第18話中学校時代と友人の告白
私たちは、中学三年生になった。
ビッくんたちは、部活を引退していた。彼らは大きな大会に出たけれども、そこまで上位に食い込むこともなく、だからといってボロボロに負けたということもなく終わった。ビッくんとギンちゃんも受験勉強を始めていて、私が二人に勉強を教えることもあった。
ギンちゃんは、ビッくんに何も言っていないようだった。
「なんで私に言ったんだよ」とも思ったが。アレは彼なりに必要なことだったのだろう。
私の家庭は、相変わらずだった。
家政婦は、弟にべったりだった。ただ、それを周囲の人も怪しいと思い始めたのか我が家には知らない大人が弟を訪ねてやってくるようになっていた。それは役所の人々で、どうやら弟がちゃんとした養育を受けているのか確かめにやってきているらしい。家政婦は、そういう人々を喚きちらしながら追い出した。
幸は相変わらず家に帰ってこなかったけれども、母親である家政婦に将来のことを相談しているところを見たことがあった。幸は卒業したら東京に行きたいらしかった。東京で仕事を探して、もうここには戻ってこないつもりらしい。
幸に無関心だった家政婦は、初めて幸に反対した。
けれども、父は反対しなかったので幸は卒業後は東京に行くことになった。
幸は、ネットで東京の求人を見ていた。学校に来るような求人には、東京のものはなかった。幸は東京で、誰にも迷惑をかけないように生きることを決心したらしい。
ただ、東京でなにをやりたいのかは全然決まっていないようだった。
私の夢は相変わらずの医者で、その夢をかなえるための学校に行くために何度も模試を受けていた。模試では、合格はほぼ間違いないという結果だった。ビッくんもギンちゃんも同じで、私たちは受験にあまり多くの心配をしなくてよさそうだった。
「ビッくん」
私は、ビッくんに勉強を教えながら尋ねたことがあった。ギンちゃんがいないときであった。放課後の人気のない図書室でのことだった。
「ビッくんは好きな人がいる?」
私がそう尋ねたから、ビッくんは条件反射で逃げようとした。
たぶん、小学校の頃の「結婚して!」が効いているらしい。
私は、ビッくんの背中に向って叫んだ。
「別に、私のことが好きじゃなくていいから!」
私は、ビッくんのことが好きだ。
今でも結婚してほしいと思っている。
でも、たぶんビッくんは私のことは好きではない。
それは、分かり始めていた。
「教えて……」
それでも、知りたいのだ。
もはや、私が好きでいればいいという年齢は過ぎた。
私は、ビッくんの気持ちが知りたい。
「怒らない?」
ビッくんは、私に尋ねた。
私は、答えた。
「怒らないから」
ここで怒ると答えたら、絶対にビッくんは逃げてしまう。
ビッくんは、私の顔色を見ながらおずおずと答えた。
「好きな人……いるよ」
「私、じゃないのね」
ビッくんは戸惑った。
そして、とても控えめに頷いた。
「ごめんね……」
ビッくんは、そう言った。
私は、首を振った。
「でも、私はビッくんのことが好きなんだからね!」
そういうと、ビッくんは私のことを恐れるように逃げ出した。
私は、それを追いかけなかった。
あいかわらず、ビッくんは私に好きといわれるのが苦手なようだった。
ビッくんは、私のことを好きじゃない。
そのことが、重く心に圧し掛かってきた。実は、分かっていたことなのだ。ビッくんは、私のことが好きじゃないと。けれども、ビッくんは私にそれを言わなかった。
優しかったから、弱かったから、きっと言えなかったのだ。
私は、それにずっと甘えてた。
泣かなかった。泣いてはいけないと思った。
これで、私とビッくんの関係が切れることはない。
だって、ビッくんと私はもはや恋心異常に強いもので結ばれている。だからこそ、弱いビッくんは私に自分の気持ちを打ち明けてくれたのだろう。
「どうしたんだ?」
いつの間にかギンちゃんが、私の側にいた。
彼は泣きそうな私を見つけてぎょっとしていた。
「ビッくんの好きな人。私じゃないんだって……」
ギンちゃんは、無言で私の背中をなでた。
「それは、辛いよな」
「あなたはいいじゃない……」
自分のことを慰めてくれるギンちゃんに、私はあたる。
まだ、自分の感情を否定されていない彼が羨ましかった。
「俺はたぶん一生言えないよ」
ギンちゃんは、言った。
「俺が言っても、どうせダメだろ。だって、男同士だろ」
「私には言ったくせに」
ずるい、と私は呟く。
ギンちゃんは、唾を飲み込んだ。
「なら、言ってきてやる。俺もふられてきてやる」
その言葉に、私は驚いた。
「ギンちゃん……」
「それで、皆は相子だ。それで、元通りだろ」
ギンちゃんは、ビッくんを追いかけた。
私は、ギンちゃんを呼びとめようとした。でも、それをすることはできなかった。もしかしたら、心のどこかでギンちゃんもビッくんに振られることを望んでいたのかもしれない。
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