第16話中学校時代と家族

 昨日の父の話しを私はギンちゃんに話した。

 ギンちゃんは「あー」とか「うー」とか色々とうなっていた。お昼休みの最中だったから、私たちの机には給食がおかれていた。お昼は好きなグループで食べてもよいことになっていたから、私は真っ先にギンちゃんとビッくんを捕まえて昨日の話をしたのだ。

「正直、未来ちゃんの父親の話しは羨ましかった。うちの父親……責任能力なしって言われたし、そのくせに定期的に病院からは連絡がくるし」

 ギンちゃんの言葉に、私は首を傾げた。

「離婚してるのに?」

 私の言葉に、ギンちゃんは「身内が俺しかいないからと」とギンちゃんは答える。なんだか、ギンちゃんも色々とあるらしい。ビッくんは、とても申し訳なさそうに体を小さくして私たちの話を聞いていた。

 ビッくんには、私たちのように恥ずべき身内の話しがなかった。だから、私たちの話を本当に聞いていてもいいのかと不安になっているようなのだ。私たちは全然かまわなかったけど、ビッくんは違うらしい。私たちの話を聞くことを申し訳ないと思っていたのだ。

「子供には金が必要なんだから、未来ちゃんの父親は正しいと思う」

 ギンちゃんの言葉には、愛情というものがなかった。

 私の気持ちを見越したみたいに、ギンちゃんは言う。

「愛なんてなくても子供は育つ」

「いいえ、愛情も大切よ」

 私とギンちゃんは、にらみ合った。

 金が大切なのか、愛情が大切なのか。私とギンちゃんはにらみ合った。ビッくんは、そんな私たちを見てオロオロとしていた。結局、私たちは子供が何によって育つのか答えを見つけられなかった。

 ふと、私は思った。

 いつか、私たちは大人になる。

 大人になったときに、私は子供に何を与えるだろうか。私たちは自分たちに足りないというものを子供たちに与えることができるだろうか。それが、とても不安だった。

「大人って、どうして子供を作るんだろう。作るときって、ちゃんと愛せるかどうかって考えているのかな」

 私は、そんなことを考えていた。

「ねぇ、ビッくんは自分に子供ができたら愛せると思う?」

 私の質問に、ビッくんはぎょっとしていた。

「そんなこと……わからないよ」

 ビッくんの意見は、実に中学生らしいものだった。

 私は、そのときになって実は自分もそうであるのだと気がついた。私はまだ中学生で、こんな先のことは考えたって分かりはしない。なんで、私たちはずっとそれに気がつかなかったのだろうか。

 お弁当を食べ終わって、私は一人でトイレに向った。

 その道中で、ビッくんが言っていたことを一人で呟いてみる。

「そんなこと、わからないよ……か」

 子供の私たちが、向き合いたくない問題に挑むときの魔法の言葉。

 この言葉を今の私は呟くことが許されるのだろうか。

 子供に必要なのは、愛なのか金なのか。

 私は、それを考えなければならないような気がしていた。弟や家政婦、そして姉のために。


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