第6話
「メイ」
「は、い」
団長の声は大きくないけど、なんか威圧される感じがする。会社の社長みたいな。
「メイ、と呼んでいいのか」
「はい、それが、私の名なので」
「そうか。私はカイラというが、団長と呼んでくれていい。皆そう呼んでいる」
「団長、はい」
団長は声の迫力の割に、とても優しい口調だった。それが緊張でがちがちだった私の心を少しほぐしてくれる。
――。
……。
あれ。
私、団長の言葉、分かる。
それに。
「あの! 私の言葉、分かるんですか!」
サリュにも分からないみたいだった私の言葉が。
団長はさも当たり前のように言う。
「お前と同じ言葉を使う男に会った事があって、それで、俺とダジマは分かる」
つまりそれは日本人だ。その人に会えば、日本に連れて帰って貰えるかもしれない。いやもう、日本大使館に連れてってくれたらいい。
「あの、私、なんでここにいるかもわからないし、気がついたら砂漠にいて、だから、お願いです、帰して下さい、帰りたいんです、日本に」
団長とダジマさんは一瞬顔を見合すと、そっと首を横に振った。
「無理だ」
「何でですか?私は何も出来ないです、ただの大学生なんです、お願い、帰して」
勝手に涙がこぼれて来る。日本を特別に好きとか考えた事がなかったけれど、今はどうしようもなく愛しくてたまらない。
「帰してやりたいが、その方法を俺らは分からない」
「日本大使館に連れていってくれたらいいんです、あの、ここはどこですか」
「エラルド大陸のマースだ」
そんな大陸は知らない。どこの辺りなんだろう。
「あの」
「メイ」
聞きたい事はたくさんある。けれど、私の言葉を遮ったのは、ここまで口を開かなかったダジマさんだった。やっぱり顔まで黒い布で覆って忍者みたいだ。
「多分、違う」
ダジマさんは唐突に立ち上がり、私の手をとると、テントから外に出た。
「あの、何」
「君の知っている世界と、ここは違う」
「何を言ってるのか」
「空を見るんだ」
言われた通り空を見上げると、今日はいい天気で気持ちいいくらいの青空が広がっていた。それが何というのだろう。
「太陽が見えるだろう」
「はい」
「後ろを見て」
言われた通りに振り返り、私は息を飲んだ。
そこには、もう一つ、太陽が出ていたのだから。
「え、何、太陽、二つ?」
「君の世界には一つしかないのではないか?」
「そうです」
「前に君と同じ言葉を話す男と会ったと言っただろう。彼から大体の話を聞いた。団長と私しか知らないが、どう考えても、彼は全く違う世界の住人だとしか思えなかったし、彼もそう言っていた。だから」
ダジマさんはまっすぐに私を見て、続けた。
「君もそうなんじゃないかと」
そう。
そうって、それはつまり「違う世界の住人」って事?
違う世界ってなに、日本じゃないのは確かなんだけど、それ以上に違うってなに、嘘じゃん、そんな、それってつまり。
「ち、地球じゃないって事?」
そんな訳ない、だってあり得ない。だいたい意味が分からない、もし地球以外の星にまあ、文明があるとして、それでも、「何故」「私が」そこにいるというのか。
「もー、訳わかんないい」
でも、空を見上げたら確かに二つの太陽。
地球上でそんな場所があるなんて思えない。
「いやだいやだ、何、ここはどこなの」
叫ぶ私をダジマさんがもう一度テントに連れていってくれる。団長とサリュが私を見て、神妙な顔つきで頷いた。
「ちょっとちょっと待って、私、いつ帰れるの」
「わからない」
「いやいやいや、おかしいよそんなのだって、私は普通に大学行って帰ってただけで」
「悪いが俺達にはどうしようもない」
私が覚えているのはそこまでだった。目の前が真っ暗になって、そのまま倒れてしまったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます