第28話大学生時代と家族の葬式

 電気が来て、都市ガスは復旧して、水道が復旧して、さまざまな物が日常に戻っていた。だが、同時にライフラインが復旧したことで私たちの故郷で何を起ったのかが明らかになった。ニュースが私たちに知らせる、津波の被害。

 町そのものが生みに飲み込まれる、映像。

 見たことがある建物が海に消えていく様を私もギンちゃんもビッくんも無言で見ているしかなかった。情報が入っていくにつれて、私たちの故郷は避難所ごと流されたのだと知った。津波が着たらここまで逃げろと言われていた場所にまで、津波がやってきてしまったのだ。私たちが住んでいた家や町は、きれいに流されてしまった。

 生活が落ち着いてから、私は姉と一緒に故郷に戻った。私たちの家族の遺体はまだ見つかっていなかった。それは多くの人々にいえることだったけど、家族と離れていた私たちは連絡が取れていないだけで、どこかでひょっこりと生きているような気もしていた。だが、津波で攫われた故郷を見て、そんな考えは甘かったことを思い知った。

 何にもなくなっていた。

 瓦礫などはたくさんある。

 でも、それだけだ。

 人が生活していた気配はほとんどなて、残骸だけがあった。

 ああ、ここが地獄なんだと思った。

 ギンちゃんが昔大きな地震が起きてそれで建物が丈夫に作られるようになった、と言った。でも、今ここには現在の地獄があった。

 私と幸は、その地獄を歩いた。

 知っているはずの土地で、故郷と呼べるはずなのに、全く見たことのない風景ばかりが広がっていた。いいや、似ているところを探さないようにしていた。見つけてしまえば、感情があふれ出て止まらなくなるような気がした。

「いつか、この風景も役に立つのかしら……」

 かつての地震で建物が丈夫に作られるように、この地獄の風景も未来のためになるのだろうか。今は地獄でも、未来では違う風景をみることができるだろうか。

「ねぇ、未来ちゃん。まだ、医者になりたいの?」

 幸は地獄を歩きながら、私に尋ねた。

「うん。故郷に帰ってこれるかはわからないけれども……」

 家の跡取りになりたいと思ったから、私は医者を目指した。

 けれども、ずっと前から跡取りという夢の基盤は消えそうになっていた。

「医者になってよ」

 姉は、私にそう言った。

「何が何でも、医者になってよ。そうじゃないと……ここにいた記憶が全部消えてしまいそうだよ」

 ああ、そうか。

 姉が家にやってきたころから、私は医者になりたいと言っていたんだっけ。

「医者意なってもいいの?」

 私は、唯一の家族に尋ねる。

「……いいよ。私が目指して欲しいの」

 全てはなくなってしまった。

 けれども、全てをなかったことにはしたくないのだと姉は言った。

「私とお母さんは上手く行っていなかった。でも、いい思い出だっていっぱいあるの」

 全部をなかったことにしたくないのは、私も同じだった。

「だから、医者を目指して」

 それが、姉の願いだった。

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