第29話大学生時代とギンちゃんの就職
少しずつ日常が取り戻されるなかで、ギンちゃんの就職活動も再開された。ギンちゃんはあいかわらず自分が何になりたいのか分からないようだった。しかも、その時期は他の地方の企業も復興のためにという名目で私たちの街に色々とやってきていた。夢が定まらないのに、夢の差選択肢だけは増えていった。
でも、ギンちゃんはそういう企業は受けなかった。
彼は、この街に残りたいと考えているようだった。
「この街を俺の故郷にする」
ギンちゃんは、そういっていた。
夢もやりたいことも見つけられていないギンちゃんが、唯一掲げた目標。その目標を達成するために、ギンちゃんは地元の中小企業ばかりを受けた。そして、そのなかの一つに採用されることになった。営業の仕事だった。大変そうな仕事ではあったけど、ギンちゃんは地元に残れることにほっとしていた。
彼は、一番の目標をかなえたのだ。
私もビッくんも、それを喜んだ。
まだまだ、地震のころを引きずっていた時期だったけれども明るいニュースは増え始めていた。地震の残骸は、まだいたるところに残っている。けれども、私たちの心は辛いとことから離れようとしていた。
私も、勉強の日々に戻った。
そして、唐突にその連絡は姉から来た。
私たちの家族――父、母、弟の死体が確認できたということであった。遺体はもうすでに傷んでおり、私と姉のDNAで家族が分かったとのことであった。それを姉から聞いたときに、家族だったんだと思った。
問題を多く抱えた家庭ではあったけど、私たちは確かに家族だったのだ。
姉からの連絡を聞きながら、私は声を出して泣いた。
家族だと強く意識した瞬間に、全てをなくした気分だった。いや、正確にはなくしたからこそ、私は家族だったことを思い出したのだ。
私たち家族の葬儀は、とてもひっそりと行なわれた。私たちの親類の多くは流された地域に住んでいて、亡くなった親戚のほうが多かった。まだ、遺体が見つかっていない親戚も多くて、なんだか自分たちのことを報告することが忍びなかったのである。
「どうして、医者を目指したのかな?」
私は、父の葬式でそう呟いていた。
代々続いていたから、自分もそうなったのか。それとも、何かの願いがあったのか。私は、もっと早く父のことを聞くべきであったのだと思う。私は心の中で何度も父を罵ったが、私から父に歩み寄ろうとはしていなかった。
そして、一度たりとも心の中で家政婦を母と慕ったことはなかった。弟のことも気にかけるフリをして、まるで無関心のようにふるまった。
私は家族に恵まれていない、とずっと思っていた。
だが、実際のところ家族が私に恵まれていなかったのだ。私がもっと優しい娘であったのならば、私の家族の関係性は何かしらが変っていたかもしれない。
「もっと、優しく生まれたかったな」
私の言葉に、姉が呟く。
「私もだよ……」
人はいつだって、失ってから後悔する。
そんなありきたりな言葉が浮かんできた。
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