宴のあと
二人のほかに、観客から二人が加わってブラック・レディは行われていた。
ゲームはもう終盤で、あとはロリタがカードを出すだけで終わりだ。
卓上に乱雑に重ねられたカードの頂上には、スペードのQ――ブラックレディの顔がある。
ロリタは不安そうな目を、ブラックレディと周囲に逡巡させる。
「言っておきますけれど」
フランチェスカの声に、ロリタは肩をびくりとさせる。
フランチェスカは淡々と声をかける。
「ゲームが公平に行われていたということについては、あなたもお分かりのはずよね?」
ロリタは泣きそうな目でフランチェスカを見る。
「さあ、早く?」
フランチェスカから笑顔で促され、ロリタは諦めて最後の手札を山の上に置いた。
――重なったのは、スペードのK。
それによってブラックレディはロリタのものとなり、彼女にマイナス十三点が加えられる。
ロリタの敗北で、勝負が決した。
沸き立つ部屋の中、フランチェスカは皮肉な笑みをロリタに寄せて、
「――ブラックレディは、黒い王様によって大敗を喫しましたわ。カードはもともとタロットに由来されるものだけれど、この結果もなにかを暗示しているとは思わない?」
ロリタは力なくうつむく。
「ええ……その通りですね」
「だったら、早くお楽しみをはじめましょうか。みんなも心待ちに――」
フランチェスカが得意げにする、そのときだった。
「……ブラックレディには、あなたがいませんから」
ロリタは呟くと、失意のままに、自分の服の紐に手をかける。
室内は騒がしさを増してゆく。
「わたしがいない……?」
フランチェスカはふと、瞳をテーブルへと向けた。
カードが散らばるテーブルの端では、ブラックレディには使われない唯一のカード――ジョーカーが、笑っていた。
次にフランチェスカが見たものは、勝負に負けて静かに服を脱いでいるロリタの姿だった。
上着を脱いだロリタに、歓声があがる――
「全員動くな!」
乗り込んできた政府の役人たちの声が、部屋にけたたましく響きわたる。
賭場が目を丸くする中、フランチェスカは乗り込んできた役人の面子を見て舌打ちをした。
「残念でしたね。お楽しみができなくて」
服を着なおしながら淡々と言うロリタに、フランチェスカは顔をふいと背ける。
「……そのことじゃありませんわ」
フランチェスカの不機嫌の元がわからず、ロリタはフランチェスカのブロンドを見やる。
がしゃん、と、テーブルで人がもみ合う音がした。
「お前ら、俺を捕まえてどうなるかわかって……」
手を後ろ手に押さえつけられながら、男がトランプの山の上で抵抗する。
役人たちは男を力ずくで拘束しつつ、いいから歩け、となだめながら連行する。
「ほら、あなたたちも来て下さい」
あらかたの人間が連れ出された中、役人はフランチェスカとロリタを促す。
フランチェスカは大人しく歩き出し、ロリタもフランチェスカの後に静かに続く。
……テーブルの上では、スペードのキングの足元に、ブラックレディとジョーカーのカードが並んでいたのだった――。
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