第21話高校生時代と復縁
ネットの世界は、独特の友情まで作り出した。
掲示板に色々と書き込んでいるうちに、私にはよく話す子が出来ていた。もっとも話すといっても、私のコメントに色々とコメントを返してくれるだけの年齢も性別も知らない人なのだが。
その人は、他の人と違って誰の悪口も言わなかった。その人のハンドルネームは、スキップというものだった。
私は、スキップと色々な話をした。ビッくんとギンちゃんのこともスキップに改めて相談した。スキップは他人の悪口を言わなかった。それだけで、私のスキップへの信用はあがった。
私は、なんでもスキップに話していた。
そのころは学校の友人のあり方もネットや携帯を通じて、変化していた。私たちは学校から帰ってもメールやBBSで会話をし、常に友人たちと繋がっていた。そして、その輪からもれることは苛められていると同異義語だった。大人たちは経験したことのない時代が、いつのまにかやってきていたのだ。
私たちの文化は、いつの間にか大人たちがニュースで異常と取り上げた。
だが、誰も便利な道具を取り上げることはしなかった。
私は日中は学校で友人と交流しながら勉強し、夜はネットでスキップと学校の友達両方と交流した。交流ばかりで他人は頭が痛くならないだろうか、と考えてしまうほどに忙しい毎日であった。
そんななかでネットで知り合った友人を頼って、若い女性は都会に出て行くという事件が巷をにぎわした。それは私たちにとって身近な事件なはずだったのに、どこか他人事であった。都会、という言葉が私たちには遠すぎたからかもしれない。
そんなある日、私はビッくんと二人っきりになることがあった。
その頃の私は、塾に通っていた。
医者を目指すためには、必要なことであったのだ。その帰り道にお腹が空いて、チェーン店のハンバーガー屋さんへと足を踏み入れた。
そこにビッくんがいた。
ビッくんは部活の仲間と店に来ていて、彼らとそろって店を出て行くと数秒後に店に戻ってきた。そして、私の隣に座った。
私はカウンター席に座っていて、店の端っこにいた。とても、目立たない場所に居た。それなのに、ビッくんは私のために戻ってきたのだ。
「未来ちゃん……あの、その」
ビッくんは、私に対して何かを言おうとしていた。けれども、何にもいえなくて困った顔をしていた。
「ギンちゃんのこと?」
私の言葉に、ビッくんはうなずいた。
「高校に入ってから、未来ちゃんと全然喋れなくて……ギンちゃんは理由を知ってそうなのにいってくれないし」
どうやら、ギンちゃんは合格発表の日に起こったことを知らないらしい。
だから、どうしてギンちゃんと私の仲が悪くなったのかを知らないらしい。
「……ビッくんは、ギンちゃんと付き合ってるの?」
私は、尋ねた。
ビッくんは、すごく驚いた顔をしていた。
「ギンちゃんに聞いたの?」
恐る恐るビッくんは、私に尋ねた。
私は、頷く。
「変……だよね」
ぽつりと呟くビッくんには、どこか罪の色があった。
世の中には、正常と異常がある。ビッくんとギンちゃんは異常で、二人はたぶん誰かに後ろ指を刺されることを恐れていたのだ。
「ギンちゃんも変だって言ってたし」
ビッくんは、苦笑いする。
諦めている顔だった。
この二人は、たぶんこのままであれば一生付き合ったりはしないだろう。互いを異常にしないために。それは、私にはこの世で一番強い愛情の証のように思えてしまった。
「ビッくんとギンちゃんは、付き合ったほうがいいと思うよ」
壊してやれ、と私は思った。
互いを思いあって付き合うことのない、強い愛情など俗世に落として壊してしまえ。
「だって、互いに好きなんでしょ」
私は無責任だった。
ビッくんたちが曝される悪意の種類を知りながら、彼らの背中を押した。彼らの強い愛情を見たくはなくて。自分が、そこに入れないことが嫌でたまらなくて。
破局してしまえ、と思ったのだ。
破局して、元の友人同士に戻ってしまえと思ったのだ。
そうすれば、私が入り込める隙ができると思った。
「未来ちゃんは……それでも仲良くしてくれる?」
ビッくんは、私に尋ねる。
その言葉には、恐れがあった。
「私以外にも仲良くしてくれる人はたくさん居るでしょう。それに、私は恐いんじゃないの?」
ずっと、私はビッくんが好きだった。
ビッくんは、そんな私を恐れた。
それでも、かつての私たちはたぶん一番の親友だったと思う。
「それでも……未来ちゃんがいい」
ビッくんは消え入りそうな声でいう。
「贅沢かもしれないけど、一番の友人は未来ちゃんがいい」
なんて、ずるいんだろう。
私は初めて、ビッくんにそんな感想を抱いた。だって、自分を好きでいてくれる人と友人でいたいなんて。この世で一番の贅沢だ。
「ビッくんは、本当に贅沢ものだねぇ」
私は、ため息をつく。
ビッくんは、私から目をそらした。
「ごめんね……未来ちゃん、ごめんね」
ビッくんは、泣いていたのだろう。
でも、私は彼の泣き顔を見ないようにした。
「ビッくん、私は友達だよ」
私は、そう呟く。
ビッくんに未練がなくなったわけではない。
今でも大好きだし、結婚したい。
でも、私はビッくんの恋愛対象にはなれない。ならば、ずっと側に居る特別を味わいたいと思った。恋愛対象は愛情がなくなったり薄れたら別れる。でも、友人は一生。努力すれば一生側にいられる。
そんなズルイ考えが産んだ、私の友情であった。
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