小さな嘘

 電話をした2日経った土曜日、今日が体験の日だ。

僕は今日という日が楽しみでワクワクしていたが、その反面先生や先輩たちがどんな人なのかという不安もあった。

だが、そんな事は忘れたかのように僕は顧問の先生との待ち合わせ場所に向かった。

僕が場所についた時には既に先生はそこにいた。


『早くね?』


僕はそう思いつつも小走りで顧問のもとへ駆け寄って行った。

「早いなぁ、まだ20分前だぞ?もう少しギリギリに来るのかと思ったよ」

「いやぁ、先生の方が早いですよ〜」

顧問は早く来た僕に驚きつつもどんな奴なのかという目で僕を見ている。

僕が思っていたよりも顧問の先生は優しそうな感じで意外と冗談混じりで身振り手振りで話すような人だった。

「じゃあ、行こうか」

そう言うと顧問はそそくさと歩きだしたので僕も慌てて追いかける。

「ところで君はテストでは何点ぐらい取れるんだ?300ぐらいは取れるのか?」

「270〜300ぐらいですかね」

実際、僕は300点なんて取ったこともない。最高で299点だった。だが、それも四捨五入すれば300点だろう?あながち嘘ではないはずだ。

「そうか、まぁ260ぐらいあれば推薦は受かるから大丈夫だ」

「そうなんですか?」

「まぁ、でもあれだ...確実ではないから300点は取ってもらわないと困るな」

「はい...」

その言葉を聞いた僕は少し耳が痛かったし、自分のついた嘘で苦しめられた。

まずいな...ちゃんと勉強しないと...

 そんな僕の思いとは裏腹に顧問はそそくさと歩き部室の前までたどり着いた。

「ここがいつも活動している部室だ」

その部室は僕が想像するよりもはるかに大きいものだった。

いや、もしかすると僕以外の他人が想像しても『部室』と聞けば、小さい倉庫のような場所にロッカーが設置されているようなものを思い浮かべるだろう。

だがその考えは違っていた。僕の目の前に見えるのは、教室約2つ分の大教室が2つとそれを繋ぐ廊下と階段だ。

誰がどう見ても部室ではない。明らかに校舎の一角だ。

「先生、ここが...部室ですか?」

頭上に?マークを浮かべた僕に先生は

「そうだよ」

と一言で返答してきた。

これは後々分かった事だが、どうやらここの棟は1階は工業科の生徒が実習などで使う場所で2階は自習室だったらしい。

だが、新しい棟に自習室ができたためここは使われなくなり先生がここを占拠したらしい。これだけ聞くととんでもない先生だ。

 「こんにちはー」

挨拶をしながら部室に入った僕に先輩たちが一斉に視線を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る