第15話中学校時代と弟の存在

 私は家族について、知ったことがあった。

 けれども、それで何かが変るということはなかった。

 家政婦は弟に付きっ切りだし、父は寡黙だ。ただ、家政婦があまりにも弟にかかりっきりなので、かつての我が家のように家事手伝いをしてくれる業者の人が家にやってくるようになった。女ではなくて、男の人だった。

 それで、私は何となくだが家政婦は他人に父を取られることを恐れているのかもしれないと感じた。家政婦は、きっと男の子を生めば父を繋ぎとめられると思っていたのだろう。だが、その息子も「繋ぎ」にはならなかった。それどころか、娘も家に寄り付かなくなった。

 私は、父に弟のことを尋ねてみた。

「お父さん、司のことどう思ってるの?」

「家族だし、できることはやるさ」

 父は、そう言ったが「できること」というのが私には全然想像が付かなかった。

「お母さんは、司のこと認めてないよ?」

 なぜか、私は障害があるということを口に出せなかった。父も、それは察したらしい。

「いつか気がつく。普通に生きられない人間だっている。金を残せば問題ない。他人が世話を焼いてくれる」

 父の言葉に、私は少し納得がいった。

 父は、息子への愛情は金を残すことだと思っていたのだ。それは、たぶん現実的な愛情ではあるだろう。でも、この家に居る誰もが望んでいることでもないような気がした。

「お父さんは、司のことは可愛くないの?」

「可愛い、可愛くないじゃないだろ」

 父は、咎めるような目で私を見た。

「責任がある」

 それは、正しい。

 けれども、私は何だか悲しかった。

 ふらふらと自分の部屋に帰って、私は布団を被った。父親の冷たい声で「責任」という言葉が、フラッシュバックした。

 家族って、どうして一緒にいるんだけっけ?

 責任があるから、一緒にいるんだっけ?

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