第19話中学校時代と失恋

私たちは高校を受験した。

 結果はまだ出ていなかった。

 寒い冬になっても、幸はやはり家にはあまり帰っていなかった。けれども就職先は見つけたらしくって、その報告は受けていた。同じ学校を受験した私とギンちゃんは、一緒に合格発表を見にいった。ビッくんは一人で先に見に行っていた。実は私がビッくんに振られてから、ギンちゃんがビッくんに告白した日から――私たちは可笑しな具合にバラバラだった。でも、受験の忙しさもあって、誰もその不自然さを指摘しなかった。

 受験した高校に向う途中に、ギンちゃんは言った。

 まだ道にも雪が残っていて、滑らないように二人で慎重に歩いていた道すがらのことであった。

「あいつに告白した」

 とても、シンプルな言葉。

 あいつと言うのは、たぶんビッくんのことだと私は思った。

「断られて、逃げられると思ったんだ」

 ギンちゃんは、早足になる。

 私は、それに必至についていく。

「でも、あいつは受け入れてくれた。……未来ちゃん、どうしよう」

 ギンちゃんは、助けてくれと言っているようだった。

 私は、足を止めた。

「どうして……そんなことを私に聞くの?」

 私は、ビッくんに振られた。

「だって、ありえないだろ。おまえじゃなくて、俺が受け入れられるなんて!受け入れられちゃいけないだろ!!可笑しいだろ!」

 ギンちゃんは、声を上げる。

 こんなの可笑しい、と彼は現実を全く受け入れなかった。

「あいつは、俺なんか好きになっちゃいけないんだ。あいつは、もっとちゃんと……」

 ギンちゃんの言いたいことも分かった。

 男の子なのに男の子が好きだっていうのは、とてもイレギュラーなことだ。ギンちゃんはそれが分かっている。分かっていて、ビッくんに同じものになって欲しくはないと願っている。それでも、私は許すことが出来なかった。

「なんで、悲しむのよ」

 私は、ギンちゃんに思いっきり体当たりした。

 バランスを崩したギンちゃんは、地面に倒れる。

「なんで振られた私じゃなくて、受け入れられたギンちゃんが悲しむの!」

 私は、ギンちゃんをにらみつけていた。

「私のほうが、ずっと前から好きだったのに!」

 ただ、好きと言っていただけだけど。

 それで、ビッくんを追い回していただけだけど。

「ギンちゃんなんて、嫌いよ。私にないものを全部持ってる、ギンちゃんなんて嫌い」

 私の言葉に、ギンちゃんはむっとしていた。

「そっちだって、俺にないものを全部持っているくせに」

 私とギンちゃんは、共に合格発表をみるために高校へと歩く。

 でも、一言も口をきかなかった。

 私たちは、正反対すぎたのだ。

 あまりにも互いが、互いの持っていないものを持ちすぎていた。

 高校に着くと、そこではビッくんが待っていた。ビッくんは、私たちが無言でいることに首を傾げていたが私たちは「別に」と声をそろえることしかできなかった。

 私たち三人は、無事に合格した。

 けれども、私たちの心は晴れやかとは言いがたいものだった。

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