尾行の後の大人様ランチ(1)

オレは今、トオルを尾行している。



さかのぼる事1時間前、急にコッコーのコロッケが食べたくなったオレは、あんまり外出はしたくなかったけど買いに出る事にした。


1人でコッコーへ行くと、トオルと一緒じゃない事に驚かれて何とも言えない気持ちになった。

どうやらトオルとワンセットにされているらしい。


確かに今日もトオルが寮にいれば誘おうと思っていたから、それを見透かされた感じがして少し動揺したけど、とりあえず無事目的のコロッケは買う事が出来た。


用事が終わって帰ろうとした時、オレの数メートル先をトオルが歩いているのが見えた。


しかも、女の人と2人で。



という訳で、それから約30分間、オレはトオルの後を追っている。


別にトオルが誰と会っていようと勝手だし、デートなら邪魔をするつもりはない。


けど、トオルに彼女がいるとか聞いた事ないし、もし騙されてたりするなら見過ごせないし。


そんな風にさっきから何度も自分自身に言い訳をして、追う理由を作っている。


そんなオレとは違って、トオルは女の人と楽しそうに会話しながら歩いているから、何だか胸がムカムカし始めた。


オレは女の人と一緒にいるのはあまり得意じゃないけど、あの様子からしてトオルはそうじゃないみたいだ。

しきりに話しかけて、機嫌を取っている様にも見える。


…帰りたくなって来た。


尾行って疲れるし、前に寮のみんなで尾行について話した時に、尾行なんてしない、と言い切ったからこんなところを誰かに見られたら大変だし。何より胸のムカムカが増大する一方だ。


これからトオル達がどこに行くのかも気になるけど、帰りたい気持ちの方が強くなって来たから帰ろう。


そう思って寮の方に向かおうとした時、ある事に気付いた。


何で今まで気付かなかったのか不思議だけど、トオルと一緒にいるのは女の人だけじゃない、もう1人いた。


小学生くらいの女の子が、楽しそうにトオルの腕を掴んでいる。


無邪気にトオルに甘えている女の子をしばらく見ていると、前にトオルと家族について話した時の事を思い出した。


確かトオルは姉と妹がいると言っていたから、何だかあの子がトオルの妹の様に見えて来る。


オレには良くわからないけど、妹もデートに参加する事ってあるんだろうか…?


いや、あの子が妹ならあっちの女の人はもしかしてトオルの…。


恥ずかしい。そう思うのと、寮に向かって走り出したのはほぼ同時だった。


本当にあの人達がトオルのお姉さんと妹さんなのかはわからないけど、オレの中ではそういう結論になってしまったから、頭の中は恥ずかしさでいっぱいだった。


恥ずかしい、恥ずかしい、と頭の中で連呼しながら走ると、意外に早く寮に着いた。


玄関でもほとんど止まる事なく寮の中まで走って入ると、廊下を歩いていた白玉にぶつかりそうになって、そこでやっと足を止める事が出来た。


「小路先輩…? 大丈夫ですか?」


止まった途端に肩で息をし始めたオレを見て、白玉が心配そうに声をかけてくれる。


そんな白玉に返事をしたかったけど、あまり体力のないオレは声が出せないくらい息が切れていたから、とりあえず頷きだけ返しておいた。


苦しい…全力疾走って思ったより疲れる…。


「あれ? ユウさんどうかしたんスか?」


オレの荒い呼吸が少し落ち着いて来た頃、家茶がキッチンの方から歩いて来た。


「いや、走って来たから、ちょっと疲れて…」


途切れ途切れに答えると家茶が首をかしげた。


「走って来たんスか? 何で?」


「え…」


…どうしよう、まさかトオルがデートしてると思って尾行してたら相手はお姉さんかもしれない事に気付いて恥ずかしさのあまり走って帰って来た、なんてバカな話をする訳にはいかないし。


「え…と…ちょっと、運動不足で」


「あ、そうなんスか」


「良かった、何かあったのかと思いました」


この純粋な後輩達にウソをついてしまった事は心苦しいけど、どうやら納得してくれたみたいで助かった。


「ユウさん走って帰って来たなら腹減ってますよね? 今からキミと飯食うとこだったんスよ、一緒に食いません?」


「今日はイツキくんが作ってくれたんですよ」


「あ、うん」


全力疾走の疲れのせいでそんなに食欲はなかったけど、笑顔でご飯に誘ってくれた後輩達と一緒に昼ご飯を食べる事にした。

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