第13話中学校生活と将来の夢
幸は、高校に入って変った。
髪は染められて、化粧も覚えた。前よりも美人になったように思われるが、幸の性格はあんまり変らなかった。誰にも迷惑をかけないように、いつも気配を消していた。見た目だけが不良になって、本質は元の幸のまんまだった。こっそり帰って、こっそりと出て行く。そして、出て行くたびに家政婦の財布からお金を取っていっていたようだった。
家政婦はそれを見咎めて、ようやく幸を叱った。
「あなた、なにやってるの!」
母親に見つかるたびに、幸はぎょっとして走って家の外に逃げた。
そして、お金がなくなるころにまた家に戻ってきた。
その日の夜も、幸は家政婦の財布から取るために家に帰ってきた。家政婦はいつものように怒鳴って、弟は泣き喚いた。父は興味がないかのように知らん振りしていた。
私は幸を怒鳴りつける家政婦の声を聞きながら、父が凝視しているテレビを見ていた。テレビのなかでは遠い国の二本のビルに、飛行機が突っ込んでいた。それはなんだか映画みたいなワンシーンで、全然現実味がなかった。
けれども、私にも「これは大変なことなのではないか」と思わせた。なにか、恐ろしいことは始まる派手な悲劇のファンファーレ。そんなふうに、飛行機の映像を私は受け止めた。
翌日から、案の定あらゆるメディアは飛行機がビルにつっこんだ事件のことを報道していた。大人たちはあの事件を「テロ」と呼んで、世界情勢というものは一気に騒がしくなった。でも、私たちの子供の社会ではそれは大きな事件ではなかった。
テロは遠い世界のことで、部活とかテストのほうが大切なことだった。そして、小学校の頃にできたグループの絆もこの頃には消えかけていた。中学校にはいると同じ部活同士の友情が深まり、小学校のころに培われた絆はすでに消えつつあった。
ビッくんも、陸上部の面々と一緒にいる様子をよく見た。
特に、転校生と仲がいいようだった。
陸上部の転校生は、そんなに喋らない男子生徒だった。身長はビッくんと同じぐらいで、水筒としていつも有名なスポーツ飲料のボトルを持ち歩いていた。ビッくんを見るたびに、いつも視界に入ってくる男の子。たしか名前は、佐伯銀河。
キララと同じようなキラキラネームの男の子だった。
銀河は部活ではそこそこの実績があるようだったけれども、クラスではあまり目立つ生徒ではなかった。あまり喋らなかったし、親しい部活の人間だけが彼のことをギンちゃんと呼んでいた。
中学校になって、私たちは小学校のころよりもずっと深く将来のことについて考えなければならなくなった。私も自分の夢を整理した。
小学校の頃は、家を継ぎたいと思っていた。そのためには、医者とならなければならなかった。医者になるには、学力と多額の学費がかかることが予測された。親の協力なしでは、絶対に実現不可能な未来なのだ。
そのことについて、まず父親と相談しなければならない。
私は、家政婦がいないときを見計らって父に将来のことと学費のことを話した。父は、意外なほどすんなり私の将来の夢を許してくれた。
「弟には期待できないからな」
とも父は言っていた。
そういえば、弟が生まれてもう随分と経つ。それなのに、弟は未だに赤ん坊のように泣き続けている。私は子供の成長にはあんまり興味がないから、子供って言うものはそういうものだと思っていた。けど、もしかしたら違うのかもしれない。
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