第2話 少女

 遊ぶ?2万円?俺は少女に援交を持ち掛けられているということに気づくのに時間がかかった。戸惑った俺は一応少女に確認してみた。


「えっと…どういうことかな?」


「遊びに行くんですよ。買い物に行ったり、映画を見たり、ご飯を食べに行ったり。お金を追加してくれたらホテルになんてことも…」


 にっこりとしたまま少女は説明してくれた。やっぱり援交じゃないか。清純そうな見た目ときれいで澄んだ声の少女が援交だなんて…。でも、2万か…。このまま嫌なところへ帰るよりも、この美しい少女と楽しむのもいいのかな、なんていう考えが頭をよぎった。

 

 しかし、俺は少女と楽しもうという考えは頭から消した。確かに誘いは魅力的だが俺には妻も娘もいる。未成年と間違いを犯して人生を壊す訳にはいかない。


「君さお金に困っているの?」


そう質問するとずっとニッコリしていた少女は顔を少しゆがめた。


「えっと…」


少女はなぜか返事ができないようだった。


俺はおもむろに懐から財布を取り出し中身を確認した。つい最近が給料日だったので小遣いの5万円がそこに入っていた。色々と考えたが、それを全部取り出し少女に差し出した。


「俺はきみとは行かないからこれで友達と遊んできていいよ。もっと自分を大切にした方がいいよ、俺と違って若いんだからさ」


そう声をかけても少女は表情を固くしたまま、俺の差し出した5万円を見つめていた。


俺はどうしたらいいか分からなくて考えを巡らせた。もしかして今の子達って5万円じゃ遊ぶのに足りないのか?


「ご、ごめんね。これ俺の小遣い全部なんだ。俺さ結構いい会社に勤めて給料沢山もらっているはずなんだけど、小遣いこれだけだからさ。」


何を話したらいいかわからなくて余計なことまで口走ってしまった。


しかし、このことは事実だった。給料は妻に全部管理されている。月に80万を超える額を稼いでいるはずなのに貯金するからと毎月渡されるのは5万円だった。妻と娘は服に化粧に外出にと自由に使っているのに。


そんなことを考えていると、急に悲しくなって泣きそうになってしまい、慌てて顔を無理やり笑顔にした。


「大丈夫かい?」


そう声をかけると少女は顔をこちらに向けて、驚いたような顔をした。無理やりに笑顔を作ったから、変な顔になってしまったのだろうか。


どうしたらいいか分からずお互いに固まっていると、突然ポツポツと雨が降り出してきた。強くなったら嫌だな、早く帰らないと、と思っていると少女が話しかけてきた。


「あの…お金はいらないのでうちで雨宿りしていきませんか?」


 そう言って少女が指差したのは公園の目の前にある二階建てのアパートだった。しかし、早く家に帰らないと、という考えばかりが頭に浮かんでしまう。その考えを悟ったかのように少女は言葉をつづけた。


「うち今誰もいないし、このまま帰っても雨に濡れて風邪をひいてしまいます。引き留めてしまったお詫びに温かいお茶をごちそうさせてください」


 そういって袖を軽く引っ張られた。少女の顏は俺を帰らせまいと必死のような表情だった。そこまでされた俺はもう家に帰るなんて考えはさらさらなくなってしまった。


「わかった。ありがとう。お言葉に甘えさせてください」

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