1年生が来る前に

4月に入った。


1年生の2人が明日来るらしいので、今日はみんなで1年生が使うための部屋を掃除して、今は各々の時間を過ごしている。


あ…1年が来る前にしとかなきゃいけない事があった。隠立と話をしないと。


リビングに行くと、そこには寮のメンバーがほとんど揃っていたけど、肝心の隠立だけがいなかった。


ユウちゃん、と笑って手招きしているトオルは無視してキョロキョロと部屋の中を見渡していると、テレビを観ていた根津先輩が振り返って答えてくれた。


「ソ…あいつならオレの部屋にいるけど」


「え?」


どうして本人がここにいるのに隠立が根津先輩の部屋にいるんだろう…。


「昼寝」


オレの表情を読んだのか、また質問する前に答えてくれたけど、その答えを聞いてオレは首をかしげてしまった。


「昼寝? 根津先輩の部屋でですか?」


「そう」


「…? わかりました、ありがとうございます」


廊下に出て悩む。


昼寝をしているなら起こすのも悪いし、そもそも隠立は自分の部屋じゃなくて根津先輩の部屋で寝ているらしいから入りづらいし。


どうしようかと悩んでいると、タイミング良く隠立が根津先輩の部屋から出て来た。


「隠立」


呼び止めるとどこか眠そうな、でもいつもと変わらない様な顔がこちらを向いた。


「昼寝した」


「知ってる。何で根津先輩の部屋で?」


「マヨのベッド寝転がると程良く眠い」


「それ日本語間違ってる」


「そう」


そうって…。


「用ある?」


「あ、うん、ある」


「うん」


「あのさ…隠立ってトオルとオレの事どう思ってる?」


「2人共友達」


「あ、うん。そうじゃなくて、トオルとオレの関係」


「仲良し」


仲良し…微妙なラインだけどセーフにしとこう。


「デートする仲」


アウトだった。


「その…そういう変な事は明日来る1年達の前では言わない様にして欲しいんだけど」


「変な事?」


「だから、デートとか」


「こないだダシとしょうゆはデートした」


このダシとしょうゆというのは隠立が付けたトオルとオレのあだ名。トオルがダシでオレがしょうゆ。

最初に呼ばれた時は自分の事だとはわからなかったけど。


隠立はこうやってみんなに変なあだ名を付けて呼んでいて、トオルと一緒で何度言ってもやめないからもう諦めている。


「そういう感じの事を言わないでくれる?」


「わかった」


隠立が頷きながら返事をした。


「本当にわかった?」


「わかった」


念を押すとまた頷いたので信じる事にした。


それにしても隠立が1人の時に話せて良かった。みんなの前だと多分トオルが横やり入れて来るだろうから、またややこしい事になるし。


トオルにも注意しておいた方が良いかな…。

1年達に変な誤解をされるとトオルも困るかもしれないし…いや、あいつは困らない気がする。


まだリビングの方からオレの名前を呼ぶトオルの声がするから、それをやめさせるためにリビングに向かう事にした。

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