第27話
明日の街興行は中止、それは団長の決定だったけど、しばらくしてキャンプに市長からの使者がきて正式に告げられた。「広場は貸せない」と。理由は他の旅芸人一団とのダブルブッキングということだったけど、絶対嘘だ、私のせいだ。カピバラさんがお父さんに何を言ったか分からないけど、とにかくこれは私のせいだ。
皆には事情を説明して、頭を下げた。団長とサリュが私のせいじゃないって言ったけど、やっぱり私のせいだと思う。
それでも皆は私のせいじゃないと言ってくれる。大きな街での興行は団の本財源だ。それだけじゃない、皆のモチベーションでもある。そりゃそうだろう、どうせ芸をするならたくさんの人に喜んでもらいたいって誰も思うものだ。そのチャンスをつぶすなんて団員失格だ。なんとかしなきゃとは思うけど、どうしたらいいか分からない。私ごときに一体、何ができるのかなんて。
「団長、興行は明日だけ中止か?」
「いや、まあ、分からん。交渉は続けるが、とりあえず明日は中止だな」
団長の表情は硬いから、本当はずっと中止っていう市長からの手紙なのかもしれない。団長はなんとかしようとしてくれてるけど、どうなるか分からない。どうしよう。私はどうしたらいいんだろう。
その時だった。ダジマさんが顎に手を当てながらぽつりと呟く。
「街がだめなら、外でするか?」
「外?」
「そう。まあ普通の村や街じゃ客は来ないだろうが、ここは交易の街だからな、人通りは多いだろう? 街に入る人や街から出る人を狙うってのもできるんじゃないかと」
ダジマさんの言葉に、団長が真面目な顔で「なるほど」と頷き、ノーラが「おもしろいかもしれないねえ」と身を乗り出した。すると団員から次々と「いいかも」「やってみる?」と、声が上がる。
「だが、本当に人が集まるかな」
「何か引き寄せる目玉がいるかもな」
街に入る人は早く街に入りたい。
街から出る人は早く次の目的地にいきたい。
そんな人達の足を止めさせるには、ただ芸をやっても心もとないのでは、ってことだ、とサリュが私に囁いてくれた。
何か、足を止めるきっかけ。私だったらどうだろう。立ち寄るつもりがなくても、つい足を止めるときって、例えばどんな。
あ。
「あのっ」
「どうした、メイ?」
「あの、匂い、とか」
「匂い?」
「嗅覚に訴えるっていうか、えっと、いい匂いさせて誘うのはどうでしょう。お腹すいてなくてもいい匂いしたらつい、見にいっちゃうとかあるし、例えば、焼き鳥とか」
私の言葉に一番に反応してくれたのは、ナラとゾラだった。
「なるほど、あれの匂いは人を引き寄せるなー」
「試す価値はあるかもな」
「あれだったら片手で食べながら芸を見れるしな」
「ヤキトリ売るのかい?」
「調理班間に合うかよ?」
口ぐちに意見が出始め、ちょっとした会議みたいになる。それを団長は一つ一つ取り出してはまとめて答えをだし、それから、一つの結論にたどり着いた。
「よし、やってみるか、外での興行」
団長が答えをだしたらあとは早い。皆が一斉に動き出す。こういうの、本当に凄いと思う。私は出遅れ、あたふたしながらニーナのとこまで走った。
「ニーナ、何からしよう」
「とりあえず調理長に聞かなきゃ」
調理班は私とニーナ合わせて基本六人でまわしている。あとは手が空いているひとが手伝ってくれるけど、二人一組で動くから私はいつもニーナの指示に従ってる。調理長は白髪のおじいさんで、普段全然厳しいことも言わないし、ああしろこうしろ言わないで全部任せてくれるから、下っ端の私はあんまり交流ない感じだ。けど、今回は流石に「好きにしろ」って訳にはいかない。
調理班全員で集まって買い出し班と仕込み班に分かれた。
「メイ、タレの配合を教えてくれ」
そう言えば、調理長には言ってたけど、他の人には言ってないんだった。ニーナが嫌な顔をする。けど、今はそれどころでもない。
「タレはですね、はちみつと海水と、スライムです」
またニーナが顔をしかめる。けど、他の班員は、なるほど、と手を叩いたくらいで特に嫌な反応はなかった。流石、皆食いしん坊だ。
「それじゃ買い出しは海水とはちみつ、鶏肉もありったけだ。スライムの方は戦闘班にも頼もう」
調理長の言葉で皆が動きだす。私は買いだし担当だったけど、アイドルの方もあるだろう、と調理長がフリーにしてくれた。
「ヤキトリもだが、あいどるも面白い。お前には皆期待してるんだ」
調理長にそんな風に言われたことなんかなくて、なんか泣けてくる。
「がんばります」
「おう、そうしろ」
仕込み担当のニーナにその報告を、と近寄ったらちょうど同じタイミングで団長がニーナに話しかけているところだった。
「ニーナ、赤の団に話を通したいことがあるんだが、連絡とれないか」
「私ですか」
「ニーナしか無理だろう? 明日、赤の団の興行後の客も取り込みたい。あそこは動員数が凄いからな。だが、人の団の客だ、勝手なことをするのは嫌がられるだろうからな。最初に話を付けておきたい。話を通させてくれ」
赤の団って、めちゃ大きい一団だ。今までも何度かかぶったからって移動してきた。私的にはライバル視してたんだけど、そこに話を通せるのがニーナだけってどういうことなんだろう?
「私に出来るか分かりませんが――手紙を書きます」
「助かる。で、メイ、明日の興行だが、あいどるの出番を二番手で組む」
「えっ、最初の方ですか!」
「ああ、目を引くことが必要だからな。反応によっては、最後にも入れる」
つまり、二番にやって、もしかしたら最後にもう一回やるかもってことだ。これは、早く皆に言わないと。
ニーナと赤の団って何の繋がりがあるんだろう、聞きたい、聞きたいけど、今はそんな時間がない。明日、全部終わったら詳しく聞かせて貰おうと思いながら、私はニーナにカアサの方と調理班をうろうろすることを伝えて、カアサの元に向かった。
三人は衣装合わせを済ませて練習をしていた。アイジ君はジャグリングもあるし、カツキはソロもある、サリュは裏方仕事が山積みだし、ここは早めにきり上げないといけない。 けど。
「二番手!?」
「最後じゃないのか」
「反応によっては最後にも入れるって団長が」
「うっわ、責任重っ。メイ、どうする?」
「どうって、出来ることやるしかないよ。練習どおり四曲やって――二番手だったらまだお客さんも集まり始めかもしれないから、自己紹介はやめて、シンプルに歌だけやろう。反応よくて最後にもやることになったら、そこでメンバー紹介と、でもどうしよう、同じ歌を二度歌うって、どうなんだろう」
「じゃあ、最初は二曲にしておこうか」
アイジ君の提案で、二番手で歌うのは「RUN」今回初披露の曲「デバイス」に決めた。元気曲とダンス中心曲、勢いはつくと思う。最後にもやることになったら、ごはん美味しいとバラードでしめる、とりあえずそれを決めて、
「最終合わせは明日の朝にしよう」
カツキの言葉を合図に、各々の仕事に戻った。
私も大量の焼き鳥作りに戻る。
「メイ、あいどるの方は大丈夫なの?」
ニーナの言葉に頷くことしかできない。もう私にできるのは見守ることくらいだ。
こうしてキャンプの夜は更けていき、各持ち場、睡眠不足のままで次の日を迎えた。
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