第6話 提案

 レイの家へ入った瞬間、またあの柑橘系の香りがした。相変わらず落ち着く匂いだ。


「あの、髪の毛乾かしてから、ケーキとお茶用意しますね」


「うん。ゆっくりやっていいよ」


 彼女はパタパタとかけていった。


 俺がケータイをいじりながら暇つぶししているとレイがケーキとお茶を持って帰ってきた。彼女は髪も服装もしっかりと整えてきた。パジャマ姿もかわいかったのに残念だ。


「おまたせしました。雪人さん」


 急にかわいい声で名前を呼ばれて、不覚にもドキドキしてしまった。


「何かやっているんですか?」


 そういうとレイは俺のスマホの画面をのぞき込んだ。俺はその時テレビでよくCMが流れるほど有名なゲームをポチポチやっていた。


「あー!これ私もやっているんですよ!ストーリーも面白いし、絵柄もかわいいですよね?」


「うん!とっても面白いよね。俺暇なときはずっとこれやってるんだ。」


 共通の趣味を見つけられてとても嬉しかった。


「フレンドになりませんか?」


「いいよ」


 そのはしゃぎっぷりもかわいくて思わず微笑んでしまった。そして俺たちはゲーム上でフレンドになった。


「雪人さんっていくつなんですか?私は今18です」


 18歳か。じゃあ、レイは娘と同じ年なんだ。


「俺は38だよ。ごめんなおじさんで」


「え!?全然見えない!まだ20代なのかと思っていました。」


 いろんな人に童顔とからかわれて悔しい思いをしてきたけど、レイにそう言われるならこの顔も悪くないな。


「ありがとう。お世辞でもうれしいよ」


「本当に思っているんですよ?まあ、ケーキ食べましょうか」


 そういってレイはもぐもぐ食べ始めた。よく考えると、最初の頃よりよくしゃべるなと思った。これが素の彼女なのかなと思った。


「嬉しいな、こうやっておうちで人と何か食べるのって久しぶりなんです。」

 

 ケーキを食べ終わるとレイはそう話しかけてきた。


「俺もだよ。会社でも家でも俺一人で食べてるからなぁ。」


 レイもいつも一人なのだろうか。その疑問を感じたようで彼女は話し始めた。


「うちで母も父も浮気をして両親が離婚したんです。どっちにも厄介者にされて…お金と住む場所だけ与えられて二年くらいこうやって暮らしています。でも、一人って気楽なんですよ」


 レイはニコッとして言った。無理して笑ってるんだなと彼女の孤独を思うとすごく胸が痛くなった。


「でも、やっぱり一人は寂しいんです…」


 うつむき、消え入りそうな声で彼女はつぶやいた。しかし、すぐにがばっと顔を上げた。


「あの!図々しいお願いではあるんですが、たまにでいいのでうちにきてもらえませんか?」


「え!?」


 レイの急な提案にものすごくびっくりしてしまった。


「お、俺?こんなおじさんでいいの?」


「はい!初めて会った時から仲良くしたいなって思っていたんです!さっきも雪人さんと同じゲームやっていることがわかってうれしかったんです。ご迷惑でなければ…」


 俺にとっては悪い話じゃなかった。レイといるとリラックスできるし、ものすごい楽しい。でも、妻と子供もいるのにこんなことしていいのか…。しかし、これから来る非日常を考えるとわくわくが止まらない。しばらく考え込んで俺は結論を出した。


「わかった。残業が長引きすぎて来れないこともあるけど、寂しかったら呼んでくれ。こんなおじさんでよければ駆けつけるよ」


 レイは顔をパーッと明るくさせて、とても喜んでいるようだった。


「ありがとうございます!連絡とるのにLINE交換してください」


 こうして、38歳の俺に女子高校生の友達ができてしまった。

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