第6話「廃ニューヨークで神とは」

「夜の街というのも、なかなか乙なものだな」

「今日は月が明るいから、街並みがはっきり見えるな」

「と言っても、ボロボロの廃墟だらけだがな。これはこれで、見応えもあるが」

 キマリとソマリは、ニューヨークの変わり果てた街並みの中にいた。街並みと言っても、まともに建っているビルは少ない。

 戦争に天災にで、栄華を極めたかつての面影はもう無い。ところどころに爆撃で出来た穴と、焼夷弾に黒く焼かれた道や建造物、ほったらかしにされた車や戦車、爆撃機の残骸があった。それらはここであった、戦火と災害被害の凄まじさを物語り、しかし今はそんなものは、目を閉じて見る夢のように静かに眠っている。

 ニューヨークは生物が全滅する程の、地球規模の最終戦争の被害を受けた、主要都市の一つだった。映画に出てくるヒーローたちは、存在しない。誰一人、世界の暴走を止めることが出来ず、滅ぶまで止まることも出来ず、誰一人生き残ることはなかった。

 世界経済の中心でもあるこの都市が、地球上から名を消した時、人々の生活は終わっていた。それからドミノ倒しのように、バタバタと国が崩壊し、重要人物が消え、ライフラインが機能せず、人々は飢え、天災に恐怖し、そしてこの星を滅ぼした病に侵された。それは神が下した罰なのか。

 生きているものを残らず死に至らしめた『終焉病』で地球は侵されている。それは、神がまた世界をやり直すためのリセットなのか。

 長い月日が経っていても、未だに新たな生物の確認は、出来ていない。そもそも、調査している者もいない。いるのは、旅情に惹かれたアンドロイドが二人。見ることの、知ることの旅だった。


「鶏と卵どちらが先に生まれたか分かるか?」

「鶏ではないか? 海にいた微生物が進化して体を作り陸上に上がり、子をなした時に卵が産まれたんじゃないかと思うのだが。この話は堂々巡りになるんだよな。終わりのない問いだ」

「それじゃぁ宇宙はどうやって生まれたと思う?」

「う~ん、私の考えは恥ずかしくてあまり言いたくないのだが……」

「なんだ、勿体ぶって。ここにはお前と私、二人しかいないんだぞ」

「……無から有が生まれない絶対の法則があるならば、やはり宇宙にも始まりがあるのだろう。いいか、私なりに出た結論だぞ」

「はいはい。自分の考えは言ってみないと相手には伝わらないぞ」

「……思考する力、想像する力、精神の世界は物体の持つ限界というものがない。それは、生物の中にある物理法則から逸脱した、無限のエネルギーだ。だがそれは、手に取って確かめることが出来ない。死後の世界というのものがあると、私は考える。天国や地獄なんかじゃないが、そう考えるのが一番納得のいく理由になるからだ。肉体の枷を解かれた生物の魂は、次の世界にへと昇華する。時間や物理、距離、法則に縛られることのない自由な世界だ。我々に到達できない世界でもある。すべての命が昇華したことで、この世に輪廻転生はなくなった。ここはもう古い世界なんだ。時期に崩壊していくかもしれない。それとも何も変わらずただ時間だけが流れていくかも。世界には段階があるんだと、私は考える。その中で人間が考え出した、何もない世界に、『無』という名を付けたみたいに、誰かがいるんだろう。それを神としか言いようがないのかもしれないが、無という概念を生み出すことは叶った。それは無から何かが生まれる証明ではないのか?」

「逆説的で面白いな、お前の理詰めで考えるそういうところが私は好きだ。考えるという意味を、お前は理解していると思うよ。産むことは敵わないが、我々も決して止むことのない思考の旅を、歩むことは出来る。終わった世界で何かを生み出す力があれば、この世界の神に成り得るのかもな。万能ではない、形ある目に見える神に」

「お前は神になりたいと思うのか?」

「なりたいとは思わないが、なれたらなとは思う。完全でない神の方が、優しい世界を作れるかもしれない」

「そしたら人間のような生物も作るのか?」

「どうだろう、見ていて楽しいかも知れないが、隙があれば取って代わられるだろう。だが人間が生まれれば、お前の言う昇華した人間こそが、かつての人間の神になるのかも」

「こういう議論が出来るのは、ここにきたから出来るようなものだな。マザーが聞いたら、即バク扱いで滅菌される」

「語らうこともまた、旅のさせる業かもな」

―――コポコポ。

「話していたら腹が減ったな。食事にしよう」

 それから二人は、一晩中も自分にある持論を議論し、語らい続けた。個体識別番号が違うように、アンドロイドでも個性がある。そうすれば、見てきたものや、考えてきたものも、自然と変わってくる。そうすれば、自分の出した答えと、別の解釈があっても、不思議なことではない。

 絶対の神が一人きりの存在なら、なんとつまらないことか。問うこともなく、反論されることのない虚しさ。刺激と発見があってこそ、そこに生きるという実感が湧いてくる。生きる事さえも超越した神には、すでに無用の産物かも知れないが。まぁ、魂のない機械風情の心配することではないが。不完全なものだけが、完全を夢見て旅をする。終わった世界でも旅をする。明日はどこへ行こうか。

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