第5話 ラストバトル3

世界を滅ぼすほどの力を持った、呪いの主がどうして聖者に封じられたのか。

疑問に思った事があった。

だけど今はわかる気がしていた。

全てを呪い滅するほどの相手の前に、たった一人立った聖なる乙女。

きっと彼は、聖女に惚れたのだ。




俺以外の仲間たちは、皆重症を負っていて、残らずベッドに沈んでいた。

俺は寝込むほどの傷は負っていなかったから、そのうち一つのベッドの横に、ずっとついていた。

そうしてベッドの主の、血の気を無くした白い頬を、落ちた目蓋を見つめていた。

彼女が目覚める事を、願って。

俺は神に祈る事は許されていなかったから、ただ彼女に祈っていた。


目覚めてくれと。

そして謝罪させて欲しい・・・。


俯く俺の視線の先で、彼女の長い睫が、僅かに震えた。

立ち上がる俺の勢いに、椅子が倒れてがたりと鳴った。

しかしそんな事、気にならなかった。

彼女が、目を開いていた。


「な、んで?」

もらされた小さな呟き。


「気がついたのか!?」

身を起こそうとしてふらついた彼女の、その身を咄嗟に支える。


「なんで・・・?」

彼女のいつも誇り高くまっすぐな瞳が、揺れていた。

宿敵と共に死んでいる筈では、と訴えていた。


その視線に耐え切れなくて、思わず、目を逸らしていた。


「ごめん」

俺の腕を掴む彼女の手に、かすかに力が入った。


「ごめん、俺は、お前を呪った」


それは敵と同じ事だ。

だけどそうせずにはいられなかった。


「俺と、命を同じくするように」


彼女を失わないために。

そうしてでも、失えなかった!


「俺とお前は、一つの命で生きている

俺が死ねばお前も死ぬ」


彼女に視線を戻して一息に言った俺を、じっと彼女は何も言わず、見つめていた。

そうしてぽつりと聞いた。


「私が死んだら・・・?」

「俺も死ぬ」


彼女の肩が、瞳が揺れて、一瞬後にはその細い体は、俺の胸に倒れこんできた。

大声を上げて泣き出した彼女を、どうして良いかわからずに、俺は強く抱きしめた。


「好きだ」


強く掴まれた腕に、胸に、彼女から、その想いが伝わってきて、俺は始めてそう告げていた。


「好きだ」


咽び泣く彼女がやがて落ち着いた時、すっかり赤くなってしまった顔をあげ、彼女が言った。

その手は、俺を強く掴んだままだった。


「笑って。私、あんたの笑った顔が好き」

ふ、と笑みは自然に漏れた。

「可愛い」

予想外の言葉に何を言うのかと思いながら、二人顔を寄せ合って笑いあった。


そうしてどちらともなく、唇を寄せた。




生きて帰れたら、結婚。


式は彼女の期待通り、皆を呼んで盛大にやろう。

騒ぐのは苦手だけど、彼女が笑うなら、俺も笑える。

共に生きていこう。

二人で年を重ねて、髪が白くなるまで。

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