アイスを食べたのは…(2)

「マヨさんが自分で食って忘れてるって訳じゃないんスよね?」


「食ってねーし!!」


「マヨ昨日食べなかった」


家茶の意見は根津先輩と隠立にすぐ否定された。


「オレは今日、風呂上がりに食うのを楽しみにしてたんだよ」


「せやったらまだ冷凍庫ん中にあるんやないですか?」


「そうっスよ、奥とか」


「いや、なかった」


「神隠し」


「お前はちょっと黙ってろ」


疑っている根津先輩と、疑われているトオルと家茶、それに隠立も加わって、あーだこーだと話し始めた。


すると、里兎先輩が思い出した様にポツリと言葉を発した。


「…あ、アイスを食べたの宅配便の人だ」


「は?」


里兎先輩の声は小さかったけど、その言葉を聞き逃した人はおそらくいなかったと思う。


今まで騒いでいた根津先輩も、里兎先輩の方を見てポカンとしている。


「ごめんねマヨ、今日暑かったから宅配便の人にあげたんだ。でもボクのは昨日食べちゃってたから」


「…だからオレのをやったと?」


「うん」


「つまり…ハルカが取ったって事じゃねーか!!」


根津先輩は真っ赤になってまた怒り出した。


「うん、ごめんね、あげた事忘れてたんだ」


「謝るとこ違ぇから!!」


「でもアイスに名前書いてなかったから、マヨのだってわからなかったんだよ」


「う~」


うちの寮では、他の人に食べられたくない物には名前を書いたり、目印を付ける事になっている。


根津先輩や家茶はそれを忘れる事が多くて、買って来た物を良く他のメンバーに食べられているけど、どうやら今回もそうだったらしい。食べたのは宅配便の人だけど。


「ごめんね、今度新しいの買って返すからね」


「オレは今日食いたかったんだよ」


頬を膨らませている根津先輩に近付いて、里兎先輩は頭をなでた。


結局容疑者の中に犯人はいなかったのか…と考えていると、突然隠立が立ち上がって部屋を出て行った。


この話は終わりだと思ってお風呂にでも行ったのかと思ったら、隠立はすぐに戻って来た。手にカップのアイスを持って。


「マヨ、アイス」


「くれんの!?」


根津先輩の名前を呼びながらアイスを差し出す隠立を見て、根津先輩が嬉しそうに駆け寄った。


自分の分をあげようとしている隠立に感心しつつ見守っていると、隠立からアイスを受け取ろうと手を伸ばした根津先輩とは逆に、なぜか隠立は手を引っ込めてしまった。


そして、渡すんだと思っていたアイスのフタを開け、スプーンでアイスをすくって根津先輩の口元に持って行く。


「マヨ」


「は…?」


「お食べ」


「は!?」


根津先輩が真っ赤になるのと同時に、みんなが一斉に2人に注目した。


「いや…オレ、自分で…」


目をキョロキョロと動かして周りの様子を窺っている根津先輩を、隠立はジッと見ている。


「う~…わかったよ!!」


食べるまで終わらないと思ったのか、根津先輩は隠立の手からバクッとアイスを食べた。

隠立は満足そうに頷いている。


「あ、2人共、座って食べた方が良いよ」


マイペースな里兎先輩の言葉に従って根津先輩と隠立はその場に座り、そしてさっきの行動を繰り返した。


1回食べたら何回でも同じだと思ったのか、根津先輩はもう文句も言わず差し出されたアイスを食べ続けている…何だか餌付けみたいで可愛い。


「ソルトさんとマヨさんて仲良いな」


「うん」


どこかで聞いた事がある様な会話を後輩達がしている。


みんなの前であんな風に食べさせてもらう事になったら、オレだったら恥ずかしくて死ぬかもしれない。死因、恥ずか死。


そんな事を考えていたら、隣のトオルが話しかけて来た。


「なぁ、ユウちゃん」


「何?」


「後でユウちゃんにもああやって食わしたろか?」


「…トオルがオレを殺そうとしてる」


「え!? なして!?」


無意識に犯人になるつもりらしいトオルが、珍しく取り乱している。

それがおかしくて少し笑ってしまった。

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