1年生がやって来た(1)
入寮する1年生を待つために、今日は朝からみんなでリビングに集まっている。
「こんにちは」
「こんちはー」
みんなで雑談をしているところに、玄関の方から控えめな声と元気な声が聞こえて来た。
「一緒に来たみたいだね」
そう言って里兎先輩は1年生を出迎えるために玄関の方へと歩いて行く。
するとすぐに声が聞こえて来た。
「みんな、荷物運ぶの手伝ってあげてくれる?」
その言葉に全員が立ち上がる。
「1年の子らは引っ越し業者に部屋まで荷物運んでもらわんかったんやな~」
「ハルカが部屋番号伝え忘れたんじゃないか?」
「そういうとこは結構抜けてるからな、ハルカって」
「せやったら今から言えば運んでくれるんちゃいます? まだ業者おるやろし」
「多分ハルカが、人手があるから大丈夫、とか言っただろうからもういないと思うぞ」
「あ~、絶対言ってるな」
トオル、阿荘先輩、根津先輩の順にしゃべりながら廊下を歩く。
玄関に行くと里兎先輩と2人の男の子が立っていて、床には大量のダンボールが置かれていた。2人分にしては多い気が…。
「あ、こんちは。オレ
そう言って赤い髪の子の方は人懐っこそうに笑っている。
「あの、初めまして。
黄色い髪の子の方はペコッと頭を下げた。
この子オレより背が低い…好感が持てる。
「ボク達の紹介はこれ運んでからにしようか」
里兎先輩の言葉に全員が頷く。
「んじゃ、運ぶか…って何だこれ!? 重っ!!」
根津先輩が近くにあったダンボールを持ち上げようとしたけど持ち上がらなかった。
「おい、これ何が入ってんの?」
「あ、マンガっス、その(マ)って書いてあるの全部」
「全部!? お前こんなにマンガ持って来たの!?」
「だってここで3年暮らすんスよ? 必要じゃないっスか」
「だからって多過ぎんだろ、しかも重いし。オレ運ぶの嫌だからな」
根津先輩と家茶が言い合っているところに阿荘先輩が割り込み、根津先輩が持ち上げられなかったダンボールを持ち上げた。
「マヨ、これはオレが運ぶ。向こうを手伝ってやれ」
「おぅ、わかった」
阿荘先輩はダンボールを持って廊下を歩いて行った。
中身が中身だからかなり重いはずなのに…さすが阿荘先輩、と思っていると、トオルがオレの横を通り過ぎた。(マ)と書かれたダンボールを持って。
「え…?」
「ん? 何? ユウちゃん」
オレが小さく漏らした声を聞き逃さず、トオルは律儀に足を止めた。
「トオル、それ運ぶの?」
「まぁ、持てるしな。さすがにこの量阿荘さんだけやったらキツいし」
「あ、オレも自分のなんで運びますよ」
そう言って家茶も(マ)のダンボールを持ってトオルと一緒に廊下を歩いて行く。
まさか阿荘先輩以外に運べる人がいるなんて思わなかった。
オレもマンガのを運んだ方が良いのかな…正直持ち上げられるか不安だけど。
「ユウちゃんは白玉の方を手伝ったりぃな、そっちも数あるし」
声のする方を見ると、歩いて行ったと思っていたトオルがすぐそこで立ち止まり、こっちを見ていた。
「な?」
「…うん」
オレの返事を聞いてからまた歩き出したトオルを見て、胸がざわつくというかムズムズするというか、何だか変な気分になった。
「うーん、これはボクも持てないだろうから遠慮しようかな。こっちは…何だろう? (フ)って書いてあるけど…」
違う文字が書いてあるダンボールを見て、里兎先輩が首をかしげている。
「あ、それ服っス」
そこに1つ目を運び終えた阿荘先輩と家茶が戻って来た。
「服も好きだからいっぱい持って来たんスよ、Tシャツとか」
確かにマンガ程じゃないにしても(フ)と書かれたダンボールも結構数がある。
好きなのは良いけど、こんなにいるんだろうか…?
「じゃあハルカと隠立はそっちを運べ。重かったら無理するな」
「うん、わかった」
「おい、こっちも運ぶぞ」
先輩達のやりとりを見ていたら根津先輩に呼ばれたので慌てて白玉の方へ移動する。
「すいません、手伝ってもらっちゃって。助かります」
「良いよ、これくらい」
「どうせハルカが引っ越し業者帰したんだろ? みんなで運ぶから、とか言って」
「あ、はい、里兎先輩がみんなでやれば早いからって言ってくださって」
本当にそうなんだ…。
「やっぱな。まぁすぐ終わんだろ」
そう言って根津先輩が近くにあったダンボールを持ち上げる。
オレも運ぼうと下を見ると、小さめのダンボールがたくさん並んでいた。
「何か思ったより数あるけどダンボール大きいのなかったの?」
「あの、大きいと自分で運べないかなって思って」
「あぁ…」
なるほど、確かに根津先輩と同じくらい非力っぽい。こんな事言ったら根津先輩は怒るだろうけど。
「確かにお前ら同じくらい非力っぽいもんなー」
…同じ事思われてたうえに、笑って言われた。
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