ムカムカ
今日は寝覚めが悪い。起き上がるのにも少し時間がかかってしまった。
まだあまり働いていない頭で昨日のトオルの様子を思い出す。
何だか変だった…。
言いたい事があるなら言えば良いのに…トオルらしくない。
そんな事を寝る前に考えていたらなかなか寝付けなくて、今日は寝不足気味で起きる事になった。
頭が重いままリビングに向かうと、そこにはトオルと1年生2人が話しているだけで他のメンバーの姿は見えなかった。
「あ、ユウちゃんおはようさん」
「おはようございます」
「おはよう」
「珍しいな、ユウちゃんが一番遅いやなんて」
「先輩達は?」
「みんな出かけてもうたで」
「そう」
寝不足の原因であるトオルが後輩と楽しそうに話しているのを見て少しだけイラついたけど、いつも通りの態度に安心もした。
みんなでご飯、という暗黙のルールがあっても、休日の朝は起きる時間に個人差があるから朝ご飯は各々すませる事になっている。オレが一番遅いという事は、みんなはもうご飯を食べたんだろう。
何か少し食べたらまた部屋で寝よう。このままだと一日中ぼんやりして過ごす事になる。
「ユウちゃん」
キッチンの方に行こうとしたらトオルに呼び止められた。
「何?」
「ん…いや、これから出かけへんかなーて」
「行かない」
トオルにしては歯切れの悪い言い方でちょっと気になったけど、いつもと同じ様に返した。
寝不足の体は重いから動きたくない。
「わかった、ほならワイは1年の子らにその辺案内して来るわ」
「え…トオル行くの?」
「おぉ、学校までの道を確認しときたい言うからな、一緒に行ったろ思て」
「そう…」
「わざわざすいません、師田先輩」
「えぇよ~」
「トオルさん、オススメの買い食い屋とかあったら教えてくれません?」
「お~教えたる教えたる。ほなユウちゃん、行って来るな」
「行って来ます」
「うん」
3人が出かけて部屋の中が静かになると、元々あまりなかった食欲が完全になくなってしまって、結局その後はすぐ部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。
…寝不足で胸がムカムカする。
いつもはオレが行かないって言ったら、じゃあ自分もって言うくせに。
確かに案内してあげたら白玉と家茶は助かるだろうし、トオルが残らなきゃいけない理由はないから別に良いんだけど、でもいつもはもっとうるさいくらい何度も誘って来るのに…。
そうやってまたグルグル考え事をしていたらいつの間にか眠っていたみたいで、目が覚めたのは昼を過ぎてからだった。
昔から昼寝をするといつも寝過ぎてしまう。今日も3時間くらい寝てしまっていた。
さすがに何か食べようと部屋を出てキッチンに向かう。
途中リビングの方から話し声がしたから覗くと、朝と同じ様にトオルと1年生達が話していた。
オレに気付いたトオルが声をかけて来る。
「ユウちゃん、ただいま」
「…お帰り」
「あ、ただいまっス」
「ただいま帰りました」
「うん、学校の場所わかった?」
「はい」
「トオルさんに色々案内してもらったんスよ」
「そう」
寝てスッキリしたはずなのに、また少しムカムカがぶり返して来た気がする。
寝過ぎて逆に体調が悪くなったのかもしれない…。
「ユウちゃん? 眉間にシワ寄っとるで?」
気付いたらいつの間にかトオルが目の前に立っていて、それに驚いているオレの頬に手を伸ばして来る。
「何…」
「寝れへんかったん?」
「…え?」
頬をなでている手を払おうとしたけど、トオルのその言葉で手が止まってしまった。
「ユウちゃん今日寝不足やったやろ? 誰もおらへん方が静かで寝やすい思うたんやけどな」
「何で…」
「ん? 何が?」
「オレ寝不足とか言ってない」
「そんなん顔見たらわかるわ~」
当然の事の様にそう言って笑うトオルの顔を見たら、何だか気が抜けてさっきまでのムカムカが消えて行った。
…悔しい。何でオレがトオルの言動で浮き沈みしなきゃいけないんだ。
その悔しさを解消するために、殴りやすい位置に移動してトオルの腕にパンチする。
「トオルのくせに、トオルのくせにっ…」
「あいたっ、ユウちゃんどないしたん? あた、あいたっ」
痛いと言いながらも、連打しているオレのパンチをトオルはよける事なく、オレがやめるまで全部受け続けた。
「もう終い?」
「うるさい」
「ははっ、ほな何か作ったろか? 腹減ったやろ?」
「親子丼」
「ん~」
相づちを打ちながらトオルはキッチンの方へ歩いて行く。
何かトオルと話してたらお腹空いて来た。
「トオルさんとユウさんて仲良いな」
「うん」
そんな後輩達の楽しそうな声が後ろから聞こえる。
またトオルに調子を狂わされた事に少しイラついたけど、美味しそうな親子丼を作って持って来てくれたから、出そうと思っていた手は引っ込める事にした。
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