第5話 再会

 少女の家を出てまっすぐ帰宅した。家に帰る途中で、お互い自己紹介していなかったことに気づいた。もしまた出会えたら、名前を聞こう。きっときれいな名前だ。


 家に帰って相変わらず俺に対して妻と娘は冷たかったけど、その晩は久しぶりにぐっすり寝れた気がする。そして、長い夢を見た。内容は覚えてないけど、あの少女が出てきた。とても幸せな夢だった。


 その後は少女に会いたかったが、仕事が繁忙期で残業がかなり遅くなってしまったり、休みの日も妻や娘にこき使われ時間が取れなかったため、あの少女と出会った公園に行くことができなかった。


 そんな繁忙期も終わり、少女と出会って一か月以上たった頃、俺は残業の終わりに俺はまたホットコーヒーを片手に公園で一息ついていた。またあの少女に出会えないかなと淡い期待を抱きながら。なんとなく会える気がして少女のためにコンビニでケーキを買ってきた。


 コーヒーを飲み終わる頃になっても誰も来る気配はなかった。まあ、あっちは俺のことどうも思っていないだろうし、探してはくれてないだろうな。それかもしかしたら、別の場所で援交を持ち掛けてるとか。いろいろ考えているうちに暗い気持ちになってしまった。拒否されるのが怖くて、アパートへ行く勇気はなかった。こんなずるずる待っていたって会えないものは会えない。そう思い帰ろうと腰を上げると、パタパタと誰か走る音が聞こえてきた。


「待って!」


 そう声をかけてきたのは、とても会いたかった少女だった。嬉しくて少女の姿を見た時から胸が熱くなった。


「また会えたね…」


 よっぽど急いできたのだろう、肩で息をしている少女は明らかにパジャマ姿で、長い髪が濡れていた。お風呂上りに俺を見つけて来てくれたのかなとまたまた嬉しくなった。


「この前失礼なことを言ったから謝りたくて…。もう会えないかと思っていました」


 息を整えた少女は嬉しそうに話しかけてきた。失礼なことって別れ際に言ってきたことだろうか。


「なにも気にしてないよ。俺も君が慰めてくれたおかげで元気が出て今頑張れているんだ。だからお礼を言いたくて会いたかったんだ」


「そんなお礼だなんて…」


 そういいながらにっこりしている彼女は相変わらず美しかった。本当に会えてよかった。


「あ、そういえば、コンビニのなんだけどケーキ買ってきたんだ。これ食べて」


 そう言ってコンビニの袋を渡した。


「わぁ!私甘いもの大好きなんです!こんなにいっぱい買ってきてくれたんですね。ありがとうございます」


「喜んでもらえてよかった。じゃあ俺はこれで」


 そう言って立ち去ろうと思った。すると、クイと袖が引っ張られた。この少女の癖なんだろうか。


「あの、こんなにいっぱいあるので一緒に食べませんか?」


 後ろを振り向くと少女が上目遣いでこちらを見上げていた。その表情が可愛すぎて、俺にはもう断る理由は思いつかなかった。


「ありがとう。お邪魔させてもらうよ」


 誘われたことと、少女の香りが感じられる部屋へまた行けるのがものすごく嬉しかった。


「じゃあ行きましょうか」


「待って」


 少女が俺のほうに振り向く。俺には少女に聞きたいことがあったんだ。


「俺の名前は長澤ながさわ雪人ゆきと。君の名前を教えてくれないか?」


「私は木ノこのはられいです」


 彼女はにっこりしながら教えてくれた。レイか。思った通りやっぱり美しい名前だった。

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