第18話 「圭司。」

 〇東 圭司


「圭司。」


 ギター担いで歩いてると、声をかけられた。


「あれ?まだ寝てたと思ったのに。」


 俺が出かける時、まだ部屋からも出て来てなかった瞳ちゃんが、エスカレーターを駆け上がって来た。


「パパに呼び出されたの。」


「そりゃー、いくら娘でもダッシュだね。」


「あのね…」


 瞳ちゃんは周りをキョロキョロと見渡して。


「…アルバム作らせてもらえるみたいなの。」


 俺の耳元に唇を近付けて、小声で言った。


 …アルバム…?


「えっ、すごいじゃん!!」


 つい大声で言うと。


「あっ、しー、しー…」


「ご、ごめん…」


 二人して頭を下げて、エレベーターホールの隅っこに行く。


「ここんとこ、ずっと頑張ってたもんね。」


 そうだ。

 瞳ちゃんは、神と一瞬付き合った頃から、ジョギングも始めたし…ボイトレも頑張った。

 ラジオの仕事を減らすかなって思ったけど、それも頑張りながら歌の方も小さな現場からテレビまで、幅広く出た。

 今の自分が楽しければいい。ってイメージの瞳ちゃんだけど。

 本当…ここ数ヶ月は、自分から仕事を取りに行ってる感じもすごかったし…


 …うん。

 瞳ちゃん、すごいなあ。

 そりゃ、高原さんも親としての褒美じゃなくて、上司として評価するよね。



「色んな人の曲を歌うの。ママのもあるし、パパが作ってくれるのも。」


「へ~…すごいね、ほんと。」


「千里の曲も歌えたらいいんだけど…千里の曲って…ねえ。」


「んー…瞳ちゃんにはちょっと…合わないかなあ。」


 まだ神の事好きなのかな?

 神は…完全に、瞳ちゃんの事、女友達って感じだけど…。



「あ、行かなきゃ。」


 瞳ちゃんが時計を見て言った。


「うん。」


「じゃあね。」


「あ、瞳ちゃん。」


 開いたエレベーターに乗り込む瞳ちゃんに、声をかける。


「ん?」


「おめでと。頑張って。」


 俺がそう言うと、瞳ちゃんはすっごくいい笑顔になって。


「ありがと。頑張る。」


 両手でガッツポーズをした。



 …アルバムか…

 羨ましいな…


 って。

 羨ましがってる場合じゃないよ。



 それからしばらく、八階で色んなバンドのスタジオを見学させてもらった。


 解散して二ヶ月。

 いまだに…俺は身の振り方が決まってない。

 神は…高原さんに言われて、たくさん曲を作った。

 そりゃあもう…毎日ガムシャラに作ってた。


 俺は…ギターの練習して…

 どういう形でもギター弾いてなきゃ…って。

 とにかく、サポートって形で弾いた。


 正式なギタリストがいないバンドとか…

 ソロアーティストのバック…


 だけど、どれだけ弾いても…満たされなかった。

 みんなからは褒められるんだけど、どうしても…俺自身が満足出来なかった。

 俺って、これぐらいしか弾けないんだっけ?なんて…



 三時を過ぎた頃、今日はもう予定もないし…帰ろうかなあ…なんて寂しい事考えてると…


「圭司、会議に出えへん?」


 朝霧さんが声をかけてくれた。


「会議?何の会議ですか?」


「色々やな~。新人のデビューとか、プロデュースとか、ツアーとか。」


「…俺が出てもいい会議です?」


「刺激とか勉強になればええかなと思うて。」


 朝霧さん…なんて優しいんだー‼︎


「ついて行きますっ。」


 俺が襟を正して言うと、朝霧さんは吹き出しそうな顔をした。


 あ~、ほんっといい人だ!!

 ちょっと元気出た!!



 朝霧さんについて会議室に行くと、そこには高原さんもいて…神もいた。

 後は、滅多に会わないようなツアースタッフをしてる人とか…厳しい音響さんとか…色々。



「集まったな。じゃ、始めるぞ。」


 高原さんが資料を開いて、会議室に同じような音が響いた。

 ナオトさんがホワイトボードの前に立ってるのを見て、そういう役目って、俺みたいな下っ端がやった方が?なんて思っちゃったけど…

 ナオトさんは、そういうのが好きなのかな。

 高原さんの意見とか、全員からの声を、すごく上手くまとめて書き留めた。



 そして…

 話題が、神の作った歌の事になった。


「千里。」


「はい。」


「よく、この短期間で書いて来たな。」


 神は…この二ヶ月で、6曲書いた。

 それも、ただ書いただけじゃない。

 アレンジもしたし…もう、これで神がアルバム作っちゃえばいいのにってぐらいのやつ。



「だが…」


 高原さんは、神が書いた曲の歌詞や曲調の事が書いてある資料を、バサッと机に投げ出すと…


「全曲…ボツだな。」


 低い声で言った。


「…えっ…」


「マジで…?」


 会議室はざわついたし…俺は茫然としたけど…

 神は…高原さんを見据えて、無言だった。


「おまえの歌には、人間くささとか、温かさとか、そういう熱が全くない。」


 その言葉に、会議室は静かになった。


「胸に来るものがない。」


「……」


 しばらく…会議室は静かなままだったんだけど…


 ガタン


 神が…立ち上がった。


 しかも…その顔が…

 めちゃくちゃ怒ってる!!

 こんな神、見た事ない!!ってぐらい!!

 タモツと言い争ってた時とか…そんなの比べようがないぐらい…


 バサッ


 神も、高原さんみたいに…資料を机に投げ出した。

 そして…


「…やってらんねーよ。」


 一言、そう言って…会議室を出て行っちゃったんだ…。



 〇高原 瞳


 …なんだかんだ言って…

 千里と圭司は、今もパパのマンションで、あたしと三人で暮らしてる。

 …とは言っても。

 千里は、割と早い内に出て行こうとしたみたいだけど。

 TOYSの全国ツアーとか始まって、そうすると家に帰る事なんてないからもったいないよねって提案して。

 あ、もちろんあたしが。

 それで、半ば無理矢理居座らせてる。



 圭司は最初、上手くやってプライベートルームで暮らそうって思ってたみたいだけど。

 ルームは寝泊まりするのはOKだけど、住むのはダメ。

 まあ…確かに上手くやっちゃえば分かんないとも思うけど…

 でもパパって意外と目光らせてるもんな~。

 なんでそんな事知ってんの!?って、ビックリするような事まで知ってるし。



 で。

 TOYSが解散したから…

 当然、千里と圭司はプライベートルームも失くした。

 ルームが欲しいなら、デビューするしかないんだよね。


 スタッフにはスタッフのルーム…って言うよりは、フロアがある。

 ただっ広いフロアに、照明とか音響とか映像とか…とにかくたくさん書かれたパネルがあって。

 もう、そこは戦場さながら。

 あたしなんて、行く用ないから行かないけど。

 パパは思い出したようにそこの一角に立ち尽くしてフロアを見渡して。


「はっ…たっ高原さん!!」


 誰かが気付いてそう言って、全員がひれ伏す(表現がオーバーかな)のを楽しみにしてるみたい。


 パパは誰にも『社長』とか『会長』とか呼ばせない。

 どうして?って聞いても…


『そんなガラじゃないからなー』


 って笑う。


 そうかな?



「千里遅いね。」


 あたしが時計を見て言うと。


「あー…遅くなるって言ってた。」


「何かあるの?」


「んー…ボイトレしてるはずだから。」



 あたしのアルバム制作が決定したお祝い、三人でしたかったんだけどな。

 仕方ないから?圭司と二人で、圭司が作ったナポリタンスパゲティを食べた。

 で、今はあたしはテレビを見てるけど…

 圭司はソファーに座って…少しイライラしてる気がする。

 だって…


「…圭司、貧乏ゆすりやめてよ。」


 あたしが小刻みに動く圭司の右足を見て言うと。


「えっ、俺そんなのしてた?」


「してたわよ。」


「おかしいなあ。だから貧乏なのかな?」


「…笑えないからやめて。」


 だから貧乏なのかなって…

 あんた、通帳三つも母親に渡してたじゃない。

 …お金、入ってたのかな?

 なかったから、家売られたんじゃ…



 あたしはさりげなく圭司を観察する。

 TOYSって、どうしても千里が目立ちまくってたから、圭司って二番目って感じだったよね。

 ま、もはや影みたいにしか思われてなかったタモツとマサシを思えば…十分だけどさ。


 鎖骨ぐらいまでの、少し天パ入ってる髪の毛。

 うちに帰ると、気を使ってなのか、結んでくれる。

 基本、笑顔。

 ステージでは真面目な顔する事もあるけど…お客さんに向けての笑顔は、なかなか…


 うん…

 イケてるんだよね。



 出会った頃は、やな奴って思ってた。

 話す事はチンプンカンプンだし。

 やたら笑顔なのも、何だか許せなかった。


 でも…

 一緒に暮らし始めて、圭司の笑顔に癒されてる気がする。

 …笑いたくない日もあるだろうに…。


 で、まさにそれが今日なのかな?

 あたしのアルバム制作決定で、気を使ってくれてるんだろうけど…

 イライラしてるよね?



「…何イライラしてんの?」


 おさまらない圭司の貧乏ゆすり。

 あたしは、圭司と距離をつめて、右足を押さえた。


「…別にイライラなんてしてないけど。」


 圭司は押さえられた右足を見て、あたしを見た。


 うーん…

 笑顔だけど…何だかいつもと違うよ。



「…もしかして、あれ?あれ見たから、焦ってるの?」


「…あれって何?」


 圭司も…千里と一緒!!


「SHE'S-HE'Sのロクフェスの映像よ。」


「……」


 SHE'S-HE'Sは先週ロクフェスに出た。

 うちの映像科の撮影班は現地でそれを撮って、すぐに持ち帰って三日三晩寝ずに編集したらしい。

 …そうしたくなるようなステージだった。ってわけよね。


 で、当然…その圧巻なステージ…

 しかも、うちの優れた撮影班が腕によりをかけたやつ。

 唸るように盛り上がる客席とかさ…

 凄かったわよ。


 まだデビューして一年も経ってない、ライヴも一度しか経験してないペーペーって言っていいバンドが。

 あの、グランドロックフェスティバルよ⁉︎

 大御所もいっぱい出てる、あのフェスよ‼︎

 それに出て、客席をトリコにしちゃってるんだもん。


 もう…鳥肌はもちろんだけど…

 怖いって言うより、凄過ぎて笑いが出た。



「すごかったわよね。もう、同じシンガーって括りにいちゃいけない気さえするわ。」


 あたしが首をすくめながら言うと。


「…瞳ちゃん、それでいいの?」


 いきなり…圭司がらしくない声で言った。


「…どういう事?」


「悔しくないの?知花ちゃんの歌聴いて、自分だってもっと出来るって、奮い立つとかさ。」


「……」


「俺は、すっげ思ったよ。俺だってもっと弾けるのに…あいつら恵まれてて羨ましいって。」


 …何だか…

 圭司がこんな事言うの、初めて聞く気がする。


「俺は…もっとTOYSで頑張りたかったのに…」


 …ああ…そっか。

 そうだよね。

 圭司、まだ立ち直れてないんだね。


 タモツとマサシは事務所を辞めた。

 タモツはサラリーマンに転職。

 マサシはもっとちゃんと音楽の勉強をしたいって、音大目指すって言ってた。


 あの二人は、もう動き出したというのに…

 残された千里と圭司は、まだ動けないまま。

 千里には…新人プロデュースの話が上がって、新曲作ったりもしてたみたいだけど…

 いまいち熱が伝わって来ないって言うか…

 …歌わないのかな?


 圭司と、またバンドするのかなって思ってたのに。

 圭司は、色んなバンドのサポートばっかしてるし…


 …だから、焦ってるのか…。



 あたしは小さく溜息をついて…圭司の頭を抱き寄せた。


「…これ、何?」


 圭司は…いつものちゃらんぽらんな感じじゃなくて、ちょっと真面目な声だった。


「だって…圭司、壊れちゃいそうなんだもん。」


「…そんな事ないよ。」


 …どうしちゃったんだろ。

 あたし。

 …圭司を…ほっとけないって思ってる?


 これって…

 恋?



「…こんなの良くないよ。」


 圭司はそう言って、あたしの腕を取った。


 …何よ。

 今にも泣きそうな顔してるクセに…


「…圭司のバカ。」


 あたしは取られたままの腕をふりほどこうと…したけど、圭司がそれを離さない。


「…何なのよ。良くないって…何なのよ。」


「…俺、男だから、こういうの誤解しちゃうって事だよ。」


「今までウェルカムだとか言ってたクセに。」


「…あの時は…今とは事情が違うから…」


「事情って何。圭司って分かんない。」


 ふりほどこうとしても、離れない手。

 あたしは腕を掴まれたまま立ち上がって…


「きゃ!!」


 タイミングが悪くて、そのまま圭司の上に…背中を向けて転がり込んだ。


「……」


「……」


「…これ…」


 あたしはドキドキしてたんだけど…

 圭司の視線は、あたしの腕にあった。


「…ああ…なんて事ないわよ…」


 小さな、小さな傷になった。

 ジェフに…殴られてた頃の傷。

 もう、あたしは…立ち直ってる。

 何てことない。



「あの時…の?」


「そうよ。」


「……」


 圭司は…千里から事情を聞いて、一緒に居てくれた。

 あの時は…何も言わず、ただ二人とも…一緒に居てくれた。

 …救われた。



「…そんなに見ないでよ。」


「だって、女の子なのに…」


 圭司はそう言いながら、じっとあたしの腕を見る。


「…そんなに見たい?ここにも、ここにもあるけど。」


 あたしは自由になった右手で、Tシャツをめくって脇腹を見せたり、右肩の傷を見せたりした。


「どうって事ないわよ。昔の事だも」


「瞳ちゃん…」


 ギュウッ。


「……」


 圭司に…強く抱きしめられた。

 強く…強く。


「な…」


「女の子なのに…こんな…」


「……な…なんで…圭司が泣くの…」


 圭司はあたしを後ろから抱きしめたまま、ポロポロ涙をこぼしてる。


「だって……痛かったよね…苦しかったよね…」


「……」


 …そう言えば…圭司も…そうだったんだっけ…


「…痛かったし…苦しかったけど…」


 あたしは圭司の腕にそっと触れる。


「この傷見るたびに、あたし…思うんだ。」


「……」


「あたしは、絶対誰も傷付けないって。」


 そう。

 絶対…傷付けない。

 痛い想いなんて…みんなしたくないよ。


「それに…」


「……」


「みんなに、優しくしたいって。そう思うんだ。」


 あたしは…ハッキリ言っちゃうタイプだから…

 自然と誰かを傷付けてる事があるかもしれない。

 だけど、その分って言うか…

 偽善者って言われるかもしれないけど…

 みんなに優しくしたい。って…心から思ってる。



「…瞳ちゃんて…」


 圭司が、あたしを抱きしめてる腕の力を緩めた。

 そして…ゆっくりと、あたしの身体を自分の方に向き直らせて…

 あたし…結局、すっぽりと…圭司に抱きすくめられてる…


「…瞳ちゃんて…?」


 ドキドキしながら…聞き返す。

 圭司は、優しくあたしの髪の毛を耳にかけながら…


「…瞳ちゃんて…すごく…」


「……」


「…きれいな女の子だね…」


「………え…?」


 すごく…意外な言葉だった。

 てっきり…強いって言われるか…反対に、強がってるって言われるか…なんて思っちゃってた。


「き…きれいなんかじゃ…」


「…キスしていい?」


「…えっ…?」


 つい、ビックリして声が引っ繰り返った。

 そ…そんなの聞く!?



「き…聞かないでよ…」


「聞かないでやって、拒否られたらへこむから。」


「…圭司でも…へ…へこむんだ…?」


 ああやだ!!

 ドキドキして…言葉が…!!


「キス…いい?」


「…ど…どうして…?」


 ドキドキしながら、上目使いに圭司を見る。


「…したいって思ったから…」


「…雰囲気に…流されてるってやつ…ね?」


「……んー…」


 圭司は少し考え込みながらも…

 あたしの髪の毛を、繰り返し…耳にかけてる。

 …あ、なんかこれ…ちょっと気持ちいい…


「…俺、もしかしたら…瞳ちゃんの事、すごく…好きなのかも。」


「…は?」


「神から付き合うって聞いた時…本当は、ちょっと妬いちゃったんだよね…」


「……」


「神を取られた気がしてたけど…違ってたんだなー…きっと。」


「…違って…た?」


「…うん…たぶん…瞳ちゃんを取られたって…」


「……」


「…いい?」


 そう言う圭司の唇は…もうそこまで来てる…


「…だから…聞かない…」


 で…が、言えなかった。

 圭司のキスは、とても優しかった。

 すごく意外。

 ふざけて…笑いながらされる気がしたし…



 自然と、服を脱がし合ってしまった。

 圭司の胸に…うっすら残る無数の傷を見付けた時、少し…泣きそうになった。

 いつも笑ってる圭司。

 そっか…あんたも…

 きれいな男だよ…。



 ガチャリ



「ただい…」


「……」


「……」


「ま………」


 突然千里が帰って来て。

 ソファーで裸(上だけ)で重なってるあたしと圭司を見て。

 しばらく固まった。

 それはあたし達も同じで…


「……」


「……」


「…邪魔したな。」


 一足早く我に戻った千里がリビングを出ようとして。


「神、俺、本気だから。」


 圭司が、起き上って言った。

 …その言葉に、あたし…かなりグッと来てしまった…

 千里は圭司を見て…クッションで胸を隠してるあたしを見て…


「…良かった。」


 そう言った。

 そして…


「良かったな。」


 …千里にしては…すごく…すごく珍しい…

 満面の笑みで。


「マジ…良かった。」


 そう言って…


「嬉しいから一人で飲んでくる。続きやれ。」


 リビングを出て行った。


「……」


「……」


「じゃ、続きを…」


「やるの?こんな状況で?」


「俺はしたいよー。」


「無理。」


「瞳ちゃん。」


 あたしが起き上がってTシャツを手にすると、圭司は後ろからあたしを抱きしめて。


「結婚しよ。」


 あたしの耳元で…そう言った。


「…本気で言ってんの?」


「めちゃくちゃ本気。」


「……」


 プロポーズって…初めて…

 だけど…


「雰囲気に流されて好きって言って、結婚しようって?」


 あたしが振り向いてそう言うと。


「それだけじゃないよ。直感もだよ。」


 圭司は…笑顔。

 ああ…もう。

 あんたのその笑顔って、どこか信じられないんだけど!!


「だって俺、瞳ちゃんほどのきれいな女の子に出会った事ないから…なんて言うか…」


「……」


「他の男に、それを知られたくないって思っちゃってるんだよね。」


「…は?」


「だって、知られたら、みんな瞳ちゃんの事好きになっちゃうもん。」


「……」


 これが俗に言う『あばたもえくぼ』ってやつなのかなあ。

 なんて思った。

 さっき、あたしを好きって気付いたクセに…

 ほんと…展開早過ぎ。


「…パパを説得できるの?」


 圭司の胸に体を預けて問いかける。


「何とかなるよ。」


「またそんな…」


「だって、俺、本気だもん。」


「……」


 よく分かんないけど…

 圭司って…

 本当に、何とかしちゃいそうだ。


「…あたし、料理出来ないけど…」


「知ってるよ。何とかなるよ。」


「……」


 もう。

 もう…


「ね?」


 何が、ね?よ。

 って思うのに…


「…うん。」


 あたしは圭司の首に腕を回して。


「…続き、しよっか。」


 圭司を…あたしの部屋に誘った。

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