第10話 盗み聞き

 レイが返事をしてくれなくなって、2週間が過ぎた。しつこい男と思われるのが嫌で1週間前に「大丈夫?」と送っただけだった。やはり既読はついたけど返事はなかった。妻とは面と向かって浮気のことは言えず、後回しにしてしまっていた。


 そんな風にもやもやを抱えながら生活していたある日、娘の部屋の前を通るとドアが少し空いていて話し声が聞こえた。どうやら、電話しているようだった。


「明日体育あるとかだるいわー。マジ卍だよね。」


 友達とでも電話してるのかと思いそのまま通り過ぎようとしたが、急にレイの話になって盗み聞きをすることにした。


「レイさ、マジムカつかね?すました顔して私は清楚ですよって感じしてさ。男受け狙ってんのかって感じ。あいつさでもせんせからの評価いいからさ、うちもせんせから目付けられないように一緒にいるってだけの感じなんだけどねー」


 レイのことをけなされて怒りがわいたが、今は盗み聞きしている状態なので抑えることにしてまた耳をそばだてた。


「でさでさ、あいつ最近好きな人いるらしいんだよね。」


 衝撃的な言葉に頭の中が真っ白になった。


「恋バナしようぜとか言ったら素直に教えてくれんの。マジウケるわー。そいつの特徴が身長が高くて、イケメンで、すらっとしてて、優しくて、一途なとことかそんな漫画みたいな奴いんのかよって感じ。てか、どのクラスのやつなんだろう。それは教えてくれなかったんだよね。」


 そうだよな、レイも女の子で高校生だもんな学校に好きな人くらいいるよな。そんなことを考えながら部屋に戻った。最近返事を返してくれない理由は俺の失言もあったが、レイに好きな人ができて俺が邪魔になったからなんだ。そう思うとなぜかものすごく悲しくなっている自分がいることに気が付いた。いつか来るとは思っていたけどもうお別れの時が来たんだ。でも、俺直接この前のこと謝りたいし、今までレイといて楽しかったことや、助けてくれたこと、レイのおかげで人生がよくなったことをちゃんと感謝したいなと思った。明日レイに会いに行こう。会ってくれなくてもどうにかして謝罪や感謝の気持ちを伝えてから終わりにしたい。


 ふと、自分が泣いていることに気が付いた。大切なレイがいなくなることは悲しいけど、レイのためなんだ。その日は寝るまでずっとそう自分に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る