エンドレスな休日

昼ご飯の後、リビングのソファーに座ってガラス戸の外を見ると、朝から続く雨が少しだけ弱まっていた。


メンバーの何人かは、雨が降っていたにもかかわらず朝から出かけて行ったみたいだ。


「髪切ろうかな…」


外を見たままポツリと言った言葉に、当たり前の様に隣に座っていたトオルが反応する。


「え? なして?」


「もうすぐ梅雨だし」


「ユウちゃんこの髪型似合うとるのに」


そう言ってオレの髪に触って来たトオルの手を反射的に叩いた。


「叩かんでもえぇやん~」


「あ、つい…」


…何か、前にも同じ様にオレの髪を触るトオルを叩いた事があった気がする。


そうだ、確かトオルがまだこの寮に来たばかりの頃だった。


その日、オレはリビングで昼寝をしていて、目を覚ますとトオルが至近距離でオレの髪を触っていたからかなり驚いた。


言い訳をするならあれは条件反射みたいなもので、寝起きで状況把握がちゃんと出来てなかったし、いきなりの事に防衛本能が働いて、気付いた時にはトオルの頬をひっぱたいていた。


「この髪型可愛ぇのにな」


記憶を思い起こしていると、隣で声が聞こえた。またオレの髪を触っている。


「可愛いって言うな」


「照れんでもえぇのに」


「照れてない」


「ははっ」


トオルはいつもこうやって笑う。


あの時だってそうだった。オレに叩かれた頬は赤くなって、そのせいでみんなに笑われていたのに、オレが謝るとトオルは楽しそうに笑った。


その時、変なヤツだと思ったんだ。

それは今も変わらないけど。


まだ隣でヘラヘラしているトオルを見る。


オレはトオルが怒ったところを見た事がないけど、トオルでも何かに怒る事があるんだろうか。


「何やユウちゃん、そないに見つめられたら照れるやん、チューしたろか?」


トオルが少しだけオレとの距離を縮めて来た。


「いらない、やめろ、するな」


「全力で拒否せんでもえぇやんか~」


そう言いながら顔まで近付けて来たから慌ててトオルの体を押す。


「ちょっ、トオル」


「まぁまぁ」


「いやいや」


この、まぁまぁ、いやいや、を3回繰り返した頃、廊下の方から視線を感じた。


首を動かしてそっちを見ると、そこに立ってこっちを見ていた里兎先輩と目が合った。


トオルは里兎先輩に背中を向けていたけど、オレが動きを止めた事で里兎先輩の方に振り返る。


そんなオレ達の様子を見て、里兎先輩が申し訳なさそうに声をかけて来た。


「ごめんね、邪魔しちゃったかな?」


「え、あ、いや…」


「里兎さん、お邪魔虫やわ~、せっかくユウちゃんとイチャイチャしとったのに」


「してない、誤解する様な言い方するな」


「誤解なの? キスしてるのかと思ったんだけど」


「違います」


確認する様に言う里兎先輩に断言した。勘違いされたままになったら大変だ。


「惜しかったんやけどな~」


「本気じゃなかったくせに」


まだヘラヘラしているトオルを睨む。


オレよりトオルの方が力が強いんだから、しようと思えば出来たはずなのに。


さっきのキス未遂がトオルの冗談だとわかって、本当ならホッとする場面のはずなのに、なぜかオレはムッとしてしまっている。


…きっと、からかわれた事にイラついただけだ。


「本気の方が良かったん?」


ヘラヘラというよりニヤニヤしているトオルから顔を逸らした。


「無視する」


「ははっ、宣言無視とか可愛ぇな~ユウちゃんは」


うっとうしい事を言って来たから握った拳と不機嫌そのものの顔を向けると、怒らんでもえぇやん~とわざとらしく両手を上げてトオルはオレから少し離れた。


「2人は本当に仲良いね」


楽しそうに言いながら空いているソファーに里兎先輩が座る。


どこをどう見ればそんな風に思うんだろう…。


それからは、トオルがちょっかい出して来て、オレが無言で怒って、里兎先輩が笑って…という一連の流れを数時間も繰り返した。疲れた。


こんな不毛な休日を過ごさないためにも、これからは意地を張って無言を貫くのはやめようとちょっと反省した。

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