第8話006:「大破断」の歴史のこと、ならびにゲシュタルト・スーツのこと

 『ペンギン』の見舞いに行った週の金曜日だった。


 昼食のすぐあとにある『モガモガ』の講義は、本人の口調もあって睡魔との戦いになる。墜落事故のあった日以来、なぜか『リヒテル』が休んでいるので、瑞雲ずいうん校きっての高齢な非常勤講師が、臨時に般教ぱんきょうを受け持ったのだが、これがゆるい感じの講義をするので、とにかく眠い。

 おまけにこの日は外象人がいしょうじんの歴史がメインで、わかり切ったことを食後のうごかない頭に聞かせるのは、ある種の拷問ごうもんだ。

 今日は運動場に体練の号令はなく、滑走路を離陸してゆく機体の音も聞こえない。


 めずらしく静かな昼下がり。

 そしてまた狙ったようにイイ感じの風が、そよそよと生徒の頬をなでる。


  瑞雲最長老の教官は、眠そうな生徒を見わたして教壇きょうだんのうえから微笑した。また、その中から金色や赤色をした瞳。銀色や薄いブルーの髪の生徒をかぞえ、


「このクラスにも1/3ほどは居ますか。もう“混血児ハーフ”は珍しくないですからねぇ。むかしは“ハーフ”といえばわたしのような、いまで言うインド事象面と日本事象面の父母から生まれた子のことでしたが、昨今は地球面と外象民とのあいだに生まれた子をさすようになりました……」


 そう言うと講師は教室の宙に、現在の事象面と連結する“網化廻廊もうかかいろう”を浮かべた。

 北米・カナダ。オセアニア。日本。インド。広域欧州。アフリカ。

 もとの地球上にあって、いまだ連絡がとれないエリアもある。北極や南極、それにユーラシア大陸の一部が、ごっそりと抜けていた。


「髪やひとみの色が特殊なことをのぞけば、言語や哲学等、それまでの地球文化と似ていたのが幸いしました。これは私見ですが“文化的刻印こくいんづけ”の似かよう民族が、それぞれにふさわしい事象面に漂着したのではないかと考えますねぇ……「大破断だいはだん」によって世界が切り分けられたのも、ほぼその文化域に沿ってであります……」


 ガクンと一回、『ポンポコ』のアゴがおちる。

 ハッ、と気を取りなおし、となりの席を見れば、『牛丼』はとっくに首をたれて爆睡中だ。またクシャミと一緒に入れ歯が飛んでこないか、ヒヤヒヤしている教壇前の女子候補生をのぞいて、教室は完全に沈滞ムード。だが、そんな生徒たちのやる気のなさを意にかいさず、淡々たんたんと『モガモガ』の講義はつづく。


「大破断」直後のインフラの壊滅と自然災害。

 多くの混乱や犠牲。

 同時に『日本事象面』に、流入した数万の“外象人”

 界面翼技術の伝授。開発と改良、実用化。


 ようやく発見された、分断された各世界をつなぐ『廻廊かいろう』。

 まず日本は、インド事象面との接触に成功する。インドは、自国に流れ込んだ外象人の技術をつかい、すでにヨーロッパ事象面への廻廊を開いていた。東西ヨーロッパ事象面は、アメリカ・カナダ事象面への廻廊を構築ずみ。

 さまざまな小路パスが、時代とともに構築されてゆき、網化もうかされ、世界は糸電話めく脆弱ぜいじゃくさで、水平的・垂直的に、かろうじてつながってゆく。


 廻廊の新規発見。

 未知の事象面への探索。


 ひいては、この世界が分断されるきっかけとなった原因をさぐり、世界を元に戻そうというのが(各事象面で呼びかたは異なるが)『探査院たんさいん』であり、その未知の事象面に挑む先兵こそが、特殊な能力を見いだされ、厳しい訓練の後に選抜された、冒険心あふれる――べつな言い方をすれば命知らずな――『航界士こうかいし』と呼ばれる一群だった。


「で、あるからして――」


 《講義中失礼します。1016・三級候補生『ポンポコ』――》


 そのとき、いきなり放送で呼び出しがかかった。

 自分のW/Nウィングネームをモロに呼ばれた彼は、一気に眠気を覚ましたクラス中の注目をあびる。


「おまえー、ナニしたんだよ?」


 放送が終わると、ワッと周りが冷やかし半分に話しかけてきた。


「至急、離床準備棟りしょうじゅんびとうにて着装ちゃくそうって言ってたけど……これから飛ぶとか?」

「ポンくん、こないだの技査フライトの件じゃないの?補修、受けてないんでしょ?だから言ったじゃない、チャンと――」

「盗撮でもバレたんじゃねェの?このムッツリが」


『モガモガ』が、ヨロヨロとクラスをしずめ、『ポンポコ』の方をみて、


「あぁ、キミ。そう言うことだから……はやいトコ行ってきなさい」


 エースマン~のけつバット~♪と、どこかで声高に。

 ドッとわく教室。


「えぇ、もう。行きますよ――行きゃイイんでしょ!」


 なにやらイヤな予感。だが、あえて強がって、『ポンポコ』は、いかにもめんどくさそうに席を立つと、余裕綽々よゆうしゃくしゃくなフリでクラスをあとにする。

 ひとけのない廊下に出てクラスの視線からさえぎられるや、彼は態度を一変、不安な心持ちと表情で、急に温度が冷え冷えと下がるように感じる校舎を駆け足ギリギリの足早で離床準備棟へと向かう。


 渡り廊下を通った時、遠くに駐められたBMWが見えた。


 あれからもう二週間以上が経つ。死体の記憶は、とっくにおぼろとなってしまったが、カフェオレ色の肌と、そのあたたかい柔らかみの記憶だけは、いまだに生々しい。

 もういちど触れてみたいなァと考えていると、いつの間にか足どりはゆるやかになる。うつむいたまま校舎の角を曲がると、ドスンとなにかにぶつかった。

 驚いて顔を上げた『ポンポコ』の目に、『エースマン』のオリーブオイルでみがきたてたような禿頭ハゲあたまが、まぶしい。


「い、そ、ぎ……っつったよな、あァ?」


 気弱な愛想笑いをうかべる彼に、この主任教官はに青スジを浮かべ、


「さっさとクソ準備棟に行かんか!オカマ野郎が!クソ更衣室に!クソ行って!クソ着装しろ!かけ足!」


 それだけいうと、『ポンポコ』の尻を重い半長靴はんちょうかで蹴り上げた。

 まえにつんのめった彼は、カタパルトで弾かれたようにダッシュでその場を逃れる。秋晴れの中、静まりかえった建物をぬって走っていると、なんで自分がこんなことをしているのか、その非日常っぷりに、頭の中も混乱気味となる『ポンポコ』だった。


 息を切らせて離床準備棟にたどりつき、脱衣エリアに駆けこむと、制服をぬいで全裸となる。指定の脱衣カゴに制服を入れ、胸の名札をそこに付けてそのままカゴを押すと、壁に吸い込まれ、シュートを通って洗い物はクリーニングルームに。


 すっ裸のまま隣り合う殺菌ブースにはいり、エア・シャワーと共に紫外線。 

 目を閉じ三〇秒。


 アラームが鳴り、処置がおわってから、さらに隣の部屋に通じるドアへ。すると時間外なために照明を落とされた中、個々に青い光を発する無菌BOXロッカーの列が縦横にならぶ光景がひろがる。

 がらんとした、あたかもひとけのない寺院の納骨堂めく雰囲気。

 消灯中のロッカーは空きか、当人が着用中だ。


 ――そう言えば……。


 以前、技査航界飛行で事故死したはずの候補生が、殺菌灯の点いていないロッカーの前でションボリとうなだれていたと言うウワサ。それが、まことしやかに囁かれていたことがある。見えている者に気づくと、彼は自分のロッカーを泣きそうな顔で指し示すのだとか……。


 ブルッと体をふるわせた『ポンポコ』は、足ばやにロッカー室のヒンヤリとした空気の中をすすんだ。足音がペタペタと、まるで自分の後をつけてくるように、だだっ広い暗がりに響く。割り当てられたロッカーの扉を開けると殺菌灯が消え、白色LEDが灯る。そこで自分の練習用スーツを手に取ろうとした彼の動きが、止まった。


 薄暗がりの中、ロッカーのW/Nを確かめる――間違いない。


 中には、通常の見なれた薄手のクリーニングパックの代わりに、ひと回りも大きく、ズシリと重い真空パックが入っていた。凝った作りのリップが、完全無菌包装であることを告げている。


 ――なに。え?……え?


 黒と灰色のツートンでデザインされた、おそらく本物のゲシュタルト・スーツ。いつも教練飛行で使う安っぽい簡易スーツではなく、ちゃんと人工筋肉と毛細循管シートが、極限までに薄く配置された、そこそこの価格がする外車一台分の価格と同等な、選抜上級生用の代物シロモノ


 たっぷり一分間、凝固していると、彼方にある出口の扉がひらき、


「候補生1016!『ポンポコ』……でイイのか?居るかァ!」

「――あ、ハぁイ!ここに」

「早くコッチに来たまえ!時間がないんだ!今日中にデータ取りしてラボに送らんと間に合わん!」

「あの、離床用スーツが――いつもと違うの入ってるんですけどォ……!」

「いいから早く!」


 さいごは怒鳴り声となった姿の見えない相手に、しかたなく『ポンポコ』はフルチンのまま、10kg以上はあるに違いない無菌パックをかかえ、なさけない気分でペタペタと出口に向かう。


 扉をあけ、ヒッ、とまたもや彼はたじろいだ。

 次の間は『フィット・ルーム』と呼ばれる装備品の着用エリアだが、そこには彼の到着を待ちかまえていたらしい錬成校付きの保険医と、見たことのない白衣の一群。それに黒スーツ黒メガネの二人組が、入室してきた『ポンポコ』を一斉にギロリと注視する。

 思わず無菌パックで前をかくす彼に、白衣の集団にいた若い女性がツカツカ進みでると、有無を言わさずそれを引ったくり、開封リップを引く。


 パックに空気の入る甲高い音。


 それが合図であったように、部屋の中にいた7~8人は一斉に動き始めた。

こっちへ、と白衣の男二人が、部屋の中央に据えられた、ギロチンのような見慣れない物に『ポンポコ』を誘うと、あっという間に首と両手足を、二本の柱に拘束する。ついで両脇、股の付け根、足首を固定され、下の部分が左右にひらくと、彼の身体は足をハの字に、そして尻を突き出した格好のまま、ガコンと宙に浮いた。


 「首から下、脱毛するからね?クリームちょうだい」

 「拘束薬と安定剤、注入……完了」

 「ダメだぜこれ。スーツの脚が、たぶんチョイ短い」

 「最近の子は、スタイルいいねぇ」

 「強制屹立きつりつ薬、早く――イイこと?ちょっとチクッとするわよ」

 「循環器系と思考系のバイタル接続。急げよ?ラボの連中、残業しないから」

 「ハイ、おしりの力抜いて――もっと!そう……イイ子ね。あら。便べんが残っているわ」

 「100パー勃った?じゃカテーテルを。暫定ざんてい的なものでいい。正式なものは、後日」

 「大丈夫だから。そんなに緊張しないで……もっとラクに」

 「網膜パターン採るから眼を動かさないでくれ――ハイOK」

 「排便させるわ!シリンジと、温水にグリセリン。それにバケツ準備して!」

 「貞操帯を。鍵は?」

 「いちおう付けといてくれる?この子がヘンにいぢると、アヌスやユリスラ傷付けるから」

 「スーツの準備出来ましたァ!」

 「クスリの量。間違ってないか?反応がうすいぞ」

 「大丈夫、ホラ、こうすると――興奮してる。カワイイ」

 「キレイなからだねぇ……」

 「規定外の行動は、界面翼保持精神の瑕疵かしにつながります!自重を」

 「だめだぁ、やっぱり中和剤を注射とう」



 脚や下腹部に刷毛はけをつかってヒヤッとしたものが塗られる気配。

 そして、いくつもの手でそれが塗り延ばされてゆく。

 次いで首筋に電気が流れたようなムチ打ち状態。

 頭が、だんだんうつろになり、考えがぼやける。

 からだに力が入らず、されるがまま。


 うらスジに鈍痛がひろがり、電子ゴーグル付きヘルメットで視界は奪われた。

 胸のあたりに冷たいシールが貼られ、肛門にヌルヌルした細い指が進入したかと思うと尻の感覚が薄くなり、次いで勝手に勃起が始まって尿道に何かが入ってゆく。


 目隠がわりのゴーグルに電子走査パターンが奔り、眼球がチカチカと。


 シュコシュコと音がして、肛門が拡げられる――かと感じるや、後ろから柔らかいモノを挿入れられ、身体の中にアツい液が放たれて。身体をよじって脂汗をガマンし、もう限界!と動かない口で訴えようとすると、肛門あたりの圧力がぬけ、下腹からボタボタと流動物が垂れる音。異臭。スプレー噴射の気配で、すぐに臭いは消える。

 ヒンヤリするもので清められ、すぐにグイッと手荒く下半身を何かで縛られて。

 そして――頑丈な鍵のかかったような金属音。


 胸の先を誰かがサワサワと撫でている、ような。

 鼻の近くに、暖かく蒸れた体温の気配と、化粧品の匂い。

 再度、全身を幾本の手で、くまなくなぶられる。ふたたび首筋に、なぐられたような衝撃……。


 ゴーグルが外され、『ポンポコ』は涙のにじむ眼をしばたたかせた。

 化学反応のように、ヒタヒタと感覚がもどってくる。ついでに羞恥心しゅうちしんも。

 自分を見る白衣の女のうち、一人が顔を上気させ、そっと自らの胸と太ももの付け根をむのが、視界のはしに映った。携帯のカメラをいじる白衣の男も。


「だいぶ手間どった。さ、はやくスーツを」


 “ギロチン”の拘束から解放され、依然としてなかば感覚がうすいまま、彼はフラフラと鏡のまえに立つ。下腹部にくわえさせられた、エナメル状に黒光りする薄いオムツのようなものをマジマジと見るヒマもなく、白衣の一団の長らしき者から、レーシング・スーツのツナギのようなものを指し示されつつ、


「いいかね?ゲシュタルト・スーツは、体に完全に密着する必要があるため、とにかく窮屈きゅうくつに出来ている。そのうえ手荒に扱うと、機体との同調をうしない、インターフェースからの情報逆流フイードバックで、体中を針で刺されるような苦痛がはしり、最悪の場合、脳を煮られる可能性がある」


 べつの神経質そうな痩せた青年がメガネを光らせ、


「狙撃手が、銃を愛人のように扱うがごとく、

  ソムリエが、年代物のワインを解体中の時限爆弾のように扱うがごとく、

         航界士は、G・スーツを芸術品のように扱え――分かったな?」


 4人がかりで着付けられながら『ポンポコ』は幾分躁病気味な説明を受けた。

 次にクリップボードになにやら書き込んでいた女医が、


「アナタが気にしてる下半身のソレは“貞操帯”、あるいはC・ベルトと呼ばれるものよ。第二還元リダクション状態の肉体は、ときとして体液ダダもれ状態になるでしょう?G・スーツの中にそれが入ると、機体同調に不具合が生じるコトがあるの。その防護措置よ」


 彼女の持つペン型のデバイスが、貞操帯の概念図を宙空に浮かべた。男性用貞操帯の肛門と尿道には、それぞれ異なった太さのデバイスが体内に延び、「返し」状のものでガッチリと固定されている。

 うしろから別の白衣が、


「きょうは試着なので、能動装着モードは使わず、人力で挿入れるから」


 前後左右からの矢つぎばやな説明に、『九尾』はワケも分からずコクコクとうなづくくしかない。


「ココロの準備はイイこと?それじゃ――イクわよ」


 マネキン人形のようにツルツルとなった素足をスーツに差し入れるときの、冷たい感触。うすく潤滑剤が効いているのか、きわめてキツイながらもスムーズに肌をおおってゆく。

 ゴムのような、ビニールのような。あるいはよくなめした革のような。

 白衣の男たちが総がかりで、太ももまでシワのでないように引き上げてから、そこでいったん、手術用ゴム手袋をはめた若い修錬校付き女性保健医に替わる。


 荒々しくも要所はソフトに、かつ手なれた様子で、貞操帯の位置をスーツの部位と合わせてゆく。動かされるたび、麻酔の切れかけた尿道と肛門に鈍痛と微妙な刺激。プラグが通電され、肛門の中と尿道の奥でバルーンがふたたび広がり、固着された感触。

 さらに白衣集団が腰、肩へと引き上げる。

 冷たい、締め付けるような感覚が、体を手荒く揺すられるごとに這い上がってゆき、最後に首もとのロックが、カチリと締められた。


「違和感は?」

「……すごく、キツいです。コレ」


 歩いてみてと言われ、彼は小さく行ったり来たりする。

 足の裏面に付けられた金属が、カチカチと、そのつど鳴った。


 身体を、ねじり、そらせ、屈み、曲げる。


 ギュッギュッと革がきしむような、ミチミチした感触。

 その後もう一度、人工筋肉からのデータとA/Dコンバータをチェックされ、数カ所を、さらにワンサイズ小さくすることに。


「これはあくまでその場しのぎよ。本当ならアナタのカラダを3D採寸してトルソーつくって、そこから厳密なスキンタイトに仕上げるんだけど……来週のアタマまでに何とかしろだなんて、いくら特殊――」


 そのときスーツを着た黒メガネ二人組の咳ばらいがして、女医の言葉は押し止められる。彼等は『ポンポコ』に近づくと、一人が彼の手を後ろで固定し、もう一人がシェーバーのような機械を手に調節するような仕草。やがておもむろに彼に近づくと、額にその機械を押し当てた。

 次の瞬間、『ポンポコ』の眼に火花がはしり、ひたいが赤熱したような激痛。

 声にならない叫びをあげて崩れかかるところを白衣たちに支えられ、かろうじて彼は床に頭を打ちつけずにすんだ。


「これでオマエは」

「正式な候補生。つまり」

東宮とうぐうの財産となったワケ」

「これから行動は」

「自重しろヨ?」


 こともなげに、黒メガネの二人組は交互に言いはなつ。


「……なんなんです、コレ」


 『ポンポコ』は額をおさえ、血が出てないか確認してから、いまだチカチカと星の舞う視界で相手をうらみがましくにらんだ。


「電子刺青いれずみさね」

「マーカーと」

「識別を」

「兼ねている」

「探査院の本院に入るとき」

「この識別証が必要になるのさ」

「テロに遭ってドブに転がされても」

「死体をすぐ見つけてもらえるようにな?」


 息のあった台詞で最後に顔を見合わせ、このコンビはフヒヒとわらう。


「月曜の朝、このお二方がキミを迎えにいくから。土日は行動を自粛じしゅくなさい?」


 うんざりしたような声と目付きで、女医が“ギロチン”を白衣の男たちに撤去させつつ、『ポンポコ』と黒メガネ二人組を等分に見やりながら命令した。


「繁華街やさかり場に、ノコノコとアホ面さげて出歩かないこと。最近は、とくに治安が悪くなってンだから。この土日は、作戦隔離かくり用の候補生宿舎に――」


 作戦?と『ポンポコ』が眉をひそめる。

 またも黒メガネ二人組の咳ばらい。


「え。えぇ、そう。貞操帯をつけたまま、あなたがフラフラ遊びに行かないよう特別な寮に入ってもらいます。ヘタに動き回ってオチンチン傷つけたら、一生後悔するわよ?」

「そんな――あしたは気晴らしに街へと、その」


 アラ残念だったわね、と女医は無情のひと言。


「まぁ、仮づけの貞操帯、くわえさせられてるから、あまり動けないでしょうけど。月曜の実技補習、がんばってね」


 えぇっ、とそれを聞いた『九尾』の尻穴が、ヒリヒリと抗議する。


「この週末、ずっとコレつけたままですか!?」

「実戦用G・スーツになれるためよ?ガマンなさい」


 ツケツケと言い放つ女医の言葉を聞いて、機材を片づける白衣の一群のひとりが『ポンポコ』を哀れに思ったか、慰めるような優しい声で、


「だいじょうぶよ。先輩たちが、みんな通った道なんだから」

「ふぇぇ……非道いですよぉ」

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