デート…?
結局昨日はあれから約30分間の攻防が続いて、トオルのねばり勝ちという結果になった。
という訳で、今2人で次世代型総合商業施設エッグプラザに来ている。
トオルがお茶を飲もうと言うのでカフェに入った。
「初デートやね、ユウちゃん」
「デートじゃないし」
2人してアイスコーヒーを飲んでるけど、意外と量が多くて飲みきれるかちょっと心配になる。
それにしても来て早々にお茶って…まだどこも見て回っていないから疲れてもないし、のども渇いてない。もしかして…。
「トオルさ、ここに目的ないんじゃない?」
「え? 茶、飲もうて言うたやん」
「違う、エッグプラザに」
「せやね、特に目的はあらへん」
「やっぱり…」
「今から決めようや」
「は?」
「次どこ行く? 何する? て話し合うんも醍醐味やない?」
「何の醍醐味?」
「デート」
思った通りの答えが返って来た。
トオルはあくまでデートだと言い張るらしい…仕方ないから乗る事にした。
「わかった、じゃあそのデートの次の目的地決めて。トオルに任せるから」
醍醐味には付き合う気になれず、アイスコーヒーを飲みながらトオルのプランを待ったけど一向に返事がない。
丸投げしたのが気に入らなかったのかと視線だけを上げて様子を窺うと、トオルは嬉しそうに笑っていた。あぁ…胸がざわつく。
「…笑うところじゃないんですけど」
「ユウちゃんがデートて言うてくれたんが嬉しいねん」
「トオルがしつこいから言っただけ」
「ユウちゃんはワイを喜ばすんが上手やわ~」
「じゃあ今日はトオルのおごりで」
「えぇよ、デートは彼氏が出さなな」
「オレは彼女じゃない」
「あいたっ」
テーブルの下で足を蹴ってやったけど、こういうんも恋人らしいわーなんてトオルが言うから呆れて文句も出なくなった。
「ユウちゃんが行きたいとこないんやったら、ユウちゃんがした事ない事しよや」
その言葉通り、その後はエッグプラザ内をブラブラした。
普段あんまり外出する方じゃないオレは、用事が出来たら外出して用事が終わったら帰るという感じだから、こんな風に店を見て回るのは少しめまぐるしく、そして新鮮だった。
ただ、トオルがいろんな物を買ってくれようとするから断るのが大変だったけど。
「ユウちゃん」
「ん?」
トオルが指の背でオレの頬をなでる。この触り方が癖なのかいつもこうで、これもオレの胸をざわつかせる理由の1つだ。
「…何?」
「結構歩いたしユウちゃん疲れたんちゃう?」
「あぁ…うん、ちょっと疲れた」
「せやろ。ほな、ご飯食べたら帰ろか?」
「ん、じゃあその前にトイレ行って来る」
「エスコートしたろか~?」
「殴るぞ、待機してろ」
「え~」
トイレに行って戻ると、トオルはなぜか手に黒猫のぬいぐるみを持って立っていた。
何で黒猫のぬいぐるみ…?
「それさっきまで持ってなかったよね?」
「ん? これか? これはユウちゃんへのプレゼントやねん」
「は?」
「デートに付き合うてくれた礼や」
そう言ってトオルは持っていたぬいぐるみをオレに差し出して来た。
「高校生の男にぬいぐるみ?」
「ユウちゃん黒猫っぽいしな」
意味がわからない理由だけど、それがトオルらしい。
差し出されたぬいぐるみを手に持って良く見てみると、何とも不機嫌そうな顔をしていた。
オレこんな顔してるのかな…。
「この表情がえぇやろ? 可愛ぇ」
「…趣味悪い」
「あ、アカンかった? 捨ててもえぇよ?」
「捨てるのもったいないからもらっとく」
「そら良かった。抱いて寝たってな」
返事の代わりに腕にパンチしといた。
夕飯を食べて寮に帰るとみんなはリビングでくつろいでいて、オレ達に気付いた里兎先輩が声をかけてくれた。
「あ、2人共お帰り」
「遅うなりました~」
「お風呂入れるよ」
「ありがとうございます」
「ほな、ユウちゃん先入り、疲れとるやろ?」
「じゃあ遠慮なく」
頷いて着替えを取りに行こうとした時、隠立がこっちをジッと見ている事に気付いた。正しくはオレの持っている物を、だけど。
「デートの戦利品」
黒猫のぬいぐるみを見てポツリと言った隠立の言葉に、オレより先にトオルが反応した。
「いやいや、戦利品やのうて記念品や。初デート記念にワイがユウちゃんにプレゼントしてん」
それを聞いたみんなはなぜか、へぇ、という感じに頷いてるけど何も不思議に思わないんだろうか。男が男とデートしたって言ってるのに。
みんなトオルの冗談に慣れているのか、それともこれが大人な対応というやつなのか。
それはわからないけど、疲れてるからもうお風呂に入って寝る事にした。
この日…不覚にもぬいぐるみを抱いて寝てしまった。
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