第11話 謝罪

 朝起きて鏡を見るとひどい顔をしていた。泣きすぎて目が腫れてるし、寝不足で顏が疲れている感じだった。仕事の準備をした後レイにLINEを送った。


「今日の夜会えないかな。話したいことがあるんだ。」


 昼休みにLINEを確認したが、既読が付いたままで返事はなかった。でも、どうしても会いたくて仕事を定時までに終わらた。レイのうちへ行く前に感謝の気持ちの花束も買った。せめて、これだけは渡したかった。


 レイのうちの前についた。どんなことをしても会ってくれないんじゃないかという不安を押し込めて、チャイムを鳴らした。少し待っても出てくる気配がなかったので、もう一回押そうとチャイムに手を伸ばした。


「帰ってください」


 久しぶりのレイの声だった。それを聞いただけで泣きそうになった。歯を食いしばり涙を我慢して必死に話しかけた。


「この前はごめんね。話したいことと渡したいものがあるんだ。少し時間をくれないか。」


 返事はなかった。このまま終わってしまうのかと絶望した瞬間、ドアが開いた。


「入ってください」


 レイは相変わらずきれいだった。でも、その顔は苦しそうで、俺がそんな顔をさせてるだと思うと悲しかった。レイはいつもの部屋へと通してくれた。


「ありがとう。すぐに済むから。」


 レイは温かいお茶を出して、正面に座った。俺は何から話せばいいかわからなくなってしまった。


「話って何ですか。」


 レイの声はいつもより冷たい気がした。俺は必死に話すことを頭の中でまとめた。


「この前はごめんなさい。レイは俺のことただ心配してくれたのに、偉そうなこと言って。ほんとに傷つけたと思ってずっと後悔してたんだ。ほんとにごめん。」


 レイは小さくため息をついた。


「分かりました。私も雪人さんの気持ちをよく考えずに言ってしまって申し訳なかったです。ラインも無視してごめんなさい。」


 レイの声が優しいものへと戻ったのがわかった。お別れの前に仲直りできてよかったと安心した。そして、レイは俺の持っている花束に気が付いた。


「それは、どうしたんですか?」


「これは、お別れの前にレイに感謝の気持ちとして渡そうと思って」


「え?お別れ?」


 レイは驚いたように目を見開いた。俺はまだレイと離れたくないという気持ちを振り払った。


「俺、娘から聞いちゃったんだ、レイに好きな人がいるって。学校に好きな人がいるんだよね?でも、こんな風に俺がレイに毎回会ってたら邪魔になるし、その男の子に勘違いされたらレイに迷惑が掛かると思って。俺、レイのこと好きだから、レイに幸せになってほしいんだ」


 「好き」って言葉は自然と勝手に口から出て、俺自身びっくりした。俺ってレイのこと好きだったんだ。レイはものすごく驚いたような顔をしていた。


「この花束は、レイへの感謝の気持ちなんだ。レイのおかげで人生がとってもいい方向に変わった。ほんとに感謝してもしきれないくらいなんだ。だから受け取ってほしい。」


 俺は花束を取り出しレイの前へ置いた。そして、立ち上がった。


「その好きな子と付き合えるといいね。またね」


 俺が帰ろうとすると袖をグイと引っ張られた。振り向くとレイは泣いていた。初めて泣き顔を見たが、やっぱり美しいなと思ってしまった。そして、その顔が近づいてきたと思ったら、唇に何か柔らかいものが当たった。


「雪人さんのばかぁ…」


 キスされたと気づくのに時間がかかった。


「え?キ、キスしたの…?なんで?」


 頭が混乱していまだに何が起こったのかわからなかった。


「分からないんですか?私が好きなのは雪人さんです!」

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