チャンス

 彼女と別れてからというもの僕は何に対してもやる気が薄れていた。

唯一彼女のことを考えないで済んだのは、部活をしているときと友達と遊んでいるとき、後は...寝るときぐらいだ。

それ以外はまだ分かれたという実感がわかなかったが、それはすぐに実感することとなった。

 友達のマサを探しに教室に行った時だった。

席に座って彼女が一つ隣の男子と楽し気に話しているのがふと目に入ってしまった。


『あぁ、あいつか』


僕はその瞬間に別れたことを実感した。もう僕たちは恋人ではない。

『ただの友達』なんだと。

もう忘れようと思い、僕はマサのところに行き遊ぶ計画を立てた。

「今日どこで遊ぶ?」

「俺んち来いよ、新しいゲーム買ったからアラト達誘って皆でやろうぜ!」

「いいね!学校終わったら行くわ!」

「おけ、待ってるわ」

そんなたわいもない話をしながらも僕は心の中で少しだけ彼女のことが気になっていた。

 それから少し時が経ち、高校受験について志望校ごとに説明会が学年全体で開かれた。

僕はT高校に進学を考えていたため、理科室に教室に向かった。

理科室についた僕は周りを見渡し、座れる席を探そうとし気がついた。

彼女がいることに。

丁度よく彼女の向かいの席が空いていたのでそこに座ることにした僕はそこまで行き、彼女に話しかけた。

「よぉ、久しぶり」

「久しぶり~」

彼女は何事も無かったかのようにいつものみたいに優しい声でニコニコと返事をしてくれた。

「お前、S高受けるんじゃなかったの?」

まだ付き合っていた時に彼女とどこの高校に行くのか話し合ったことがある。

その時は彼女はS高校に行くといっていたが何故、そこよりもレベルの高いT高校を志望するのか不思議に思った。

「あぁ、これ?私ねー、T高行けたらT高行こうと思ったんだー!」

「そうだったんだ、お前なら馬鹿な俺と違って普通に受かりそうだもんな」

「あっ、でもね、私S高行くと思うよ?勉強ついて行けなさそうだし!」

笑顔でそういう彼女の態度は付き合っていた時とは少し違い、どこかよそよそしかった。

「じゃあ、またね!」

説明会が終わり彼女はそう言って教室へと戻っていった。

 教室に戻った僕は先生との志望校についての面談があった。

「お前はT高校に行くのか?」

「はい、そう考えてます」

「じゃあ、もう少し勉強頑張らないとなぁ...ちょっと難しいかもしれないぞ」

「あはは...やっぱりそうですか?」

3年間ほとんど部活しかやってこなかった僕はここにきて『成績』という問題に直面した。

「お前は部活を結構頑張ってたからな、この前出したプリントとノートちゃんと提出すれば理科は4になるから頑張れ!」

僕の担任は部活の顧問だ。だからということもあるかもしれないが、ほかの誰よりも先生は僕が部活を頑張っていたことを知っている。

「あっ、あとここの高校には射撃部っていうのがあるんだけど...お前こういうの好きだろ?」

「はい、好きですけど...?」

それを聞いて何になるのだと思いながらも僕は返答した。

「去年、俺の担任したクラスの生徒がこの部活の推薦で入ったんだけど、受ける気はあるか?顧問の先生が知り合いだから興味あるなら俺が一応話しとくからこの電話番号に電話して体験行ってみろ」

これは願ってもいないチャンスだ!

だが1つ疑問がある...

「先生、俺テニス部ですけど推薦なんてできるんですか?」

そう、それが問題なのだ。部活も違うのに推薦なんかできるのか?そこが一番の疑問だ。

「あぁ、これな!そもそもマイナースポーツだから部活がある学校なんてほぼ無いんだ!だから違う部活のやつでもできるんだよ!」

「行きます!行きたいです!」

それを聞いた途端、僕は目を輝かせて即答した。

これは思ってもない機会だ!好きなことができる部活があるなんて思ってもいなかった。

「頑張れよ!」

先生は笑顔でそういって応援してくれた。


それから僕はその日のうちに教えてもらった電話番号に電話して体験に行きたい旨を射撃部の顧問の先生に伝えた。

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