6、青鬼
晴明は涼しい眼差しで駐車場の隅を指さす。桃山はショッピングモールを囲うようなヤシの木と外灯しか見えない。
だが隣にいるシロナも急に緊張感を全身に帯びる。
ふいに青い炎が遠くで揺らいだ。それは宙を
木々と外灯の細長い影の間をチラつく鬼火は、ある瞬間から青い猛火となって大きく燃えあがる。
大きな青い炎の中に、黒く大きな骸骨の影が浮かび上がらせた。
額から二本の角がはえた骸骨が歩いている。
全長は頭からつま先でおよそ二メートルを超え、手足はやたらと細長い。
三日月のように反り上がる長い二本の角のせいで余計に大きく見える。そして手に握るのは物干し竿のような長い刀身の日本刀だった。
「あれが、刀狩り……」
桃山はいきなり現れた敵の異様さに息をのむ。
「通称・青鬼と呼ばれる長刀使いの人斬りだ。刀化現象を発症した者に無差別な勝負を挑み、負けた相手の刀は残らず砕き折られている」
「自分の刀を砕かれた奴は廃人になるって話じゃないか!」
「そう。刀は精神の具現化だ。それが砕かれるということは心そのものを傷つけられるのと変わらない。この一か月だけで六十名の犠牲者が出ている」
自分の心がへし折られた者は無気力と無力感に苛まれ、世間にとって当たり前とされる日常生活全般に支障をきたす。入院する者だって珍しくない。投薬や時間が経てば回復することもあるが、そのきっかけは人それぞれ。傷つき、あるいは壊れた心はそう簡単に治るものではない。
だから、刀化現象は厄介なのだ。
「一日で二人もやられているじゃないか! どうしてそんな危ない奴を放置しているんだよ!」
「青鬼は逃げも隠れもしないんだよ。呼べばこうやって律儀に姿を見せてくれる。ただ単純に、手をつけられないほど強いだけさ」
晴明は無感情に事実を告げる。
「聞いた通りです、ご主人様! この偽善者は平気な顔で他人に危険な真似をさせる外道です」
「おい、シロナ。それはおれが勝てないって意味か?」
桃山はいつもの癖で低い声で威圧する。
「いいえ、決してご主人様を侮っているわけではございません! ただ大事な
慌てて弁解するシロナ。それだけ危険な敵であることには変わりない。
「晴明! お前、おれが一発合格するって言ったな」
「もちろん。君なら十分に勝てると踏んで、この場を用意した。存分に実力を発揮してくれたまえ」
晴明は傍観者のまま。加勢する気配をみせない。
「上等ッ。一丁、鬼退治と行きますか!」
桃山は日本刀を肩に乗せる。
主の覚悟を受け入れたシロナは心配する表情を捨て去り、獣のような獰猛さで青鬼を睨む。
悠然とした足取りで青鬼が駐車場の真ん中に立つ。どこからでもかかってこい。そう挑発するような好戦的な気配を全身に滾らせていた。
「行くぞ、シロナ!」
「御意!」
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