第3話

 そんな事を考えているときだった。

 イヤホンから聞こえるダブルの声を遮る程の悲鳴がテントの外から聞こえた。嫌な予感しかしない。イヤホンをはずして、そっとテントの脇についている窓代わりのような小さな幕をあげると、そこには見た事もない程大きな鳥が舞い降りていた。


「わ、鷲?」


 それにしても大きい。私の身長よりも大きいかもしれない、だったら百六十センチくらい? こんなのに嘴でつつかれたら大怪我だけでは済まないのじゃないか。外にいた女の人はテントに飛び込んで、体育の先生が近くにあった薪を振り上げているけど、そんなので追い払えるんだろうか。


 そして、私は見つけてしまった。

 小学生くらいの女の子が、鳥からは死角になっている樽の後ろで震えているのを。

 私の方向からはよく見える。これは、助けてあげなきゃいけない流れだ。でも、その為にはテントから出なければならず。


「で、出来ない」


 テントから飛び出て女の子を抱っこして、ここへ戻るまでに鳥に見つからない自信がない。女の子のすぐ側にサリュのいたテントがあるから、そこへ飛び込むなら、なんとかなるかもしれないけど、でも、それでも怖い。


 鳥は何かを探るように首を動かし、それを引きつけようとしてか、体育の先生が何度も叫んでいた。他に男の人はいないのかと思ったら、サリュが飛び出すのが見えた。


「あああ、あんたが目立ったら女の子見つかるんじゃないのああ」


 私の心配をよそに、サリュは剣をひるがえして鳥に向かっていく。鳥はめんどくさそうにサリュの剣を嘴で弾いた。でも、おかげで鳥の注意はサリュと体育の先生にだけあるみたいだった。

 これは私がいかなきゃいけないフラグなのでは……。


「過酷な夢だわ、もう嫌」


 テントの中を見回してみるけど、武器になりそうなものはないし、防具になりそうなのもない。私なんて大学帰りのTシャツにジーンズ。でも、外の人達もよくファンタジーの漫画なんかで見るみたいな布の服なんだし、護衛力的には同じくらいだ。ないよりはマシかと毛布で身をくるんで外を伺うと、鳥はまだ男二人に夢中だった。


「どうなっても知らないからね」


 毛布を強く握りしめて、私はなるべく音をたてないようにテントの入り口から飛び出した。鳥はこっちを見ていない。女の子のところまで駆けて、急いでその手を引く。


「早く、中へ!」

「あっ!」


 女の子は私の手を握り締めて、何か小さく叫んだ。


「大丈夫、サリュ達が鳥の相手してる」


 言葉は通じないだろうけど、なんでもいい。早くテントに。そう思った時、ばさあと空気を切る羽音が聞こえた。


「う、嘘でしょ」


 鳥がその大きな羽を空に持ち上げ、その風が私達を隠していた樽を吹き飛ばしてしまったのだ。しかも、鳥はこっちを見ている。体はサリュ達の方を向いたままで、首だけが百八十度回転して、こっちを見ている。


「いやああ、きもいきもい、怖い!」

「メイ! テントに入れ! こいつは姿が見えないと探せない!」


 サリュの叫び声に我に返って、慌てて緑のテントに女の子を押し込んだのは良かったけど、なんてこった、私はそこで躓いて転んでしまった。

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