第3話 ラストバトル2

この世界は、俺が生まれる前に、一度滅びかけたと云う。

全てを呪い滅する存在によって、世界は壊れかけたのだと。

しかしその時、一人の聖者が現れて、その存在は赤子へと転生させられ、世界は事なきを得た。

そこまでが、一般によく知られる話だった。

だが、赤子はどうなったのか。

俺は、その答えを知っていた。




「撃ってええ!」

額から血を流し、膝をついた彼女が、叫んでいた。


既に多くの仲間は、地に伏し、動く事もままならない。

ただ俺だけが、きりりと弓を、引いていた。

目の前には、世界を2度目の危機に陥れた、宿敵。

世界を滅ぼす事はなく、しかしその支配下に置こうとした、憎い相手。

直ぐにでも倒すべき相手を前に、しかし俺の手は震えていた。

知っていたからだ。


「いいのか、人間よ、私が死ねば、その女も死ぬ!」


言われるまでもない!

宿敵の呪いによって、彼女の命が握られている事など、とうに知っていた。

何故ならばこの眼に、何よりも呪いはよく映るのだから。

宿敵を倒した瞬間、彼女の心臓は握りつぶされるであろう。


ここまではっきりと宣言されながら、それでも彼女は叫ぶのだ。

「撃って!!」


それを俺に言うのか!!

他の誰でもない、俺にこそ、お前を殺せというのか。

両腕が震えて、狙いはつけられなかった。

宿敵の狂気を孕んだ笑い声が響く。


「撃ってぇ!」

その身を血に染めながら、地に縛られながら、それでも彼女の眼差しは誇り高く、ゆるぎなく。

まっすぐに俺を見つめて叫んでいた。


敵を倒せと。

美しい世界を、取り戻すために。


俺は、唇を引き結んだ。

そうして弦を張る右手に凝る、力。

まっすぐに見据えた。

仲間たちが、苦闘の末に力を削いだ、宿敵。

息を呑む気配が伝わる。


「お前は女を殺すのかッ」


彼女が微笑む気配がした。




   『うん、約束』




「呪いあれ!」


右手に凝った力を弓を介し、俺は放った。

力の矢は、ひゅぃんと白い弧を描き、宿敵の額へと吸い込まれていった。


「うぐあああああああああ」


額を押さえ絶叫を放つ人型の獣。

やがてその身は、内側から弾けて塵と消えた。

白い光が残り、ひらひらと雪のようの舞い落ちる。

その下に、彼女は倒れ伏していた。




生きて帰れたら、結婚。


しかし彼女の命が、この戦いに縛られている事など、俺はとうに、知っていたのだ。

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