第6話 アース再生
「おはようございます」
聞いたことのない声で目が覚める。
科学者は薄いシートの上で起き上がった。
体には布団がわりにアースの小さなマントがかかっていた。
「これは、お前が?」
マントを返すとアースはすぐに受けとる。
「体温が低下していました。暖める必要がありました」
やはり、さっきまでの、昨日までの、アースの声とは違う。どう違うかと言われると難しいが。
「アース、声はどうしたんだ?」
「電子音を作るエネルギーが足りません。空気振動に切り替えました」
それはつまり、呼吸器とのどを使った普通の人間のしゃべり方。
確かに今の方が人間らしい感じがする。
「どうぞ」
アースが金属の器に入ったスープのような物を差し出した。
「これ……は?」
驚いた様子の科学者だが空腹に負けて腕をのばす。
「熱いので気をつけてください」
器の下に布を挟みながらアースが言う。
木でできた小さなスプーンが添えられている。
それだけで涙が出そうになった。
これらは科学者のためにしてくれた気遣い。
制御をかけなければ自分達が殺される。そう論じていたのはなんだったのだろうか。
食べてみれば味気ないスープだが緑の葉と細かく割いた肉が入っていた。
この、茶色の大地のどこにこんな物があったのだろうか。
辺りを見回してみれば一ヵ所には枯れ木の山が置いてある。
壁を作る材料のようだ。
高さを合わせた岩が並べられ床のように平らになっている。
アースはここに家でも作るつもりだろうか。
昨日掘った水はまだホースからちょろちょろと出ていて、小さな水溜まりを作っている。
すぐに砂に吸い込まれるようであふれだすことはなさそうだ。
「お前は食べたのか?」
自分の器が空になりようやく人心地ついた科学者がきく。
小さな鍋にはまだ少量のスープが残っていた。
「必要ありません。太陽光、風、熱、いずれかがあれば僕は死にません」
そう、アースは空腹では死なない。そういう風に造られたもの。
またやるせない罪悪感が科学者を襲う。
「お前は、……怪我をしているじゃないか!?」
アースの右膝が裂け透明な液体が流れ出ているのに気付いた。
怪我をした本人も気づいていなかったようで、傷口をみてチカと目を光らせる。
「痛みはありません。素材を得ればすぐに修復できます」
「ならちゃんと食べろ」
科学者が器にスープを注ごうとするとアースは止める。
「必要ありません。それでは質量が足りないので、これで十分です」
アースは枯れ木の山に近づき、細い枝を折ると口へ運ぶ。
バリボリと音がしてごくんと飲み込む。
6歳児が小枝を貪る姿は異様だ。
だが、あの人形に見つめられるような恐怖を感じない。
アースの体内では、すぐに細胞が活性化し傷口は修復された。
今までは修復するのに困らない栄養素を摂ってこれた。傷ができて塞がらずにいるなんてことはあり得なかった。
人間でいうならば確実に栄養失調。
また、流れ出た液体がどれ程の量かの分析もできない。
体液に色を付ける必要があるのではないか。早急に取りかからねば。
思考の回り出した科学者は、残りのスープを自分の器に入れ胃の中に流し込んだ。
何だかわからない気力が湧き出ていた。
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