1年生がやって来た(2)

何だかんだ話しながら荷物を運んでいたら本当にすぐに終わって、里兎先輩の提案でリビングで話をする事になった。


「じゃあ、こっちのメンバーを紹介するね」


「はい」


1年生2人は揃って返事をする。さっき白玉に聞いたところ、2人も今日が初対面らしいけど、何だかもう仲が良さそうに見える。


「ボクは3年の里兎さとうハルカ。寮長をしてるよ、よろしくね」


「よろしくお願いします」


「こっちの背の高いのが3年の阿荘あそうスバル。頼りになるから何か困った事とかあったら言うと良いよ」


「はい、よろしくお願いします」


「あぁ」


「こっちの背の低いのが3年の根津ねずマヨ。すぐ怒り出すけど悪い子じゃないから仲良くしてあげてね」


「あ、3年だったんスか。小さいからオレらと同じ1年かと思った」


「うるせー!! 背はこれから伸びるんだよ!!」


「いてっ」


家茶に悪気はなかったと思うけど、禁句を言われた根津先輩は怒ってローキックを食らわせた。


「根津さん、そないに怒らんでもえぇやんか~」


「うるせー!!」


「あいたっ」


そして止めに入ったトオルもまた、とばっちりのローキックを食らっている。


その様子を笑って見ている里兎先輩の隣で白玉がオロオロし始めた。


そんな白玉に、何事もなかったかの様に根津先輩が近付いて話しかける。


「まぁ何か聞きたい事とかあったら先輩であるオレに聞けよ、な?」


「あ、はい、よろしくお願いします」


あれ、昨年オレと隠立も言われた。後輩には言うらしい。


返事を聞いて根津先輩は満足そうに頷き、被害を受けた2人はもう痛がる様子もなく笑って話している。


「マヨさんて面白いっスね」


「せやろ、いっつもリアクション返してくれんねん」


「じゃあ2年の紹介をするね」


「はい」


さりげなく里兎先輩が仕切り直して、また1年生達が揃って返事をした。


「こっちの彼が隠立かくしだてソルトくん。面白い子だよ。ハーフだけど日本語で大丈夫だからね」


「へ~、ハーフっスか、初めて見た。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「うん」


「そっちの彼が小路しょうじユウくん。ちょっとクールなんだけど優しいからすぐ仲良くなれるよ」


「はい、よろしくお願いします」


「あ、うん、よろしく」


何だか里兎先輩の紹介がオレの事を言っている感じがしなくて、1年生達に話しかけられたオレは少しあせってぎこちない返事をしてしまった。


「最後に、さっきマヨに蹴られてた彼が師田しだトオルくん。気さくなお兄さんだよ」


「よろしくお願いします」


「よろしゅうな。せやけど里兎先輩、何やワイの紹介だけ雑やないですかー?」


「そうかな?」


「そうやわ~」


「いやでも、ちゃんとトオルさんの性格が伝わって来ましたよ」


「ほんまかいな」


「ダシはしょうゆが好き」


里兎先輩のフォローをしている家茶と、それにツッコんでいるトオルにちょっと笑いそうになっていたら、隠立が爆弾を投下した。


そういう事は言うなって言ったのに…。


「あのさ…隠立はオレとした約束覚えてる?」


「覚えてる」


「守る気あった?」


「守る気ある」


どこが?


呆れた様な視線を送ると隠立は小さく頷いた。


…あ、わかった。デートって言わなきゃ良いと思ってるんだ。


出来ればもう少し察して欲しかったんだけど…。

案の定後輩2人は目をパチパチさせている。


「せやねん。やからユウちゃんにちょっかい出すんはやめてな」


早くこの話題を終わらせたいのに、隣にいるトオルがしれっとそんなバカな事を言う。


これ以上オレを巻き込むな、という意味で睨み付けたけど、トオルは楽しそうに笑っているだけだった。


「あぁ、師田だからダシで、小路ユウだからしょうゆなんスね」


オレの心配をよそに、家茶は変なあだ名に食い付いたみたいだった。


隠立は頷いて、先輩達のあだ名も教えて行く。

ちなみに、里兎先輩が砂糖、阿荘先輩がソース、根津先輩がマヨ(マヨネーズ)だ。


「ふんふん。スバルさんのは秀逸っスね。あ、ならオレにも何かあだ名付けてくださいよ」


なぜか家茶はそんな事を言い出した。わざわざ自分からそんな事言わなくても、隠立は勝手にあだ名を付けるのに。


「ケチャップ」


「ケチャップ!! 良いっスね!!」


何が良いのか全くわからないあだ名を付けられても楽しそうにしているあたり、この後輩は結構強者かもしれない。

白玉のあだ名も考えてくれと隠立に頼んでいる。


それを見ていたら隣から視線を感じた。


顔を向けると、探る様な目でトオルがこっちを見ていた。


「…何?」


「んーん」


そう言ってトオルはいつもみたいに笑ったけど、オレにはそれがいつもの笑顔には見えなかった。

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