」


量で決めるんだ…。


「キミとユウさんは身長低いから、オレより少なめにしときました」


「ありがとう、イツキくん」


「いや、オレ家茶と身長ほとんど変わらないから」


家茶の言葉に、オレと白玉は全く違う反応をした。

オレは白玉と違って今の発言にお礼は言えない。


「身長は変わらなくても体は小さいじゃないっスか」


「小さくない」


「まぁまぁ、良いから食いましょ」


家茶と白玉が手を合わせて食べ始めたので、オレもとりあえず今の話は置いておいて、先にご飯を食べる事にした。


家茶が作ってくれた大人様ランチは、何だか懐かしい味がする。


美味しいご飯を食べていると、さっきの恥ずかしい出来事が頭の中から少しずつ消えて行く様な気がした。


後輩達の方を見ると、家茶はガツガツと聞こえそうな程の勢いで子供の様に食べていて、それとは逆に白玉はスプーンに少しずつ載せてゆっくり食べている。


違いが出るな…と見ていると、家茶と目が合った。


「あ、こういうの嫌いでした?」


「いや、嫌いじゃないよ」


家茶に返事をしてから、止めていた手を動かしてハンバーグを食べる。


そういえば昔、まだお子様ランチを食べていた頃は、食べきれなくて残してしまう事が多かった気がする。


でも今日は本当に食べきれるくらいの量になっている。


「オレ、お子様ランチ好きなんスよねー。おかずも好きなもんばっかだし」


そう言って家茶は残り少なくなったチキンライスを口に運んでいる。


「ボクも小さい頃は良く食べてたよ、美味しいよね」


「なー」


頷きながら笑顔で言う白玉に、家茶も笑顔で返す。


この2人は性格は全然違うけど、相性は本当に良いと思う。いつも仲良しだ。


「じゃあ家茶は家でも食べてたの?」


「はい、うちのチビ達が好きだから家でも良く作ってましたね」


「チビ達?」


「あ、オレ小学生の弟が2人いるんスよ」


「ほ~、家茶は弟おるんやな」


そのトオルの声で、会話していたオレと家茶、そして白玉は一斉にトオルの方を向いた。


「トオルさんビックリさせないでくださいよ~、お帰りっス」


「ただいま~」


「お帰りなさい」


「…お帰り」


トオルはもう一度、ただいま~と言いながらオレの隣に座った。


思ったより早いトオルとの再会に、オレは1人で気まずくなってしまって、トオルと目を合わさない様にまたご飯を食べ始めた。


そんなオレの隣で、トオルと家茶が兄弟の話を始める。


「ワイも男兄弟が欲しかったわ」


「あ、ならトオルさんは女兄弟がいるんスか?」


「おぉ、上と下にな。やかましいで~」


「うちのチビ達もやんちゃでうるさいっスよ、可愛いけど」


「小学生やったな、いくつなん?」


「9歳と7歳です」


「あ、ワイの妹も9歳やで、一緒やな」


盛り上がっている2人を横目で見ていると、聞きたくなかった言葉がオレの耳に飛び込んで来た。


「さっきまでそのやかましい姉と妹に買い物付き合わされとったんやで~、疲れたわ」


この言葉でさっきの人達がトオルのお姉さんと妹さんだという事が確定してしまった。


ますます居心地が悪くなる。


「ワイも腹減ったな~」


「あ、大人様ランチ作りましょうか?」


「はは、これ大人様ランチ言うんや、ほな作ってやー」


「ういーっス」


「あ、ボクも手伝う」


「おー」


後輩達は元気良くキッチンの方へ走って行った。


オレがそんな後輩達を目で追っていると、トオルが覗き込む様に顔を見て来た。


「…何?」


「ほんで? どうやった?」


「何が?」


「尾行や、楽しかったん?」


その言葉に驚いて勢い良くトオルの方を見ると、トオルは心底楽しそうに笑っていた。


「気付くわ、ユウちゃんに見られとったら」


「…トオル」


「ん?」


「その理由気持ち悪い」


「え~、ワイ連れ回されて疲れたんやで、いたわってや~」


そう言ってトオルは力が抜けたみたいにテーブルに突っ伏した。


「デートみたいで楽しそうだったけど」


本人に尾行がバレたあせりからオレの言葉はさっきから少し攻撃的になっているのに、トオルはそれでも笑って話しかけて来る。


「妬いとる?」


「妬いてない」


「妬いてや~」


「お姉さんと妹さんなのに妬く理由が見付からない」


オレのその言葉を聞いてトオルは一瞬固まった。


でもすぐに、オレをからかう時のあのニヤニヤした顔になる。


「一緒におったんが他人やったら理由があったっちゅー事?」


「は…?」


トオルの言葉の意味がすぐには理解出来なかった。


数秒後に意味がわかった途端、一気に恥ずかしさが込み上げて来て、急いでトオルから顔を逸らした。


「違うから、曲解するな」


「ユウちゃんは可愛ぇな~」


「うるさい」


「ほんま可愛ぇわ~」


それから後輩達がご飯を持って来るまで、オレが何を言ってもトオルはその言葉を繰り返した。

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