第15話 「さくら…今日は顔色がいいな。」
〇森崎さくら
「さくら…今日は顔色がいいな。」
なっちゃんが…バスタブであたしを抱えたまま、言った。
あたしは…もう…何年も。
こうして、なっちゃんと一緒に…お風呂に入ってる。
そして…なっちゃんは…繰り返し…あたしに、思い出話を聞かせてくれる。
何度も聞いたせいか…『知った事』のような気がするし…
だけど、本当に自分がそこにいたような…気もするし…
…よく分からない。
「さくら、俺に歌ってくれたんだぜ?毎日楽しいって。俺の残したピーマン見ても笑えるってさ。」
…何それ…
なっちゃん…ピーマン嫌いなの…?
「…さくら…」
なっちゃんが…そう言って…あたしを抱きしめる…
…どこか…胸の奥が…
ギュッとなった…
…なっちゃん…
「…な……ち…」
かすかに…出そうになった声を、振り絞ってみる。
もっと…もっとよ…
「…え?」
なっちゃんが、驚いてあたしから離れて…
「さくら…今…」
あたしを見つめた。
「なっ…お……が…い…」
あたしは…必死で…伝えようとした。
「さくら、どうした?何が言いたい?」
「あ…の…人…」
「…あの人?」
伝えたい…
あの人…
サカエさんを…来させないで…って…
「…サカエさんか?」
察してくれたなっちゃんが、そう言って。
あたしは…瞬きで応える。
「サカエさんを、呼ぶのか?」
違う…!!違うの…!!
「…違うのか…」
「…なっちゃ…ん…」
やっと…少しだけ…まともに…名前を呼べた。
なっちゃんは…目いっぱいに涙を浮かべて…
「…さくら…」
あたしの頬を…両手で包んで。
「今…俺の名前を…」
「…なっ…ちゃ……」
「さくら…」
泣きながら…ギュッと、あたしを抱きしめた。
…なっちゃん…お願い…
あたしの声を…もっと聞きたいなら…
あの人を…ここから…追い出して…
それからあたしは…全身の力を振り絞って…
なっちゃんを、抱きしめた。
「さくら…おまえ…」
「なっちゃ…き…きい…て…」
なっちゃんの耳元で、一言ずつ…ゆっくりと、言葉を吐き出す。
「…何だ?何でも聞く。」
なっちゃんは…あたしの頭を…抱えるようにして…
自分の耳に、しっかりと…あたしの口元を近付けた。
「…サカ…エ…さん…こ…わい…」
「…怖い?」
「あた…し…ひ…と…りで…い…いから…」
「……」
「あの…ひ…と……いや…」
「…何か…あったのか?」
「こわ…い…」
「……」
それから…言葉を出さなくなったあたしの頭を…
なっちゃんは…愛おしそうに…撫でてくれた…
そして…
「…さくらを今すぐ一人にするわけにはいかない。だけど…さくらが怖いなら、急いで次の人を探すから。」
考え抜いた…って感じで…
なっちゃんは、そう言った。
〇高原夏希
さくらが…俺の名前を呼んだ。
それが嬉しくて、俺は…バスタブで、さくらを抱きしめて泣いた。
だが…その後に聞こえた言葉は…
『サカエさんが怖い』
…いったい、何があったんだ?
手放しで喜ぶわけにはいかず、何となくだが…さくらが喋れた事をサカエさんに言わないでいようと思った。
「さくら、行って来るよ。」
いつものように、さくらの頭を撫でて…
「…大丈夫。何とかする。」
耳元でそう言って、部屋を出た。
「サカエさん、後は頼んだよ。」
いつものように、玄関でサカエさんにそう言うと。
「行ってらっしゃいまし。」
サカエさんも、いつものように返して来た。
とりあえず…事務所に行って、引き出しからサカエさんの履歴書を取り出す。
…もう12年近く付いてくれている人だ…
俺には、さくらの言った事が信じ難いが…
「…
サカエさんは、実家にはもう誰もいないから。と、里帰りもしない。
一応実家の住所はあるが…
「……」
俺は少し考えて、部屋を出た。
「あ、ナオト。」
ロビーでナオトを見付けて駆け寄る。
「おう。何、出かけるのか?」
「ああ…ちょっと今日は戻れないかもしれない。」
「変わった事か?」
「超プライベートだよ。」
俺が意味深にそう言うと、ナオトは目を丸くして。
「何か分からないけど、超プライベートな事が上手くいくといいな。」
俺の背中をポンポンと叩いた。
「サンキュ。」
俺は履歴書を片手に、その住所に向かってみた。
…考えてもみなかった。
サカエさんは、とてもいい人だと思ってたし…身元もちゃんとした人だと…
…調べたか?
調べ…
…思い出せない。
なぜだろう。
なぜ、サカエさんを信用できる人だと思って、雇う事にしたんだ?
それが思い出せないなんて…
どうした?
「……」
住所の場所は、公園だった。
もちろん家などないし…その公園も新しい物ではないだけに、サカエさんは偽りを書いた事になる。
なぜ、さくらがあの人を怖がるのか…
それが知りたかった。
「ただいま。」
何の前触れもなく、俺が家に戻ると。
「…旦那様?どうされたんですか?」
サカエさんは…慌てた様子もなく、さくらの部屋から出て来た。
「ちょっと色々大変な事があってね…サカエさん、申し訳ないけど、買い物に行ってもらえないかな?」
買い物リストとお金を出しながらそう言うと。
「わたくしがですか?」
サカエさんは、少し…嫌そうな顔をした。
「…いつも買い物に行ってるのでは?」
「行ってますが…今…さくらさんのマッサージをしていたので…」
「続きは俺がやるからいいよ。これ、頼むよ。」
「……」
「俺は、連絡を待たなきゃいけないから、出かけられないんだ。」
申し訳なさそうに言うと。
「…分かりました。行ってまいります。」
サカエさんは観念したように、買い物リストとお金を手にした。
サカエさんが出かけたのを見届けて。
俺は、さくらの部屋に入る。
「…さくら。」
眠っているのか…?
さくらの頬に触れる。
「……」
ゆっくり、さくらの目が開いて…
「…さくら…?」
そのさくらは…今朝のさくらとは違うように思えた。
なぜだ…?
今朝は…俺の名前を呼んだと言うのに…
まるで…また数ヶ月前に戻ったようじゃないか…
「さくら…俺が分かるか?」
視線は…俺にあるが……瞬きをしない。
「……」
俺はモヤモヤする気持ちを抑えて…買って来た物を取り付ける事にした。
…ビデオカメラだ。
監視という名目で…だ。
盗撮になってしまうが、仕方ない。
だが…この部屋を知り尽くしているサカエさんに、バレずに撮影するなんて…可能だろうか。
俺は悩み抜いた結果、ビデオカメラはフェイクとして使う事に決めた。
そして…サカエさんが帰るのを待った。
車の音で、サカエさんが帰って来たと思い、俺はベッドの脇に座ってそれを待った。
「ただいま戻りました。」
「申し訳なかったね。」
サカエさんが戻って来たのは、出掛けて一時間半後だった。
その間に俺は、さくらの部屋の本棚に、ビデオカメラを仕込んだ。
一応…見えないようにはしたが、わざと本の並びを変えた。
…ほんの少しだけ。
きっと、そんな些細な違いにも…サカエさんは気付くはずだ。
「これで大丈夫ですか?」
俺の書斎で商品を並べながら、サカエさんが言った。
大した物は頼んでないが、店をいくつが回らないといけないように頼んでいた。
…本当なら、もっと時間がかかっていいはずなのに…
70歳近いサカエさんが、一時間半で帰って来れるとは…驚きだ。
「ありがとう。助かったよ。」
「いえ…さくらさんのマッサージは、終わりましたか?」
「ああ。今日は調子が悪いのかな…目を覚まさない。」
「そうですか…そういう日もございますよ。」
サカエさんはそう言うと。
「では、ちょっとお顔を見てまいります。」
さくらの部屋に向かおうとした。
「あ、サカエさん。」
「はい。」
「先に、お茶入れてもらえないかな。」
「かしこまりました。」
「疲れてるのに、悪いね。」
「いいえ。」
サカエさんがキッチンに入るのを見届けて。
俺は、さくらの部屋に行ってビデオカメラのスイッチを入れた。
そして、何食わぬ顔で書斎に戻った。
「旦那様、お茶です。」
「ありがとう。」
サカエさんからお茶を受け取って、俺は椅子に深く座って息をついた。
「お疲れですか?」
「いや、平気だ。ただ…少し休むよ。」
「そうなさって下さい。さくらさんの所でお休みになられますか?」
「そうしたいが…まだ連絡が入るかもしれないから、ここでいい。」
「分かりました。」
そんなやり取りをして…サカエさんはさくらの部屋に向かった。
…俺が家に居たら、何もしないかもしれない。
だけど、カメラの存在に気付けば…俺が何かを疑っていると気付いて、迂闊に何もできないはずだ。
本当はその夜にでも確かめたかったが…俺は時期を待った。
それよりも…
その翌朝、いつものようにさくらとバスタブに浸かるも…
昨日の事は夢だったのかと思うほど…さくらは無表情だった。
俺は仕事に行く前に、ビデオカメラを手にしてみた。
すると…
「旦那様。」
背後で、サカエさんの声。
「……」
無言で振り向くと。
「それは、いったい…どういうおつもりでしょう。」
サカエさんは、何も感じていないような顔で…
俺に、低い声でそう言った。
「え?これ?」
俺はおどけた顔で言う。
「俺がいない間の、さくらの様子を知りたいと思ったからだが…」
まあ、嘘だってバレるよな。
バレるために言ってるんだから。
「私がお伝えしているだけでは、満足していただけないという事ですか?」
「うーん…正直そうなのかな。話だけじゃなくて、見たいんだよ。だからって、俺はずっとついていられないし…それで、これを置いてみた。」
カメラを手にして言うと。
「…まるで、盗撮みたいに…ですか?」
サカエさんは、今までと違う…穏やかなサカエさんの表情を消して言った。
「見える所に置いていたら、サカエさんだって普段通りに出来ないだろ?自然な二人が見たかったんだ。」
「……」
あくまでも、笑顔の俺。
そんな俺を、サカエさんは無言でじっと見て。
「…そうですか。ですが、そういうのはプライバシーの侵害です。」
少しだけ口元を緩めたが…張り詰めた声で言った。
「俺の家なのに?」
「旦那様のお宅でも、さくらさんと私個人のプライバシーに関わります。」
「…そうか…」
俺は手にしたカメラをしばらく眺めて。
「…じゃあ、サカエさん…少しの間、旅行でもしてもらえるかな。」
顔を上げて、言った。
「……はっ?」
「しばらく、さくらと二人きりになりたい。」
「い…今、ずっとついていられないとおっしゃったじゃないですか。」
「そうだけど…気が変わった。」
そうだ。
しばらく、俺がさくらについていればいい。
仕事は…どうにでもなるはずだ。
なぜ今までそうしなかったんだろう。
俺は…バカだ。
「…私が、何かしましたか?」
「そうじゃないよ。サカエさんは、本当に良くしてくれてる。感謝してるよ。」
「じゃあ…なぜ…」
俺はベッドの上で眠っているさくらを見て…
「…どうしてだろうね。さくらは、良くなってきたと思ったら…また元に戻る。」
サカエさんに言った。
「それは…そういうご病気だからでは…?」
「…さくらが言ったんだ。」
「何を…ですか?」
「サカエさんが怖い。あの人を来させないで。って。」
「え………」
「さくらに、何をしてる?」
「……」
サカエさんは、エプロンの裾を握ったまま無言になった。
どれぐらいそうしていたか…
俺は、サカエさんが何か言うのを待った。
外からは雨の音。
俺が窓の外を見ると…
「…旦那様…今の生活が大事ではないですか?」
サカエさんが、小さな声で言った。
「さくらが大事だ。サカエさんには、ずっと世話になって…感謝してる。だが、さくらが怯えている以上…何があったか話してもらわないと。」
「……」
「今更だけど、履歴書の住所に行ったら公園だった。サカエさん、あなたは…ずっと俺を騙してここにいたって事か?いったい、何が目的だ?」
俺が低い声で言うと。
「…私は…ある方から…さくらさんの監視を頼まれてまいりました。」
サカエさんが…予想だにしなかった事を話し始めた。
「…監視?」
俺が首を傾げてサカエさんを見ると。
「…ここでお話しするのは…場所を変えませんか?」
サカエさんは、さくらに視線を向けて言った。
「…分かった。」
俺はビデオカメラをベッドのサイドボードに置いて、サカエさんと部屋を出た。
「…さくらさんが、研修でアメリカに行っておられた時に…出会われたのですよね?」
リビングでソファーに座ると、サカエさんも俺の前に…遠慮がちに座って話し始めた。
「ああ。」
「その時、さくらさんの指導役をしていたのが…私の夫です。」
「……」
指導役…
「指導って…何の?」
「…私は…警察の秘密機関で働いていました。」
「……」
「さくらさんは、そこで生まれ育った方で…とても優秀な逸材でした。」
サカエさんの言っている意味が分からなかった。
何を言ってるんだ?
警察の秘密機関があって、さくらがそこの逸材って…
「アメリカでの研修期間中…さくらさんは訓練所から抜け出されました。」
「…留学と聞いた。」
「口外はタブーな組織ですから。」
「……」
それで…?
それで、さくらには秘密が多かったのか…
「優秀な逸材でしたが…大きな欠点もありました。」
「…大きな欠点?」
「感情的になると、誰にも止められないような能力が働いてしまうんです。」
「……」
もはや…俺には想像すら出来ない話だった。
俺の知っているさくらは…
ギターを持って、カプリで歌って。
飛び跳ねるように、俺に抱きついて…キスをして…
俺の腕の中で、心地いい笑顔で眠る。
「…出会った時、14だったはずだが…」
「その組織の施設で生まれた者は、生まれた時からそういう教育を受けるんです。14歳と言えば、もう訓練の最終課程にさしかかった頃です。」
「…さくらには、ヒロという知り合いがいたが…彼も?」
「はい。ヒロは…現在も立派に任務を遂行しております。」
「……」
任務…
サカエさんの言葉は…全てにおいて理解し難い物だった。
質問したくても…何を聞いていいかさえ浮かばない。
…あ…
「さくらが事故に遭ったのは…何かその組織と関係あるのか?」
そうだ。
あの事件…
「ジュエリーショップでの銃撃戦…さくらは…事故に遭ったんじゃなく…あの事件に巻き込まれたんじゃないのか?」
サカエさんを見つめた。
サカエさんは、少しだけ唇を食いしばって。
「…あの事件で…一般人が亡くなりました…」
覚悟を決めたような表情で…つぶやいた。
「ああ、知ってる。丹野 廉…俺の後輩だ。」
「…旦那様…これ以上の事を…お知りになりたいのですか?」
「…え?」
「……」
サカエさんは、エプロンからハンカチを取り出すと。
「…何も知らないまま…このまま…一緒に居るだけじゃ…ダメなのですか?」
目頭を押さえた。
「一緒に居るだけでも幸せだ。だが、俺にだって欲はある。さくらを…元通りのさくらにしてやりたい。笑ったり泣いたり…あの頃のさくらに会いたいんだ。」
本心だった。
眠り続けるさくらを…
視線の定まらないさくらを…
ずっと…変わらず愛して来た。
だが…やはり、寂しい。
俺の名前を呼ぶさくらに会いたい。
「…全てを知る事で…さくらさんを傷付ける事になっても…ですか?」
「傷付ける…?」
「さくらさんには、当時の記憶はありません。それがあると…恐らく彼女は命を絶つでしょう。」
「……」
命を…絶つほどの…出来事。
「…それでも、さくらの事だ。全部…俺は全部受け止める。話してくれ。」
「……」
俺の言葉に、サカエさんはしばらく黙っていたが…
「…あの銃撃戦で…」
サカエさんは…
膝の上で両手を握りしめて言った。
「…さくらさんは…目の前で…ご友人を撃たれ…制御不能になりました。」
「…制御不能…?」
「組織を抜けた者が…銃を持って…テロリスト達…十数人全員を一人で…射殺したんです。」
「……」
「その場で…さくらさんの…記憶は消されました…」
「……」
座っているのに…
眩暈がした気がした…
さくらが…?
テロリストを…一人で…?
「……」
「……」
長く、重い沈黙が続いた。
…信じられない。
さくらに、そんな事ができるはずがない。
テロリスト集団相手に…一人で…だなんて…
俺が途方に暮れていると。
「…私は…さくらさんの記憶が戻らないよう…任務としてまいりました。」
サカエさんが、うつむいたまま言った。
「…さくらは…事件以外の事も…全部忘れてるのか?」
「…どうでしょう…ただ…何か強い意識が働いていて…私のできる事は…与えられた任務を繰り返し行う事だけです。」
「…サカエさんの任務は、さくらの記憶が戻らないようにする事…と言ったね。」
「はい…」
「事件の記憶が戻ったら…さくらが命を絶つ…と?」
「…その可能性は大きいです。」
「…なら、もういいよ。」
俺はゆっくりと立ち上がって…窓の外を見た。
「…え?」
「その記憶が戻ったとしても…俺が守る。」
「……」
「だから、サカエさん…」
俺がサカエさんを振り返った時だった。
ガシャーン
さくらの部屋から、ガラスの割れる音が聞こえた。
俺が駆け出すと、サカエさんも追って来た。
「さくら!!」
ドアを開けて部屋に入ると…
「…さくら…?」
さくらは…ベッドの上で座っていた。
「さくら…起き上れて…」
俺がさくらに近寄ると…
「旦那様!!危ない!!」
背後でサカエさんが大声を出したが…俺には、何が何だか分からなかった。
さくらを抱きしめようと近付いたが…
さくらは簡単に俺の腕を取ってベッドにうつ伏せにすると、その腕を後ろでねじ上げて首の後ろに膝を落とした。
「ぐっ…」
何だ…?
何が起きてる?
これは…さくらなのか…?
「旦那様っ…!!さくら!!その人は敵じゃないのよ!!あなたの味方よ!!」
「……」
「10558、すぐにその人の手を離しなさい。」
「……」
「10558!!早く!!」
サカエさんが…そう叫ぶと…
さくらは、ゆっくりと俺の上から降りて…
ドサッ
俺が顔を上げた時には、さくらは床に倒れていた。
「さくら!!サカエさん…何を…?」
さくらを抱き上げながらサカエさんに言うと。
「…さくらさんは、時々…こうやって事件当日に戻られるんです。」
サカエさんは…信じられない事を言った。
「事件当日に戻ってしまうと…旦那様も私も…敵になります。」
「……敵…」
「私も…もう歳です。」
「……」
「こんな状態のさくらさんに…いつまで対応できるか分かりません。」
サカエさんは、俺が抱えたさくらに近付いて。
「…さくら…あなたは本当に…小さな頃からみんなに愛されて…」
そう言って…さくらの頭を撫でながら…泣いた。
その夜、何もなかったかのように…さくらを抱きしめて眠った…
いや、眠れなかったが…さくらと眠った。
翌朝、サカエさんの姿はそこにはなく。
同じ組織の人間だと名乗る者が訪れた。
サカエさんより若い…細身だが、鍛えられた感じの長身の女性。
「サカエさんから全部聞いたそうですね。」
「ああ。」
「でしたら話は早いです。私は、さくらさんの事件の記憶が戻らないように管理します。ただ、その他の記憶については極力戻るよう努力します。」
「そんな事が出来るんですか?」
「本人の…忘れたくない事への意識の働き次第です。」
忘れたくない事への…意識の働き…
さくらは…俺との事を…
忘れないでいたいと思ってくれているだろうか。
そして。
その『新しいサカエさん』が来て三日後。
俺は…
さくらの事件の記憶を消されていた…。
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